第5回:クルマ好きの桃源郷へようこそ
輸入車チョイ乗りリポート~オーバー2000万円編~
2016.05.11
JAIA輸入車試乗会2016
クルマ好き垂涎(すいぜん)のスーパースポーツや、名だたる名門のプレミアムカーが名を連ねるお値段2000万円オーバーの世界。今回はそんな夢の世界のクルマにチョイ乗り。webCG編集部員が注目したクルマは、くしくも4台すべてが英国車となった。
格の違いにほれぼれ
ベントレー・コンチネンタルGT V8 S……2310万円
まるで、映画に出てくる無敵タイプの主人公だ。デカくて筋骨隆々で、いかにもケンカが強そうで……“別格”なムードが、むんむん漂っている。
しかも、あきれるほどゴージャス。シャープなエッジやクロムのパーツがキラキラと輝き、1.5mもあるドアを開ければ、レザーにウッド、メタルでしつらえた豪華なインテリアがドライバーを迎える。いったい誰が、どう乗りこなすのだろうか?
インポーターによれば、V型8気筒を積む「コンチネンタルGT」のオーナーは「自ら起業した若い経営者」、つまり野心的なビジネスマンが多いそう。年齢層の中心は、W型12気筒モデルより7~8歳若い50代前半で、20代のオーナーも少なくないという。新規のユーザー、特にポルシェからの乗り換えが多いのも特徴。つまりベントレーは、高級車ブランドとして、よりポピュラーになりつつあるわけだ。販売が好調(2015年の販売台数は370台で前年比16%増)なのも、うなずける。
V8モデルは後発ながら、いまやコンチネンタルGTの6割を占める多数派だ。実際乗ってみると、ビート感のあるエンジンフィーリングは、存在感のあるキャラに合っていると思える。最高速度がW12より控えめ(309km/h!)だって、かまわない。飛ばさなくても気持ちよく流せる性質は、グランドツアラーとして好ましい。
走りの特殊技能も、あまりない。“S”モデルとて、サスが4段階に調整できるだけ。けれども、あれもできる、これもできると、スイッチまみれな高性能車が多い中では、潔いというか、むしろ器の大きさを感じさせる。女性でなくともほれぼれする、益荒男(ますらお)ぶりなのである。
(文=webCG 関/写真=田村 弥)
ドライビングに集中せよ
アストンマーティンV12ヴァンテージS……2322万4200円
若輩者のワタクシは少々面食らってしまいました。アストンってもっと控えめで、いろいろなことを余裕を持ってクールにこなすクルマばかりだと思っていたのですよ。
イグニッションキーを押し込んだ瞬間、まずは「バオン!」と一声上げてペーペーの記者を威嚇。「スポーツシフトIII」はいかにも「シングルクラッチ式ATでござい」といった感じで、微低速域では半クラの度合いによる挙動の変化を、加速時には明確なトルク変動を伴います。ブレーキはケータハムやロータスほどではないにしても、ストロークが少なめで踏み応えのあるタイプ。とにかく、どこをとっても“操縦している感”が強く、ドライバーがルーズに流すということを認めません。
そして、エンジン。実はワタクシ、同じ6リッターV12を積んだ「ヴァンキッシュ」や「DB9 GT」も試乗したことがあるのですが(なんてハッピー!)、V12ヴァンテージSのエンジンはそれらとずいぶん仕立てが違ったように思います。踏まなくても速いとか、低回転域から排気音が心地いいとか、大排気量マルチシリンダーの魅力にあふれる点は同じですが、今回のクルマについては、往年の大排気量スポーツカーに通じる荒々しさをより色濃く残した感じ、とでも言いましょうか。回転上昇はじっとりとした重さを伴い、ザラザラとした乾きめの音や鼓動感もあって、573psへ向けてパワーが高まっていくさまをひしひしとドライバーに実感させます。
総じてV12ヴァンテージSは、某英国スパイみたいに助手席に美女を乗せてさっそうと……というよりは、運転行為そのものにどっぷり浸るためのクルマです。さすがは創立100年を超える名門、いろんな引き出しを持っているんだなあと感服した次第です。
(文=webCG ほった/写真=峰 昌宏)
毎日乗れるスーパースポーツ
マクラーレン570S……2556万円
「このクルマ、乗り心地がいいですね。今日乗った中で一番いいですよ」
これは試乗の際、助手席に同乗していたカメラマンのT氏が言った言葉です。そうなんです。「マクラーレン570S」はすごく乗り心地がいいんですよ。ボディーはぺったんこで、あんまりサスペンションがストロークしなさそうな見た目なのに。
それだけではありません。車高の低いミドシップのスーパーカーなのに、乗り降りも楽チン。ドライビングについても、ボタン式のシフトセレクターはひと目で操作方法が分かるし、ステアリングは重さが適度で利きも自然……と、わずらわしいところがありません。「車体価格2500万円オーバーのミドシップのスーパーカーなのに、こんなにユーザーフレンドリーでいいの?」と心配になってしまうくらい、親切というか合理的。借り受けの際、スタッフさんが「毎日乗れるスーパーカーですよ」とおっしゃっていたのがよく分かりました。
ただ、マクラーレン570Sはよくできているだけのクルマではありません。微低速域でハンドルを切ればドライブトレインはゴキゴキと不穏な音を立てるし、先述のステアリングも、路面からのキックバックは比較的素直に伝えるほう。踏み応えが強めのブレーキも含め、「私もやるときはやりますよ!」という雰囲気が各所に漂っています。降りてみても、リアバンパーとリアディフューザーの隙間から、ドライブトレインや排気管の取り回しなどを“チラ見せ”。その光景は、昔ながらのクルマ好きにはたまらんものでした。
ワタクシの観察眼では、法定速度70km/hの幹線道路が主となる今回の試乗で分かったのはここまで。こと走りに関しては快適さにうなるばかりでしたが、しかるべきシチュエーションでは「自分、570psのミドシップスポーツカーですから」という一面を見せてくれるのでしょう。今回の試乗会で一番、もっといろいろな環境で乗りたいと感じたクルマでした。
(文=webCG ほった/写真=田村 弥)
ドアの向こうは映画の世界
ベントレー・コンチネンタルGTスピード コンバーチブル……2920万円
2016年のJAIA合同試乗会特集、トリを飾るのは車両価格2920万円の「ベントレー・コンチネンタルGTスピード コンバーチブル」。最高出力635ps、最大トルク83.1kgmを発生する6リッターW12エンジンを搭載し、最高速は327km/h……と、事前にスペックはさらっておいたのですが、正直なところ、それだけではどんなクルマなのやらみじんも想像がつきません。駐車場でご対面した巨大な4座のコンバーチブルは、クルマというより映画で見るプレジャーボートのようでありました。
ゴージャスきわまるインテリアに緊張しつつ、旋条のついた楕円(だえん)のマフラーが放つ、ボボボボ……という控えめな重低音とともに駐車場を出発。車両重量2.5トン超のヘビー級ではありますが、先述のトルクですから、大磯ロングビーチ付近の幹線道路ではアクセルを踏み込む機会はほとんどありません。追い越しも、料金所からの加速も、足の裏にちょいと力を込めるだけで事が足ります。ワタクシと同僚のO氏の、2人しか乗っていないのが申し訳なくなるくらいにゼータクな乗り物でした。
ちなみに70km/h走行時のエンジン回転数は1000rpmちょい……いや、もうそんな情報どうでもいいですね。M氏が撮影した写真をご覧ください。とにかくこのクルマ、素晴らしく絵になるヤツなんですよ。たとえ乗っているのが30代半ばのオッサン2人であろうと、屋根を開けて海沿いの道を走ればたちまち映画のワンシーン。ドイツが生んだロードムービーの傑作『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』で、マーチンとルディが病院で盗んだのは「メルセデス・ベンツSL」でした。私は自分が余命いくばくもないと知ったら、どうせならベントレーを盗もうと思います。
(文=webCG ほった/写真=峰 昌宏)

webCG 編集部
1962年創刊の自動車専門誌『CAR GRAPHIC』のインターネットサイトとして、1998年6月にオープンした『webCG』。ニューモデル情報はもちろん、プロフェッショナルによる試乗記やクルマにまつわる読み物など、クルマ好きに向けて日々情報を発信中です。