ジャガーXF 20d ピュア(FR/8AT)/XF 25t プレステージ(FR/8AT)
進化は止まらない 2016.04.26 試乗記 ボディーにアルミニウムを大々的に採用し、先進的なインフォテインメントシステムを搭載するなど、一足飛びの進化を遂げたジャガーの新型「XF」。その実力やいかに? 注目の2リッターのインジニウム・ディーゼルエンジン搭載車と、同じく2リッターガソリンエンジンを搭載する中核グレードに試乗した。XFをご存じない?
ジャガーXFがフルモデルチェンジを果たしたと聞いて、すぐに反応できる人は相当のクルマ好きだろう。
三重県で行われたメディア試乗会の様子を3人の友人に話してみたが、残念なことに誰一人としてXFがモデルチェンジしたことを知らなかったし、そもそもXFがどういうジャガーなのだということも認識していなかった。3人ともクルマには人並み以上に興味と関心を抱いていて、ひとりはルノーに、もうひとりはレンジローバーに乗っている。それでもXFは知らなかった。
「一番大きなサルーンが『XJ』で、去年出た一番小さなサルーンが『XE』。XFはその中間のサルーンで、メルセデスの『Eクラス』やBMWの『5シリーズ』、『アウディA6』なんかをライバルに想定しているんだよ」
そう解説しても、街で走っているところを見た覚えがないという。
「クラシックなカタチをしていて、こういう風に鼻先にヒョウのマスコットが付いているのがジャガーなんだよね?」
手のひらを曲げてマスコットをまねてくれたが、それぐらいジャガーのイメージを明確に持っているのだ。そこで、XJ以下のXF、XEはモダンなスタイルをしていて、クラシック調は一切姿を消したと説明すると、3人とも「そうなんだぁ」と驚いていた。
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一足飛びの進化
今度のXFは、大きく口を開けたフロントグリルとファストバックスタイルが特徴的な先代とよく似たカタチをしている。
でも、よく見るとフルLEDのヘッドライトを採用していたりして、ところどころで違っている。ボディーサイズとディメンションも変わっていて、先代よりも全長を10mm短く、車高を5mm低くしながら、ホイールベースを50mmも延ばして伸びやかなスタイルと広い車内空間を実現した。
外からは見えないけれども、最も大きく変わったのがボディーとシャシーにアルミニウムを75%も用いたことで、これはXEにも準じている。大幅なアルミニウムの採用によって、最大で190kgもの軽量化に成功しているという。
車内も大きく変わった。すぐに目に付くのは、物理的なメーターがなくなり、12.3インチの「TFTインストルメント・クラスター」がメーター類を表示するようになった点だ。センターには10.2インチの静電式タッチスクリーンのインフォテインメントシステム「InControl Touch Pro(インコントロール・タッチ・プロ)」が装備された。
それらによって、ドライバーの目の前に大きくカーナビゲーション画面を表示できるようになったし、InControl Touch Proでは進化したSSDナビゲーションシステムや10GBのメディアストレージを備え、スマートフォンのようなタップ、スワイプ、ピンチなどで操作することができる。
ボディーとシャシー構造から始まって、ドライバーとのインターフェイス、コネクティビティーにいたるまで、クラシックどころか最新モダンである。
インジニウム・ディーゼルはパワフルで静か
さらには、自社で開発し製造している新しいコンセプトのエンジン「インジニウム」シリーズ第1弾となる2リッター4気筒ディーゼルエンジンを搭載しているのである。
2リッター4気筒のディーゼルエンジンというと他のヨーロッパメーカーも製造しているが、このインジニウムは最大トルクが43.8kgm(430Nm)もある。他は40.8kgm(400Nm)未満が多い。
まずは、そのディーゼルを搭載した「ピュア」(車両価格は635万円)で名古屋の街中から走りだし、高速道路に乗った。
目の前の「TFTインストルメントクラスター」が表示するメーター類とInControl Touch Proがとても見やすく、使いやすい。多機能なので、時間を掛けて使い込んでいくうちにもっとなじんでくるだろう。自分のスマートフォンを接続しての操作や音声入力に習熟したら完璧だ。
第一印象では、インジニウム・ディーゼルは期待以上の加速を示している。やはり430Nmの最大トルクはだてではなく、少しのアクセルペダルの踏み込みだけで力強く加速していく。
このディーゼルエンジンも100km/hでの巡航では1850rpmぐらいにしか過ぎない。1850rpmしか回っていないから静かなものだ。ディーゼルというと、ひと昔前までは騒音と振動が付きものだったが、現代のクリーンディーゼルではそれらとは無縁だ。
