第445回:「マツダ+ヒュンダイ」でシナジー効果!?
これがイタリアの“併売ディーラー”だ!
2016.04.15
マッキナ あらモーダ!
複数のブランドがひとつの店に!?
かつて海外旅行を始めたころ、各国を訪れるたびに楽しかったのが、クルマの「併売ディーラー」だ。日本で一般的な「1ブランド専売ディーラー」と違い、ひとつの営業所敷地内で、複数のブランドが扱われているのである。
今ボクが住むイタリアもしかり。日本では想像もつかないような取り合わせで、複数のブランドを扱っている店をよく目にする。アメリカのメガディーラーと比べてせまい敷地で営んでいるため、より面白みがある。
1店の取り扱いブランドが増えたり減ったりすることも珍しくない。ディーラーの経営者が、地区の代理権を獲得、または手放すことが頻繁なためだ。
そういえば少し前、ある日系ディーラーで、取材している最中に来客があった。クルマを見にきたようでもない。そこで本人が帰ったあと営業所長に聞いてみたら、「隣接県の大ディーラーの社員が、この地域の担当営業所にならないかって話をもってきたんだよ」という。そのくらい、ディーラーシップや営業所開設権の取引は日常のことなのである。
わが街シエナでかつてオペルを売っていた店は、近隣のディーラーがトヨタの地区代理権を手放したのを機に、1998年からトヨタ車を販売している。ダイハツブランドも、欧州撤退まで併売していた。
そのトヨタディーラーが2014年から、敷地の一角でシュコダも扱い始めた。シュコダは、フォルクスワーゲン・グループの、チェコを本拠地とするブランドである。イタリアでは、「ゆとりあるクルマが欲しいけど、アウディほどのプレミアム性は求めない」という実用性重視のユーザーに、アウディと同じプラットフォームや基幹技術が用いられていることもあって、一定の人気がある。これまでシュコダは、ふたつ隣の町まで行かないと販売店がなかったから、ファンには朗報だろう。
実はこのトヨタディーラー、隣の県ではすでにフォルクスワーゲン・ブランドのディーラーを営業していた。「そのご縁だよ」と、所長は教えてくれた。
マツダとヒュンダイの幸せな共存
一方、郊外にあるマツダ販売店は、10年にわたる併売の歴史がある。営業のシモーネ・ガザリーニ氏によると、1986年の創業時はマルチブランドの販売店としてスタート。89年に、まずヒュンダイ専売の正規ディーラーとなった。そして17年後の2006年、マツダの正規販売も開始したという。
かつては家具工場だったという社屋のファサードは、真ん中から左側がヒュンダイ、右側がマツダに割り当てられている。中に入ると、両ブランドの間は歓談スペースなどが設けられているものの、通り抜け自由だ。
シモーネ氏によると、同店における販売比率はヒュンダイが圧倒的に多く、マツダはその8分の1。2015年のマツダ販売台数は85台だったという。近年はヒュンダイもSUVを充実させ、高価格化している。プリウス・キラーといわれるハイブリッド車「アイオニック」も発売秒読みだ。マツダとバッティングするのではないか?
その疑問に、シモーネ氏は「ノー」と答えた。理由は、マツダには孤高のブランドイメージがあるからだという。シモーネ氏は続ける。「マツダのお客さまは、他メーカーと比較せずに、指名買いされる方が大半です」。
さらに「ヒュンダイを見にきたお客さまが、『お、こっちもいいじゃないか』と言って、最終的にはマツダをお選びになるケースもあります」とも付け足した。逆に、欧州でマツダのラインナップにないシティーカーを求める顧客は、1.1リッターの「ヒュンダイi10」が拾ってくれるという。
相乗効果が期待できる
ここまでは2ブランド併売のケースを紹介したが、わが街には、なんと4ブランドを一緒に扱っている店もある。
古い建物を改造したひとつ屋根の下で、キア、プジョー、シトロエン、そしてボルボを売っているのだ。4ブランドのコーナーは、まるで列車のように、というか、直列つなぎにした電池の如く並んでいるのだが、各コーナーは、ブランドごとのCI(コーポレート・アイデンティティー)にならった内装が施されている。
セールス歴21年のニコラ・セヴィエリ氏によると、販売台数の比率は、キア6、プジョー・シトロエン3、そしてボルボ1という。参考までに記すと、近年ボルボの年間販売実績は、70~80台といったところだ。
「(キアのSUVである)『スポルテージ』を見にきたお客さまが、最終的にはボルボの『V40』をお求めになったケースもありますよ」と、ニコラさんは話す。ヒュンダイ/マツダのディーラー同様、自由往来できるレイアウトによる効果といえよう。
販売台数が限られた輸入車を扱うディーラーが健全であるために、併売は、最も効果的かつ、不可欠な手段といえる。
