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フォルクスワーゲン・パサートGTEヴァリアント アドヴァンス(FF/6AT)

電気仕掛けの狼 2016.07.09 試乗記 今尾 直樹 フォルクスワーゲン(以下、VW)から、プラグインハイブリッド車(PHV)の「パサートGTE」シリーズが登場。ワゴンボディーの上級モデル「ヴァリアント アドヴァンス」に試乗し、ユニークなハイブリッドシステムの制御と、走りの特徴をリポートする。

あれもこれも標準装備

2016年6月7日に国内発売となったパサートGTEは、昨年秋に上陸した「ゴルフGTE」に次ぐVWのPHV第2弾である。ご存じのように、パサートは「MQB」プラットフォームを共有するゴルフの兄弟車であり、MQBの兄弟はこのほかにもたくさんいる。VWはここに至ってPHVのニューモデルを次々と送り出す量産体制を整えたわけである。

今回編集部が借り出したのは、GTEの最高価モデルたる「ヴァリアント アドヴァンス」599万9000円。ナパレザーの本革シートを標準とし、VW初のデジタルメータークラスター「アクティブインフォディスプレイ」と「ヘッドアップディスプレイ」、上から目線のアラウンドビューカメラ「エリアビュー」、駐車支援システム「パークアシスト」などの先進テクノロジーをスタンダードで装備するのがアドヴァンスで、フツウのパサートGTEより60万円ほど高い。とはいえ、アダプティブシャシーコントロール「DCC」だって標準装備だから、お買い得のようにも思える。購入時には10万8000円のクリーンエネルギー自動車導入促進対策費の適用も受けられる。ということは、プラス40万円でこれだけの装備が付いてくる! ま、アドバンスではないパサートGTEも対策費の対象で、つまり10万8000円もらえるんですけどね。

いわゆる自動緊急ブレーキのプリクラッシュブレーキシステム「フロントアシスト」や、渋滞時追従支援システム「トラフィックアシスト」、アダプティブクルーズコントロール「ACC」(全車速追従機能付き)などは、現行パサートの標準装備品だ。ともかくお買い得感満載である。

「パサートGTEヴァリアント アドヴァンス」のインストゥルメントパネルまわり。「サントロペ」(写真)と「チタンブラック」の2種類の内装色が用意されている。
「パサートGTEヴァリアント アドヴァンス」のインストゥルメントパネルまわり。「サントロペ」(写真)と「チタンブラック」の2種類の内装色が用意されている。 拡大
上級グレード「アドヴァンス」に装備されるデジタルメータークラスターの「アクティブインフォディスプレイ」。(写真をクリックすると、表示内容の切り替わる様子を確認できます)
上級グレード「アドヴァンス」に装備されるデジタルメータークラスターの「アクティブインフォディスプレイ」。(写真をクリックすると、表示内容の切り替わる様子を確認できます) 拡大
「アドヴァンス」にはヘッドアップディスプレイやアラウンドビューカメラ、可変ダンピングシステムの「DCC」、ナパレザー製のパワーシート、18インチホイール&タイヤなどが標準装備される。
「アドヴァンス」にはヘッドアップディスプレイやアラウンドビューカメラ、可変ダンピングシステムの「DCC」、ナパレザー製のパワーシート、18インチホイール&タイヤなどが標準装備される。 拡大
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高いクルマは速くなければならない

パワートレインはゴルフGTEと基本的に同じながら車重が1790kgもある。ゴルフGTEより180kgも重い車重等に合わせて、仕様は細かく異なる。まず、1.4リッターターボは最高出力が150psから156psへと引き上げられている。これはシリンダー内壁にコーティングを施して摩擦を低減したり、排気バルブステムにナトリウムを封入して耐熱性を向上させたり等の細かい改良によるものだという。

