第452回:文字のカタチはクルマの命! 「KAWAII文字」の日本車はいかが?
2016.06.03 マッキナ あらモーダ!どうにも気になる「文字のセンス」
北京や上海のモーターショーに赴くたび驚くのは、中国車の内装フィニッシュが年々確実に向上していることだ。マテリアルの手触り、スイッチ類の操作感とも着々と進歩している。
それでも、合弁でない“オリジナル中国車”の室内には、違和感を覚えるポイントがある。ずばり、ボタンやスイッチなどに記された文字の書体および字間だ。欧州や米国のブランドとは、センスに微妙な違いがある。
かつてボクがPCをWindows機からMacに切り替えたとき、なにより感激したのは、表示される書体の美しさであった。
それらPCのディスプレイと違い、車内に記された文字は、凝視するわけではない。ユーザーによっては、ささいなことだろう。しかし、クルマはPCの何十倍ものおカネを出して買う物だ。特にそのダッシュボードは、日によっては、女房よりも顔を合わせている時間が長い。ゆえにボクとしては、車内に使われている文字は、それなりに気になるのである。
車名をちりばめた思い出のクルマ
「車内のグラフィック」といえば、今もって思い出すのは初代「フィアット・プント」に設定されていたシートである。座面および背面に車名、つまり「Punto」の文字がちりばめられていた。車名のプリントといえば、シートベルトに「SOARER」の文字を無数に記した1981年初代「トヨタ・ソアラ」のほうが先だが、大胆さではプントに軍配があがる。
車内という話題から外れるが、他のイタリア車も文字使いのセンスが秀逸だ。例えば、ランチアがフランスのファッション雑誌『ELLE』とコラボレートして誕生した先代「イプシロン」、その名も「ELLE仕様」である。
雑誌と同じロゴがBピラーにしゃれたイラストとともにプリントされていた。そしてリアバンパーには、フランス語で「彼女(ELLE)なしには生きられない」というフレーズがさりげなく躍っていたのだ。
丸文字が日本車を光らせる!?
車内のグラフィックで最も衝撃的だったのは、2005年にフランクフルトモーターショーで公開されたスマートのコンセプトカー「クロスタウン」である。
シート地はもとより、ダッシュボードやドアトリムにも、グラフィティー(落書き)風文字がちりばめられていた。特にドアのものは、一瞬「不届き者による器物損壊行為か?」と思えるほどの出来だ。
そんなことを考えていたら、欧州の都市と羽田を結ぶ日系航空会社の化粧室で、写真(左3枚目)のような貼り紙を見つけた。
“KAWAII文字”である。かつてボクが中学高校時代、こうした文字は“丸文字”と呼ばれ、年上世代が眉をひそめたものだ。しかし今や、日本を代表するエアラインで使われている。
本エッセイでも何度かリポートした、パリの日本ポップカルチャー見本市「PARIS MANGA&SCI-FI SHOW」は、およそ8万人の入場者数を誇り、KAWAIIカルチャーを愛好するフランスの若者でごったがえす。
自動車にまつわる規則は各国の規制でがんじがらめなので難しいだろうが、例えば、KAWAII文字で「P R N D L」と記されたセレクターレバーを持つ日本車ができたなら、国内以上に海外の市場でちょいと話題になるのでは? などと空想している。
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=トヨタ自動車、大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)

大矢 アキオ
コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナ在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、22年間にわたってリポーターを務めている。『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。最新刊は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。