併売で効果を上げているディーラーを見学していて、くしくも思いだしたのは小学校低学年時代のことだ。ボクは何も悪いことをしていないのに、2人用の机で隣に座る女の子は、ノートや教科書を巧みに用いて盾を作ったものだ。気がつけば今も、女房が寝るときには、ボクとの間に枕でバリアーを作る。
広い心を持ってつい立てを取り払えば、何かしら良い結果が得られるんじゃないだろうか……。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
-
第941回:イタルデザインが米企業の傘下に! トリノ激動の一年を振り返る 2025.12.18 デザイン開発会社のイタルデザインが、米IT企業の傘下に! 歴史ある企業やブランドの売却・買収に、フィアットによるミラフィオーリの改修開始と、2025年も大いに揺れ動いたトリノ。“自動車の街”の今と未来を、イタリア在住の大矢アキオが語る。
-
第940回:宮川秀之氏を悼む ―在イタリア日本人の誇るべき先達― 2025.12.11 イタリアを拠点に実業家として活躍し、かのイタルデザインの設立にも貢献した宮川秀之氏が逝去。日本とイタリアの架け橋となり、美しいイタリアンデザインを日本に広めた故人の功績を、イタリア在住の大矢アキオが懐かしい思い出とともに振り返る。
-
第939回:さりげなさすぎる「フィアット124」は偉大だった 2025.12.4 1966年から2012年までの長きにわたって生産された「フィアット124」。地味で四角いこのクルマは、いかにして世界中で親しまれる存在となったのか? イタリア在住の大矢アキオが、隠れた名車に宿る“エンジニアの良心”を語る。
-
第938回:さよなら「フォード・フォーカス」 27年の光と影 2025.11.27 「フォード・フォーカス」がついに生産終了! ベーシックカーのお手本ともいえる存在で、欧米のみならず世界中で親しまれたグローバルカーは、なぜ歴史の幕を下ろすこととなったのか。欧州在住の大矢アキオが、自動車を取り巻く潮流の変化を語る。
-
第937回:フィレンツェでいきなり中国ショー? 堂々6ブランドの販売店出現 2025.11.20 イタリア・フィレンツェに中国系自動車ブランドの巨大総合ショールームが出現! かの地で勢いを増す中国車の実情と、今日の地位を築くのに至った経緯、そして日本メーカーの生き残りのヒントを、現地在住のコラムニスト、大矢アキオが語る。
-
NEW
フォルクスワーゲンTロックTDI 4MOTION Rライン ブラックスタイル(4WD/7AT)【試乗記】
2025.12.20試乗記冬の九州・宮崎で、アップデートされた最新世代のディーゼルターボエンジン「2.0 TDI」を積む「フォルクスワーゲンTロック」に試乗。混雑する市街地やアップダウンの激しい海沿いのワインディングロード、そして高速道路まで、南国の地を巡った走りの印象と燃費を報告する。 -
NEW
失敗できない新型「CX-5」 勝手な心配を全部聞き尽くす!(後編)
2025.12.20小沢コージの勢いまかせ!! リターンズ小沢コージによる新型「マツダCX-5」の開発主査へのインタビュー(後編)。賛否両論のタッチ操作主体のインストゥルメントパネルや気になる価格、「CX-60」との微妙な関係について鋭く切り込みました。 -
NEW
フェラーリ・アマルフィ(FR/8AT)【海外試乗記】
2025.12.19試乗記フェラーリが「グランドツアラーを進化させたスポーツカー」とアピールする、新型FRモデル「アマルフィ」。見た目は先代にあたる「ローマ」とよく似ているが、肝心の中身はどうか? ポルトガルでの初乗りの印象を報告する。 -
NEW
谷口信輝の新車試乗――ポルシェ911カレラT編
2025.12.19webCG Movies「ピュアなドライビングプレジャーが味わえる」とうたわれる「ポルシェ911カレラT」。ワインディングロードで試乗したレーシングドライバー谷口信輝さんは、その走りに何を感じたのか? 動画でリポートします。 -
ディーゼルは本当になくすんですか? 「CX-60」とかぶりませんか? 新型「CX-5」にまつわる疑問を全部聞く!(前編)
2025.12.19小沢コージの勢いまかせ!! リターンズ「CX-60」に後を任せてフェードアウトが既定路線だったのかは分からないが、ともかく「マツダCX-5」の新型が登場した。ディーゼルなしで大丈夫? CX-60とかぶらない? などの疑問を、小沢コージが開発スタッフにズケズケとぶつけてきました。 -
EUが2035年のエンジン車禁止を撤回 聞こえてくる「これまでの苦労はいったい何?」
2025.12.19デイリーコラム欧州連合(EU)欧州委員会が、2035年からのEU域内におけるエンジン車の原則販売禁止計画を撤回。EUの完全BEVシフト崩壊の背景には、何があったのか。欧州自動車メーカーの動きや市場の反応を交えて、イタリアから大矢アキオが報告する。