6段のDSGとの間に挟まれた電気モーターはゴルフGTE用と同じ33.6kgmという最大トルクを生み出す。ただし、最高出力は109psから116psに強化され、システム出力は218psに達する。0-100km/h加速7.4秒、最高速225km/hという俊足だ。ゴルフGTEは0-100km/hが7.6秒、最高速が222km/hなので、つまりパサートGTEはゴルフGTEよりも速い。

ここにパサートGTEがゴルフGTEより50万円以上お値段がお高いことの性能差が表れている。たとえエコロジー第一のPHVであろうと、値段が高ければ、速くなければいけないのだ、アウトバーンの母国では。う~む、さすがだ。

ともかく目の前の試乗車は純白のボディー色に、「サントロペ」と名付けられた純白の本革シートという結婚式仕様であった。

スタートボタンを押すと、ピンポーンという呼び鈴を鳴らしたような音と同時に、メーターナセルの2つのブルーのメーターがまばたきしたみたいな動きをする。宇宙の目ん玉みたいに。あるいは、水に石を投げ入れた時に広がる水紋にも似ている。これが準備OKのサインである。エンジンは始動しない。パサートGTEはごくごく静かに動き出す。

パワートレインは1.4リッター直4ターボエンジンと走行/発電用モーターの組み合わせ。システム全体で218psの最高出力を発生する。
パワートレインは1.4リッター直4ターボエンジンと走行/発電用モーターの組み合わせ。システム全体で218psの最高出力を発生する。 拡大
トランスミッションはデュアルクラッチ式ATの6段DSG。遮断クラッチによってエンジンとドライブアクスルを切り離す、コースティング(惰性走行)機能が備わる。
トランスミッションはデュアルクラッチ式ATの6段DSG。遮断クラッチによってエンジンとドライブアクスルを切り離す、コースティング(惰性走行)機能が備わる。 拡大
「アドヴァンス」では前席の両方にシートヒーターが、運転席にマッサージ機能が装備される。
「アドヴァンス」では前席の両方にシートヒーターが、運転席にマッサージ機能が装備される。 拡大
「アドヴァンス」の後席。9.9kWhのリチウムイオンバッテリーは、この下に搭載されている。
「アドヴァンス」の後席。9.9kWhのリチウムイオンバッテリーは、この下に搭載されている。 拡大

デフォルトは「Eモード」

イグニッションオンでは、ゴルフGTE同様、「Eモード」=電気だけで走る、が自動的に選択される。リアアクスル前方のアンダーフロアに据え付けられたリチウムイオンバッテリーが満充電であれば、パサートGTEは電気自動車としておよそ50km走ることができる。これもゴルフGTEと同性能である。言うまでもないことだけれど、こちらの方がボディーがでっかい。荷物もたくさん運べる。まいったか、ゴルフよ。

バッテリーは200Vの外部電源により、約4時間でフル充電できる。ゴルフGTEより1時間余分にかかる。とはいえ、出先で4時間休んで充電を繰り返せば、原油価格を気にせず暮らせる。Eモードでも最高速130km/hに達するから、高速道路も余裕だ。

ただし、Eモードで走っていてもさほどの高揚感はない。原動力自体は静かでも、風の音やロードノイズがそれなりに入ってくるので、フツウのクルマを走らせているのと変わらない感覚なのだ。あ、それだけ現代のフツウのクルマが静かになったとも言える。

最高速チャレンジのような走り方は仮にしたとすると、バッテリーは見る見る減っていく。
そうすると、Eモードはハイブリッドモードに自動的に切り替わる。心配性の人は自分で切り替えることもできる。ハイブリッドモードはエンジンが始動したり停止したりを状況によって繰り返す。エンジンがスタートしても振動がよく抑えられており、違和感はない。そういうものだ、とすでに刷り込まれていることもある。

このモードではリチウム電池への充電は積極的に行わない。積極的に充電したい時はバッテリーチャージモードを選ぶ必要がある。このモードを選ぶと、アクセルオフ時に後ろから引っ張られたみたいに減速する。エネルギー回生をやっとるねぇ~と、植木 等なら明るくつぶやくところだ。

