第3回:ここがインポートカーのボリュームゾーン
輸入車チョイ乗りリポート~500万から1000万円編~
2016.03.17
JAIA輸入車試乗会2016
紳士の国の4ドアセダンや、刺激的な伊・独のオープンスポーツモデルなど、価格帯が3ケタ万円の後半に入ると、さまざまな国の多彩なモデルが顔を出すようになる。“インポートカーのボリュームゾーン”の中から、webCGが注目した4台がこちらだ。
モテるにはワケがある
ジャガーXE プレステージ……515万円
長かった。ジャガーが小さなスポーツサルーン「XE」を発売すると初めて告げたのが、2014年3月。それから1年半。日本では2015年の9月に(まずガソリン車のみ)デリバリーが始まった。
心待ちにしていたのは筆者だけではないようで、その2015年末にXEはフィーバー。ハンサムな新型サルーンのおかげで、同年のジャガー販売の台数は前年超えになったという。興味深いのはユーザー像で、最上級モデル「XJ」とは対照的に、8割以上が“ご新規さま”。すなわち、「ジャガーじゃなかった人」なのだ。インポーターによれば、乗り換えのほぼ半数が日本車、残りはドイツ車からとのことだった。
そうした事実と関係あるかは定かでないが、XEの室内は、やや万人向けである。XJを思わせるダッシュボードの外周や、ダイヤル式のシフトセレクターにジャガー的演出が見られるけれど、兄貴分と比べて無国籍と言えなくもない。むしろ驚いたのはパッケージングで、流麗なスタイリングから想像するに、意外なほど後席は広い。センタートンネルが高いため、「中央席は非常用」という条件が付くけれど……。
今回試乗した「プレステージ」は、ガソリンエンジンのXEで、需要の半数を占める中間モデル。最高出力200ps、最大トルク32.6kgmのスペック通り、2リッター直4ターボは余裕たっぷり。不足なし。ただ、終始「ブーン」と無愛想で、艶もなければ味もなし。ならば、2016年2月末に上陸したディーゼル(180ps、43.8kgm)のほうが……という気にもなる。価格差、20万円しかないし。逆に、官能性や革の香りプンプンのインテリアを求めるなら、V6の「XE S」を選べばいい。
そう、XEは全部で7タイプもあるのだ。ボディーカラーは18色。ホイールは14種類。こうしたバリエーションの豊かさも、モテる理由なのかもしれない。
(文=webCG 関/写真=田村 弥)
隠れた佳作
メルセデス・ベンツA250シュポルト 4MATIC……529万円
「メルセデス・ベンツAクラス」は昨年の秋にマイナーチェンジを受けた。その中で最もその恩恵を受けたのが、この「A250シュポルト 4MATIC」である。
まず、2リッター直4ターボエンジンの最高出力が7ps引き上げられて218psとなった。そしてサスペンションには、「コンフォート」と「スポーツ」の2つの減衰力が選べる電子制御式油圧アダプティブダンピングシステムが搭載された。
走行モード切り替え機構「ダイナミックセレクト」のスイッチを「Eco」か「Comfort」モードにすれば、このアダプティブダンパーの減衰力が低く(やわらかく)なるのだが、なるほど、きつい目地段差が続く西湘バイパス(今回の試乗コース)でもゴツゴツと角張った突き上げは伝えてこず、それでいてしっとりとした腰を持っている。姿勢はピタッとフラットに保たれて快適だ。従来型と比べて、足まわりの守備範囲はずいぶんとワイドになっている。
2リッターエンジンについては3%の出力向上を体感することは難しく、その代わりに、今回は吹け上がりの軽さが印象に残った。ダイナミックセレクトを「Sport」モードにして、エンジンのレスポンスを高めた状態でスロットルペダルを踏み込む。すると、ターボユニットらしからぬ軽やかさでタコメーターの針が上昇していく。
言い方を変えれば、ターボらしいパンチには欠ける。しかし実際は、1200rpmという低回転ですでに35.7kgmのピーク値に達しているのである。この泰然自若ぶりは、スタビリティーの高い4WDシャシーがあってのことだろう。
