ベントレー・コンチネンタルGTスピード(4WD/8AT)
路上の魔王
2016.07.01
試乗記
ラグジュアリークーペ「ベントレー・コンチネンタルGT」シリーズの高性能バージョンにあたる「GTスピード」に試乗。最高速331km/h、0-100km/h加速4.1秒という、ベントレーのなかでも随一の動力性能を誇るハイパフォーマンスモデルの魅力に触れた。ハイエンドのなかのハイエンド
某日夜、翌日の取材のためにwebCG編集部でこの緑色の魔王のカギを受け取り、スターターボタンを押してヴォンッ! とW12エンジンを目覚めさせるや、意気揚々と走り始めた。う~む、けっこう乗り心地が硬めで、タイヤのコツコツ感がある。さすがGTスピードだ。590psのコンチネンタルGTでも化け物なのに、その高性能版であるGTスピードときたら635psにビーフアップされている。
ビーフアップとたまたま書いて思ったのだけれど、本当にbeef upである。そもそもベントレーはハイエンド、これ以上高いところはもうありませんという自動車界のヒマラヤ山脈にあるブランドである。牛肉でいえば、和牛の最高ブランド、松阪牛なんである。比喩なので細かいことはともかく、コンチネンタルGTを超高級ビーフカレーだとすれば、すでにたっぷり入っている松阪牛の量をさらに増やしたぜいたく仕立てなわけである。
で、筆者であるところの私は、その乗り心地の硬さにカレーの香辛料が利いているな、ぐらいのことを思った。すると、あろうことか、ピーッピーッという警告音が控えめに鳴り出し、メーター上、タイヤ空気圧の異常を示す警告灯がオレンジ色に輝いている!
現行コンチネンタルGTスピードは、最高出力635ps、最大トルク83.6kgm、最高速度331km/h、0-100km/h加速4.1秒という圧倒的なパンチ力を持つスーパーカーである。ベントレーの量産車史上の最速のモンスター。モンスターではあるが、レース中継でもわかるようにタイヤは自動車のアキレスの腱(けん)である。もし、タイヤの空気圧がなんらかの理由で低下しており、それを車載コンピューターが警告したにもかかわらずドライバーがこれを無視して疾駆し続けたならば、大惨事が起きるやもしれぬ。
本当に300km/hで走ることを想定している
ボックス、ボックス! 右前方にガソリンスタンドがあって、「フェラーリ・カリフォルニア」が給油している。フェラーリが給油しているところなら間違いはあるまい。と判断して緊急ピットイン、空気圧を測ってもらった。
前2.8、後ろ2.4で、異常なし。それなのになぜ空気圧が低いという警告が出たのか?
速度に応じた空気圧が3段階で設定されていて、その数値と空気圧があっていなかったからだ。「最高」にスピードを出すときは前後それぞれ3.8と3.4、「標準」が3.3と2.9、そして「快適」が2.8と2.4である。ベントレー モーターズ ジャパンの広報車の空気圧は「快適」が選ばれていた。日本は制限速度100km/hの国で、空気圧を高くすると乗り心地が悪くなるから当然の選択ともいえるけれど、実際の空気圧は「快適」なのに、警告の設定を「標準」、あるいは「最高」にしたりすると、コンピューターは当然、空気圧が低いと判定する。後ほど編集部に問い合わせたら、筆者がクルマを受け取る直前、走り屋の編集長が計器盤に並んだスイッチを押して、「速度」の項目を「標準」に切り替えていたのだった。
長々とタイヤの警告灯の話を書いてしまった。空気圧というのは大変重要であり、コンチネンタルGTスピードはホントに300km/h以上出す人を想定した高性能車である、ということをお伝えしたかった。いや、ホントに300km/h以上出す人から、「快適」の速度域設定の人までをカバーするウルトラ超高性能車なのである。だから、このクルマは世界中のエンスージアストから支持されている。なにしろ毎日乗れるスーパーカーなのだ。
ワイルドな魅力に洗練をプラス
ほれぼれするのは、ウルトラ滑らかな6リッターW12ツインターボである。トルクが文字通り湧き出す。6リッターの大きなお釜からふつふつと潤沢に、くめどもくめども尽きぬように。それがまたいいお湯で。この12気筒、筆者の記憶によれば(つまり、あてにならんという意味ですけど)、例えばジャガーやメルセデスの12気筒に比べるとスムーズネスよりビートが持ち味だった。ごく平ったくいえば少々ラフだった。そこが魅力だった。今もワイルドさが魅力ではあるけれど、はるかに洗練されている。ヌルヌルしながらこんこんと、83.6kgmもの大トルクが2000rpmの低回転から引き出され、車重2380kgの重量級ボディーを猛烈な勢いで加速させる。
2000rpm以上回すと、このエンジンは野獣のようにほえる。8段オートマチック・ギアボックスのプログラムを「D」から「S」にすると、咆哮(ほうこう)のボリュームががぜん大きくなる。左ハンドルの試乗車の場合、コーナリング中、右膝をセンターコンソールに押し当てて体を支えることができる。ステアリングの付け根から長く突き出たシフトパドルで変速し、グオーン、グオーンとゴジラもかくやの鳴き声を聞いていると、スポーツカーだぜ、と思う。