また、同じインジニウム2リッターディーゼルエンジンを積むXEとも比較してみたが、巡航中の車内の静粛性はXFの方が明らかに優れていた。
XFの高速巡行が優れているのはインジニウム・エンジンだけが理由ではない。組み合わされている8段ATの優秀性も無視できないだろう。走行状況に応じて、賢くキメ細かく変速をしていく。もちろん、変速は素早く、ショックも皆無だ。このコンビネーションが高速巡行を快適なものにしていることは間違いない。
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アルミボディーは山道で映える
ガソリンエンジンを搭載したXFの「プレステージ」にも比較試乗することができた。ガソリンエンジンゆえにディーゼルよりもアクセルペダルを深く踏み込んで回転させる必要がある。2リッター4気筒ターボで加速感は必要十分。エンジンの違いによる加速の感触はまったく違うので、購入する際には試乗は必須だ。
ボディーとシャシーにアルミニウムを75%も用いた効能は、ワインディングロードで発揮された。ひと回り小さなサイズのクルマを運転しているかのような軽快感がある。ハンドリングもスポーツカーのように鋭いというわけではないが、とても正確だ。小さくないサルーンなのに、コーナリングが楽しい。これはディーゼルもガソリンも変わらないXFの美点だろう。
山道で使いたいのが、ダイナミックモードだ。エンジンのレスポンスが鋭くなり、より高回転でシフトするように設定が変更されるから思い通りに運転しやすい。
ただし、XFには、ノーマルのほかにダイナミック、ウインター、エコと4つの走行モードが備わっていて、センターコンソールに切り替えスイッチがあるのだが、これが使いにくい。間違って、両隣にあるESPオフスイッチやアイドリングストップのオフスイッチを押しそうになってしまう。間違ってESPオフスイッチを押してしまったら危ないから早急に改良が求められる。それがXF最大の要改良点ではないだろうか。
新型XFはライバルのドイツ3ブランドや「レクサスGS」などに拮抗(きっこう)、あるいはそれらを凌駕している。特にディーゼル版は実力が高く、価格も戦略的だ。前述した走行モードボタンとアイドリング再スタート時のショックの大きさ以外の短所は見当たらず、魅力的な高級中型サルーンだと思う。その内容はクラシックどころか、とても今日的でジャガーのイメージを革新している。
(文=金子浩久/写真=小林俊樹)
テスト車のデータ
ジャガーXF 20d ピュア
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4965×1880×1455mm
ホイールベース:2960mm
車重:1760kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:180ps(132kW)/4000rpm
最大トルク:43.8kgm(430Nm)/1750-2500rpm
タイヤ:(前)225/55R17 101W/(後)225/55R17 101W(コンチネンタル・コンチプレミアムコンタクト5)
燃費:16.7km/リッター(JC08モード)
価格:635万円/テスト車=690万6050円
オプション装備:メタリックペイント(9万3000円)/マニュアルリアサイドウィンドウブラインド(3万8000円)/電動リアサンブラインド(5万7000円)/アドバンスドパークアシストパック+サラウンドカメラ(36万8050円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:3438km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター
ジャガーXF 25t プレステージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4965×1880×1455mm
ホイールベース:2960mm
車重:1720kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:240ps(177kW)/5500rpm
最大トルク:34.7kgm(340Nm)/1750rpm
タイヤ:(前)245/45R18 100W/(後)245/45R18 100W(コンチネンタル・コンチプレミアムコンタクト5)
燃費:11.4km/リッター(JC08モード)
価格:668万円/テスト車=719万8050円
オプション装備:メタリックペイント(9万3000円)/シートヒーター(5万7000円)/アドバンスドパークアシストパック+サラウンドカメラ(36万8050円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:3477km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター