フォルクスワーゲン・パサートGTEヴァリアント アドバンス(FF/6AT)
円熟のジャーマンPHEV 2022.04.05 試乗記 マイナーチェンジした「フォルクスワーゲン・パサートヴァリアント」のラインナップに、プラグインハイブリッド車(PHEV)の「GTE」が復活。バッテリー容量の拡大によりEV航続距離が延びたとうたわれる、最新電動化モデルの仕上がりを確かめた。1年ぶりに復活したPHEV
電動ミニバン「I.D.Buzz」の登場で、電動化の動きに注目が高まるフォルクスワーゲン。日本でも、電気自動車(EV)の「ID.」シリーズが2022年にデビューするといわれ、また、コンパクトカーの定番である「ゴルフ」に48Vマイルドハイブリッドシステムを採用するなど、電動化されたモデルの比率は高まる一方である。
今回追加されたパサートGTEヴァリアントもそんな電動化モデルのひとつで、モデル名からはわかりにくいが、ガソリンエンジン車とEVのいいとこ取りを狙ったPHEVだ。
フォルクスワーゲン グループ ジャパンでは、すでに2015年9月に「ゴルフGTE」を発売。2016年6月には「パサートGTE」とパサートGTEヴァリアントを追加している。ただ、ゴルフ版の新型GTEは未導入で、パサートもマイナーチェンジ版の発売時にはGTEがラインナップされておらず、日本市場ではGTEの不在期間が約1年続いていたのだ。
GTEはこのままなくなってしまうのか……という心配もあったが、ついにGTEがパサートヴァリアントで復活! しかも、マイナーチェンジ前に比べて性能がアップしているというのだから、これは興味津々である。
バッテリー容量3割増し
端正なルックスと広い室内が魅力のパサートと、そのステーションワゴンのパサートヴァリアント。これに、最高出力156PS(115kW)の1.4リッター直4直噴ガソリンエンジンと同116PS(85kW)の電気モーターを搭載するのがパサートGTEだ。
マイナーチェンジ前にはセダンとステーションワゴンが用意されていたが、今回日本に導入されたのは後者のパサートGTEヴァリアントのみ。エンジン、モーターともにマイナーチェンジ前と同じスペックで、デュアルクラッチギアボックスの6段DSGで前輪を駆動するのも変わらない。
一方、搭載される駆動用リチウムイオンバッテリーは容量を9.9kWhから13.0kWhへと3割増し。これにより、EV走行可能な距離が51.7kmから57kmに拡大されている。それでいて、もともと広い荷室を誇るパサートヴァリアントだけに、GTEになっても収納スペースに不満はないし、荷室の床下も、バッテリーに押し出された燃料タンクがスペースを侵食しているとはいえ、充電ケーブルなどを収められる広さがあるのはうれしいところだ。
私もかつてゴルフGTEを所有していたことがあったが、通常のモデルに比べて狭い荷室は不満だった。しかし、パサートGTEヴァリアントならそんな思いをせずにすむのがいい。
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異なる3つの走行キャラクター
マイナーチェンジにより内外装が化粧直しされたパサートGTEヴァリアントだが、プラグインハイブリッドシステムは従来どおり。走行モードは、モーターだけで走る「EVモード」と、モーターとエンジンを使う「ハイブリッドモード」、モーターとエンジンにより力強い加速を生み出す「GTEモード」を用意する。
ハイブリッドモードにおいて、充電レベルを維持したり、充電レベルを上げるために発電を多くしたりできるモードが選べるのもこれまでどおりだ。
スタートボタンを押してシステムを起動すると、自動的に走行モードはEVモードに設定される。まずはそのまま走りだすと、余裕たっぷりとはいかないが、スムーズで十分な加速をみせてくれる。EVモードの上限は130km/hで、日本の道ならEVモードだけでもストレスのないドライブが楽しめてしまう。
ハイブリッドモードでも発進はモーターが担当し、より大きな加速が必要になったり、スピードが上がったりすると主役がエンジンに切り替わる。
その際は、加速時にモーターがエンジンをアシストするおかげで、1.4リッター直4エンジン単体よりも素早く力強い加速が得られる。バッテリー残量が減ってEVモードが利用できなくなっても、このハイブリッドモードで走りが楽しめるのは見逃せない。
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スポーティーなGTEモード
EVモードとハイブリッドモードはシフトレバー横の「E-MODE」のスイッチで切り替えるが、GTEモードはその奥にある専用ボタンを押すだけで起動可能。ハイブリッドモード同様、発進はモーターだが、すぐにエンジンが始動し、ハイブリッドモードよりもさらに強力な加速をみせる。加速時にはスポーティーなサウンドが加わり、ドライバーをその気にさせてくれる。
今回試乗したのは上級グレードの「アドバンス」で、ダンピングコントロールサスペンションの「DCC」が装着されるが、GTEモードでは明らかにハードなセッティングとなり、長時間のドライブでは疲れることも。ワインディングロードなどの走行や瞬発力が必要な場面でGTEモードを使い、それ以外はハイブリッドモードに戻すというのが、上手な使い方といえる。
その場合でも、18インチタイヤが多少重たい感じもあるが、乗り心地はおおむねマイルドで、低速から高速まで落ち着きのある挙動をみせてくれる。スポーティーなGTEモードを備えているが、EVモードやハイブリッドモードの爽快かつ快適な走りが実はうれしいパサートGTEヴァリアント。まだピュアEVは早いけれど、電動化の魅力を味わいたいという人に試してほしい一台である。
(文=生方 聡/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
フォルクスワーゲン・パサートGTEヴァリアント アドバンス
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4785×1830×1510mm
ホイールベース:2790mm
車重:1770kg
駆動方式:FF
エンジン:1.4リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:6段AT
エンジン最高出力:156PS(115kW)/5000-6000rpm
エンジン最大トルク:250N・m(25.5kgf・m)/1550-3500rpm
モーター最高出力:116PS(85kW)
モーター最大トルク:330N・m(33.6kgf・m)
タイヤ:(前)235/45R18 94W/(後)235/45R18 94W(コンチネンタル・エココンタクト6)
燃費:15.9km/リッター(ハイブリッド燃料消費率、WLTCモード)
価格:683万8000円/テスト車=702万5000円
オプション装備:ボディーカラー<オリックスホワイト マザーオブパールエフェクト>(13万2000円) ※以下、販売店オプション フロアマット<プレミアムクリーン>(5万5000円)
テスト車の年式:2022年型
テスト車の走行距離:599km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:224.6km
使用燃料:14.5リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:15.4km/リッター(満タン法)/13.0 km/リッター(車載燃費計計測値)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
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