男性的な低音の魅力に酔いしれていると、これはなにかに似ている。それはポルシェだ。水冷ポルシェの音に似ている。ベントレーの人、ごめんなさい。だけど、今のベントレー社長はヴァイザッハ出身だ。W12はおまけに毎年のように改良が施されている。まるでポルシェのフラット6のように。根拠はこのようにほとんどないに等しいけれど、私の直感がそう申している。
ドライバーはジェントルマンたれ
ちなみに現行GTスピード、つまり2代目コンチネンタルGTの高性能版が発表されたのは2012年8月のことで、この時は最高出力625ps、最高速度は330km/h、0-100km/h加速4.2秒だった。2014年3月のジュネーブで635ps版がお披露目され、2016年4月にはさらに642psにビーフアップされた新型が発表されている。今回試乗したのは、642psが上陸するまでを使命とする635ps最後の広報車ということになる。おそらく。
21インチのホイール&タイヤの組み合わせによって低速ではちょっぴりゴツゴツするけれど、それはすぐに慣れる。エアスプリングの設定には「コンフォート」から「スポーツ」まで4段階あり、4段階なのでセンターというポジションはない。いくら選挙しても無駄である。筆者はコンフォートから1段階だけスポーツ寄りを推しメンとする。快適だけれどフワフワではない。しなやかだけれど、ソフト過ぎない。硬いのは慣れるのに時間がかかる。
ステアリングはやや重めで、軽重いろいろ状況によって変化した初代に比べると一貫している。前後重量配分は58:42で相変わらずフロントヘビーながら、前後トルク配分が40:60と後輪駆動寄りなのが功を奏しているのかもしれない。
右足にスッと力を入れると、コンチネンタルGTスピードは悪魔のように加速する。「天使のように加速する」のではない。路上の魔王。ダークサイドに落ちたダース・ベイダーや『ハリー・ポッター』のヴォルデモートなんかを思わせる。常軌を逸した高性能がフツウの人を寄せ付けない、あるいはフツウの人を服従させるようなオーラを放つ。そんな怪物を御す人をジェントルマンという。車両価格2700万円。
(文=今尾直樹/写真=荒川正幸)
テスト車のデータ
ベントレー・コンチネンタルGTスピード
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4820×1945×1400mm
ホイールベース:2745mm
車重:2360kg
駆動方式:4WD
エンジン:6リッターW12 DOHC 48バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:635ps(467kW)/6000rpm
最大トルク:83.6kgm(820Nm)/2000rpm
タイヤ:(前)275/35ZR21 103Y/(後)275/35ZR21 103Y(ピレリPゼロ)
燃費:6.8km/リッター(欧州複合モード)
価格:2700万円/テスト車=2933万7100円
オプション装備:オプショナルペイントカラー<アップルグリーン>(75万9400円)/ダークティントアルミニウムフェイシア(20万5000円)/アルカンターラヘッドライニング(15万9600円)/コントラストステッチ<ダイヤモンドキルト部分>(14万5000円)/ベンチレーテッドフロントシート<マッサージ機能付き>(14万1900円)/リアビューカメラ(16万7900円)/アダプティブクルーズコントロール(37万7100円)/21インチ ダイクレクショナル スポーツアロイホイール(38万1200円)
テスト車の年式:2016年型
テスト車の走行距離:979km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5)/高速道路(5)/山岳路(0)
テスト距離:272.8km
使用燃料:62.7リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:4.4km/リッター(満タン法)
![]() |

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
NEW
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。 -
NEW
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える
2025.10.20デイリーコラム“ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る! -
NEW
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】
2025.10.20試乗記「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。