荷室にはラゲッジネットパーティションやスライディングカバーを標準装備。充電用ケーブルの収納に便利な床下収納も備わる。(写真をクリックすると、シートの倒れる様子が見られます)
荷室にはラゲッジネットパーティションやスライディングカバーを標準装備。充電用ケーブルの収納に便利な床下収納も備わる。(写真をクリックすると、シートの倒れる様子が見られます) 拡大
フロントグリルに設けられた充電ポート。満充電に要する時間は約4時間。急速充電には対応していない。
フロントグリルに設けられた充電ポート。満充電に要する時間は約4時間。急速充電には対応していない。 拡大
パワートレインの制御モードは「Eモード」「ハイブリッド」「バッテリーチャージ」の3種類。タッチパネルで操作画面を呼び出すか、センターコンソールのEモードスイッチを押すことでモードを切り替える。
パワートレインの制御モードは「Eモード」「ハイブリッド」「バッテリーチャージ」の3種類。タッチパネルで操作画面を呼び出すか、センターコンソールのEモードスイッチを押すことでモードを切り替える。 拡大
「Eモード」「ハイブリッド」でアクセルを離すと、「パサートGTE」はエンジンブレーキもブレーキエネルギー回生機構も働いていない、惰性走行の状態に入る。ブレーキエネルギー回生を行うには、シフトパドルを操作するか、パワートレインの制御モードを切り替える必要がある。
「Eモード」「ハイブリッド」でアクセルを離すと、「パサートGTE」はエンジンブレーキもブレーキエネルギー回生機構も働いていない、惰性走行の状態に入る。ブレーキエネルギー回生を行うには、シフトパドルを操作するか、パワートレインの制御モードを切り替える必要がある。 拡大

ボタンひとつで豹変

Eモード、ハイブリッドモード時におけるパサートGTEはしかし借りてきた猫であった。その正体はGTEモードに切り替えた時に初めて明らかになる。ああ、いったい誰がこのようなクルマであると予想しただろうか。おそらくゴルフGTE経験者のみであろう。

GTEモードの切り替えスイッチはギアレバーのすぐ左のトップの位置にある。しかも車名をそのままモード名とした。ということはこれこそがGTE、エレクトリックドライブのグランツーリスモの正体なのである。

ステアリングがやや重くなり、乗り心地が明瞭に硬くなる。可変ダンピング「DCC」を標準装備することの意味がここにある。アクセルペダルのレスポンスが鋭くなり、DSGの変速プログラムもスポーティーなものに変更となる。試しにフルスロットルを試みると、ウエット路面ということもあってトラクションコントロールが利くほど猛烈な加速を見せる。

赤ずきんちゃんの正体は狼(おおかみ)だった……。日本人、少なくとも私のPHV像を見事にぶち壊した。よく調教されていた大型犬、『ちびっこレミと名犬カピ』のカピ、『アルプスの少女ハイジ』のおじいさんの愛犬のヨーゼフ、あるいはまた『刑事犬カール』のカール……ときりがありませんが、ともかく従順で羊のようだった名犬パサートが狂犬パサートになっちゃったように私には思われたのだった。