「メルセデスAMG A45 4MATIC」の陰に隠れがちだが、バランスの高さでいえばこのA250シュポルト 4MATICもなかなかのものである。
(文=webCG 竹下/写真=峰 昌宏)
“Less is more”のお手本
アウディTTロードスター 2.0 TFSIクワトロ……605万円
「アウディTTロードスター」のステアリングを握って、とにかく印象的だったのは軽さである。
運転席に着こうとしてドアを開けると、そのドアの軽さにまず感心させられる。そしてエンジンを掛けて動き出すと、タイヤの一転がり目でボディーがすっと前に動く、その軽さに再び感心させられてしまった。
TTシリーズはフロアまわりがスチールで構成され、ボディーフレーム上部とアウターパネルはオールアルミとされる。アルミを多用したおかげで、シリーズ最大で60kgもの軽量化を果たしたとうたわれる。確かに、「TTクーペ」のFF仕様は1320kg、4WDのクワトロでも1370kgと、先代モデルと比べて軽く仕上がっている。
しかし、今回試乗したTTロードスターは、実はそれほど軽くない。クーペより100kgも重い、1470kgもあるのだ。
それでも不思議なことに、西湘バイパスを行くTTロードスターの足どりは、引き続き軽い。ステアリングを切った方向に、ボディーは間髪を入れずにクッと向きを変える。中央のパッドが小さいステアリングホイールの、イナーシャの小ささも感動的だ。
TTとは、絶対的な軽さもさることながら、重量物をクルマの中心、かつ下方に配置することで、軽快感の演出にも長(た)けたクルマのようである。クオリティーや質感の演出は、要素を盛って、積み上げていけばいいというものではない。削ることによっても追求できるのだ、と教えてくれている。
(文=webCG 竹下/写真=田村 弥)
軟派なオープンと侮るなかれ
アルファ・ロメオ4Cスパイダー……861万8400円
大空を味方につけた「4Cスパイダー」の、ベルリネッタモデル(イタリアンスーパーカーの流儀にのっとって、クーペではなくあえてこう呼ばせてもらいます)との違いは、乗降性が格段にいいことだ。
ベルリネッタだと、ドアを開けたら1185mmという低いルーフをくぐりながら、25cmぐらいある太いサイドシルをまたがないといけない。しかし、トップを開け放ったスパイダーなら、上からすとんとシートに収まればそれで済む。なんと楽なことか。
そして、あの野太く、男らしい排気音を、遮蔽(しゃへい)物なしに鑑賞することができるのも、スパイダーならではだ。
音といえば、オープン走行時の風切り音もなかなか勇ましく、西湘バイパスの制限速度(70km/h)でも、キャビンの背後のロールバー部分が豪快に風を切っていた。しかし、筆者は、これを欠点とは思わない。なぜならこのクルマは軟派なコンバーチブルなどではなく、クモのように低く構えて路面を這(は)い、貪欲に前進することを旨とするスパイダーだからである。
エンジンはいまどき珍しいくらい猛々(たけだけ)しくターボトルクを発揮し、乗る者が「速いっ!」と思わずにはいられない加速を披露する。ステアリングを持つ手に力が入っただけでクッと反応するくらい敏感な回頭性も、ベルリネッタと変わらない。こんなに感情むき出しのスーパーカーは、気が付けばすっかり姿を消してしまっていた。貴重な存在である。
(文=webCG 竹下/写真=田村 弥)

関 顕也
webCG編集。1973年生まれ。2005年の東京モーターショー開催のときにwebCG編集部入り。車歴は「ホンダ・ビート」「ランチア・デルタHFインテグラーレ」「トライアンフ・ボンネビル」などで、子どもができてからは理想のファミリーカーを求めて迷走中。
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