ジャガーFペース35t Rスポーツ(4WD/8AT)/Fペース20d プレステージ(4WD/8AT)
見どころのある初モノ 2016.08.01 試乗記 ジャガー初のSUV「Fペース」に試乗。「ポルシェ・マカン」や「BMW X4」に真っ向から勝負を挑む新種のスポーツカーは、どのような走りを見せるのか。ガソリン車とディーゼル車の2車種について、その仕上がりを報告する。意気込みが伝わってくる
“F”という頭文字から、私はてっきりFペースを「XF」サイズのSUVと思いこんでいた。しかし、実際のFペースはDセグメント=「XE」のクラスに相当するSUVである。すなわち、「BMW X3」に端を発して、今や世界中のメーカーひしめくあの市場だ。
もっとも、ジャガーの場合はXEもXFも基本骨格設計が共通なので、これを“XEベース”と断定するのも正確でない。また、あえてFを名乗らせることで、クラスレスの上級イメージを演出する意図がありそうだ。ただ、車体サイズのみならず、XEに酷似した内装デザインを見ても、Fペースはやはり、XEベースと定義すると理解しやすい。
XE以降のジャガーはまさに社運をかけた新世代商品群で、デザインやテイストといった趣味的な科目以前に、数値であらわせる商品性科目のほぼすべてでクラストップ、あるいはトップ級になるべく開発されている。それはFペースも例外ではない……どころか、セダンよりもはるかに競合が多いSUVにおいて「トップを張る」との意気込みは、XEやXF以上に強い印象だ。
新世代ジャガー商品群は「○○の形をしたスポーツカー」という開発思想も共通しており、Fペースは「SUVの形をしたスポーツカー」となる。Fペースの競合車は膨大に存在するが、先日の報道関係向け説明会でジャガー自身が連呼していたのは「ポルシェ・マカン」だった。主要科目以外の細部では他の競合車にゆずる部分があっても、マカンにだけはなにひとつ負けるべからず……が裏開発目標だったであろうことは、その説明っぷりからもにじみ出ていた。
ルックスと違って実用的
Fペースは、なるほど典型的なスポーツカールックである。しかし、Fペースの全長・全幅は、縦置きFR系SUVではクラス最大である。ホイールベースも「メルセデス・ベンツGLC」とならんでクラス最長。スポーツカールックだから全高はさすがにトップではないが、かといって低いわけでもなく、車体のディメンションはいかにもSUVらしい堂々たるものである。
よって、Fペースの室内空間は競合車比でもっとも広く、着座姿勢も健康的だ。さらにトランク容量も最大級で、しかも荷室形状も四角くて、タッパもあって使いやすい。
それなのにFペースがスポーツカー風に見えるのは、単純にいうと、ベルトラインより上のグリーンハウスを極端に絞っているからだ。かわりにベルトラインより下は異例なほど分厚く、その部分の前後エンドもスパッと断ち切ったかごとく垂直である。フロントオーバーハングはFRベースの4WD車らしい短さだが、リアのそれはフロントほど極端に切り詰めてはいない。
小さな窓と高いベルトラインに加えて、操作系を短いリーチでまとめたレイアウトもあって、運転席にスポーツカーらしいタイト感があるのはいつものジャガーだ。それ以外のシートも独特の閉所感があるのだが、スペースそのものは全方位にたっぷり余裕がある。窮屈さはまるでない。そして座面を高めにしたアップライトなドラポジでしっくりと落ち着いて、見晴らしもいい。
スポーツカールックなのに、実際のパッケージはなんとも生真面目。そんなFペースの特徴は、XEやXFにも共通するところだ。
シャシーの出来に感心
全車が油圧多板クラッチによるオンデマンド4WDになる以外は、エンジンやグレードのラインナップでも、Fペースは新世代ジャガー商品群にのっとったものだ。
今回試乗したのは2リッターディーゼルの上級グレードである「20d プレステージ」と3リッター過給V6ガソリンを積むスポーツ志向モデルの「35t Rスポーツ」という2機種。さらに上級の「S」や「ファーストエディション」に標準となる可変ダンパーは、20dや35tにもオプション装着可能だが、今回はどちらにも装着されていなかった。
SUVらしい大柄な車体に4WDという組み合わせで、Fペースは同エンジンのXEより250kg以上、XFより150kg近く重い。それでもディーゼルのFペースが意外なほど活発に走るのは、わずかにローギアード化されていることと、スロットルやシャシーがスポーツカー的にチューンされているおかげだろう。
印象的なのはアナログな固定減衰サスペンションなのに、ロールをほとんど感じさせないことだ。ステアリングアシストは明らかに少なめの設定で、統合可変スイッチをダイナミックモードにすると、ステアリングはおやっと思うくらいに重くなる。その重めのステアリングを切ると、Fペースは水平姿勢のままスルリとノーズが反応する。
かといって、アシがガチガチというわけでもない。整備された路面ではスーッと滑るように快適な乗り心地だし、ステアリングそのものは極端に敏感でもない。そのいっぽうで、4本のタイヤがバラバラに蹴り上げられる路面状況では上屋の動きが大きくなりがちなのは、ロール剛性のみを引き上げるチューニング意図が優先されているからだろう。
4WD機構はとても洗練されていて、刻々と変わっているはずのトルク配分もそうとは感じさせない。ただ、操縦性を見るかぎり、フロントへのトルクの吸い出し反応は控えめっぽく、FRらしい回頭性を重視したタイプといえる。それでも20d程度のエンジンでは、Fペースはなんのドラマも起こさない。安定しきった完全なシャシーファスターカーだ。
分かりやすくスポーツカー的
ガソリンらしい胸のすく伸びを見せる35tはさすがの快速SUVである。スロットルを不用意に踏むと後輪がズルッと路面から剥がれかけるほどで、即座に前輪にトルクが吸い出される様子が感じ取れるようになる。
20dよりも山坂道でのペースは上がるが、乗り心地や操縦性は20dに酷似する。アシそのものは意外と柔らかいのに、ロールだけが印象的なほど小さく、路面の得手不得手の違いが大きめだ。私は日本人としては腕力が弱いほうではないはずだが、山坂道用のダイナミックモードではパワステは重すぎのきらいがあり、結果としてノーマルモードがいちばん乗りやすいという点も同じだ。
得意な路面を走るFペースは、なるほどSUVのスポーツカーといえる。姿勢変化は小さく、回頭性は素直。勾配のあるコーナーでもピタリと安定して、タイヤはアスファルトをなめるように食いつく。こうしてツボにハマったときのFペースは、S字の切り返しもシャープそのもので、絶対的には遅くない8ATの変速がもどかしくなるくらいのペースでコーナーを駆け抜けることができる。
FペースがSUVながら“スポーツカー”であるためにジャガーが提示した根拠は、スモールキャビンを表現したスタイルやタイトな運転環境、そして快活なパワートレインに加えて、この“ズシリと重いパワステ”と“ロールしない水平姿勢”といったところだろう。
なるほど「ポルシェとジャガーではどっちがスポーツカー的か?」というブランド哲学論をのぞけば、Fペースには、マカンよりも分かりやすいスポーツカー的なキャラクターが仕込まれている。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
商品力のあるSUV
Fペースは、世界最激戦区といえるDセグメントSUV市場に、自身初の商品で、ほとんど最後発で……というチャレンジングな企画だ。そこにあえて真正面から突撃することを選んだジャガーの意欲には素直に感心する。
Fペースにジャガーの意欲を感じるポイントは多い。世界最先端といえるアルミ車体もそうだし、防水リストバンド型スマートキーや電動格納サイドステップなど、世界初あるいはクラス初の装備(ともにオプション)も少なくない。
さらに、きわだってスポーツカー的なキャラクターを演出しながらも、基本設計は本格SUVとして良心的である。たとえば、サイドシルやリアホイールアーチをフルカバーするドア構造しかり、前記のように広く健康的なパッケージもしかりである。
しかし、現状のFペースには、初モノ特有にして、意欲と勢いがあまって……の部分もなくはなかった。スポーツカーを押し出しすぎて、ロール剛性過多のきらいがあるシャシーチューンはその典型である。
とある評論家先生は、よりスピード志向の「S」のほうが、今回の20dや35tより、ジャガーらしいネコアシ感が濃厚で、より落ち着いた乗り心地だった……と教えてくれた。それはそれで有用な情報だが、Fペース全体を考えれば、ベーシックな20dでそういうテイストを実現するのが本来だろう。それに、35tではシャシーやエンジンが生み出すリズム感に、8ATの変速だけが追いつかないケースもあった。
ただ、そうした細かいチューニングはともかく、いかなるシーンでもミシリともしない車体剛性感は素晴らしい。さらに、コーナリングが決まったときの回頭性には、クラス最良重量配分の妙もある。また、最新のレーダー系安全機能もほぼフル装備で、これら技術装備内容を考えれば、20dで600万円台中心という価格も率直にいって値ごろ感がある。
これだけの基本能力があれば、リアルな市場に揉まれた来年、もしくは再来年あたり、Fペースはさらに飛躍的に化けてくれそうな予感もする。
(文=佐野弘宗/写真=郡大二郎)
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
ジャガーFペース35t Rスポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4740×1935×1665mm
ホイールベース:2875mm
車重:2000kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ スーパーチャージャー
トランスミッション:8段AT
最高出力:340ps(250kW)/6500rpm
最大トルク:45.9kgm(450Nm)/3500rpm
タイヤ:(前)255/50R20 109W/(後)255/50R20 109W(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5)
燃費:10.1km/リッター(JC08モード)
価格:849万円/テスト車=1026万1124円
オプション装備:メタリックペイント<イタリアンレーシングレッド>(10万2000円)/パーフォレイテド・トーラスレザー・スポーツシート(28万1000円)/360度パークディスタンスコントロール(12万1000円)/20インチ Blade 5スポークホイール<グロスブラックフィニッシュ>(22万1000円)/レジャーアクティビティーキー(4万1000円)/スライド式パノラミックサンルーフ<電動スライディング/ブラインド付き>(23万8000円)/キュイールグレイン・インストゥルメント・ストッパー(5万円)/アダプティブクルーズコントロール<キューアシスト、インテリジェントエマージェンシーブレーキ付き>(25万4000円)/ブラインドスポットモニター<リバーストラフィックディテクション付き>(11万3000円)/レーンキープアシストおよびドライバーコンディションモニター(11万3000円)/プライバシーガラス(7万9000円)/ジェット・ヘッドライニングカラー(6万6000円) ※以下、販売店オプション プレミアムカーペットマットセット<ジェット>(4万8924円)/ラゲッジコンパートメント プレミアムカーペットマット(4万3200円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
ジャガーFペース20d プレステージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4740×1935×1665mm
ホイールベース:2875mm
車重:1940kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:180ps(132kW)/4000rpm
最大トルク:43.9kgm(430Nm)/1750-2500rpm
タイヤ:(前)255/55R19 111W/(後)255/55R19 111W(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5)
燃費:15.8km/リッター(JC08モード)
価格:663万円/テスト車=861万3004円
オプション装備:メタリックペイント<グレイシャーホワイト>(10万2000円)/360度パークディスタンスコントロール(12万1000円)/19インチ Fan 5スポーク<シルバーフィニッシュ>(14万7000円)/レジャーアクティビティーキー(4万1000円)/スライド式パノラミックサンルーフ<電動スライディング/ブラインド付き>(23万8000円)/アダプティブクルーズコントロール<キューアシスト、インテリジェントエマージェンシーブレーキ付き>(25万4000円)/ブラインドスポットモニター<リバーストラフィックディテクション付き>(11万3000円)/レーンキープアシストおよびドライバーコンディションモニター(11万3000円)/プライバシーガラス(7万9000円)/プラクティカリティーパック<リモートリアシートリリース、ハンズフリーテールゲート、カーゴネットキット、キーレスエントリー>(6万8000円) ※以下、販売店オプション ディプロイアブルサイドステップ(46万80円)/プレミアムカーペットマットセット<ジェット>(4万8924円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:3861km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
NEW
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。 -
NEW
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える
2025.10.20デイリーコラム“ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る! -
NEW
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】
2025.10.20試乗記「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。