「ハイブリッド」モードではドライバーが所定の操作をしない限りは、ブレーキエネルギー回生などによる充電は行われないが、バッテリーの残量が少なくなると自動で充電を行うようになる。
「ハイブリッド」モードではドライバーが所定の操作をしない限りは、ブレーキエネルギー回生などによる充電は行われないが、バッテリーの残量が少なくなると自動で充電を行うようになる。 拡大
パワートレインや可変ダンピングシステム「DCC」のモード切り替えスイッチ。「GTE」モードの作動中にDCCの切り替えスイッチを入れると、GTEモードは自動でオフになり、「Eモード」もしくは「ハイブリッドモード」に切り替わる。またGTEモードを選択するとDCCは自動で「スポーツ」モードに入る。
パワートレインや可変ダンピングシステム「DCC」のモード切り替えスイッチ。「GTE」モードの作動中にDCCの切り替えスイッチを入れると、GTEモードは自動でオフになり、「Eモード」もしくは「ハイブリッドモード」に切り替わる。またGTEモードを選択するとDCCは自動で「スポーツ」モードに入る。 拡大
「GTE」モードを選択した状態でアクセルをいっぱいに踏み込むと、エレクトリックブースト機能が作動。エンジンとモーターの力の両方をタイヤの駆動に用いることで、力強い加速が得られる。
「GTE」モードを選択した状態でアクセルをいっぱいに踏み込むと、エレクトリックブースト機能が作動。エンジンとモーターの力の両方をタイヤの駆動に用いることで、力強い加速が得られる。 拡大

未来はひそかに忍び寄る

まさしく「ジキル博士とハイド氏」。解離性同一性障害という名の二重人格車なのだ、パサートGTEは。しかも、GTEの本性は、しつこいようだけれど、善のジキル博士ではなくて、悪のハイド氏で……。いや、速いことは悪ではない。善である。それもCO2の排出量がより少ないのにより速ければ、ますますもって善である。

ウォルフスブルグのエンジニアたちは電気モーターを使って新種の「羊の皮をかぶった狼」をつくった。かつて「GTIクラス」を創出したように、「GTEクラス」と呼ばれる新しいカテゴリーが今後生まれるのではあるまいか。

個人的に惜しいのは普通のゴルフやパサートと同じカタチをしているので、近未来感に乏しい、ということ。いや、未来は知らぬ間に、そっと忍び込んできている。そういうことなのかもしれない。

(文=今尾直樹/写真=荒川正幸)

「アドヴァンス」の18インチ5ダブルスポークホイール。「パサートGTE」では内外装の各所にブルーのアクセントが用いられ、ブレーキキャリパーもブルーで塗装される。
「アドヴァンス」の18インチ5ダブルスポークホイール。「パサートGTE」では内外装の各所にブルーのアクセントが用いられ、ブレーキキャリパーもブルーで塗装される。 拡大
「パサートGTE」は、満充電の状態からであれば、51.7kmの距離を電気だけで走行可能(国土交通省審査値)。「Eモード」の状態でも最高速は130km/hに達する。
「パサートGTE」は、満充電の状態からであれば、51.7kmの距離を電気だけで走行可能(国土交通省審査値)。「Eモード」の状態でも最高速は130km/hに達する。 拡大

テスト車のデータ

フォルクスワーゲン・パサートGTEヴァリアント アドヴァンス

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4775×1830×1500mm
ホイールベース:2790mm
車重:1790kg
駆動方式:FF
エンジン:1.4リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
エンジン最高出力:156ps(115kW)/5000-6000rpm
エンジン最大トルク:25.5kgm(250Nm)/1500-3500rpm
モーター最高出力:116ps(85kW)
モーター最大トルク:33.6kgm(330Nm)
タイヤ:(前)235/45R18 94W/(後)235/45R18 94W(ピレリ・チントゥラートP7)
燃費:21.4km/リッター(ハイブリッド燃料消費率/JC08モード)
価格:599万9000円/テスト車=627万9800円
オプション装備:ボディーカラー<オリックスホワイト マザーオブパールエフェクト>(12万9600円)/電動パノラマスライディングルーフ(15万1200円)

テスト車の年式:2016年型
テスト車の走行距離:2050km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:256.0km
使用燃料:16.5リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:15.5km/リッター(満タン法)/15.3 km/リッター(車載燃費計計測値)

 

フォルクスワーゲン・パサートGTEヴァリアント アドヴァンス
フォルクスワーゲン・パサートGTEヴァリアント アドヴァンス 拡大
今尾 直樹

今尾 直樹

1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。

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