第3回:カンブリア紀の生命大爆発
2016.08.09
カーマニア人間国宝への道
野暮天の極致、ド中古の初代「プリウス」
2009年5月、カーマニアとしての養分の補給および大進化を目的に敢行した欧州5カ国レンタカー行脚。その時たまたまレンタカー屋にあてがわれた「フォード・フォーカス エステート 1.6ディーゼル」は、まさしく欧州の吉野家牛丼(並)であり、その土着性に激しい憧れを抱いた不肖清水草一だったわけなのだが、折しもそのわずか3カ月前、私は初代「プリウス」のド中古を43万円にて購入していた。
フォード・フォーカス エステート 1.6ディーゼルが欧州の吉野家牛丼(並)なら、9年落ち走行5万km、43万円の初代プリウスは、かつて神童とうたわれたけど今はさえないドブネズミ色サラリーマン(43歳)、という感じだろうか。
なにしろ見た目が泣きたいほどダサかった。かつて斬新に思えたスタイリングは野暮天の極致、同じく斬新に思えたインテリアはさびれた遊園地。そこに座っていること自体が苦行に近かった。
嫌々、カーマニア道は修行の道。さすがに愛車がこれ1台だったら窒息するが、私にはフェラーリ様がある。めったに乗らないがとにかく持っている。世間的にも「清水草一=フェラーリ」というイメージを持っていただいている。なのに普段はあえて野暮天な初代プリウスに乗る! それがたまらなくオシャレさん! そう思うことにした。
「今日からお前は大和だ!」
が、シルバーのボディーカラーはあまりに普遍的に野暮天だったため、オールペンを敢行することにした。
カラーは「R32スカイラインGT-R」のガンメタを選択した。32GT-Rは日本の誇り、戦艦大和の生まれ変わりだ。そのボディーカラーをまとうことで、ド中古初代プリウスに戦闘マシンの魂を移植することを狙ったのだ。
「戦え、戦うんだ初代プリウスよ! 今日からお前の名は『大和』だ!」 何と戦うのか。もちろん燃費である。
大和としてリボーンした激安初代プリウスは、しかし早くも私に激しい衝撃を与えていた。
「うおおおお、燃費アタックって楽しい!」
それはとてつもなく奥の深い頭脳ゲームだった。そこらのガソリン車とハイブリッドカーとじゃ、燃費アタックの複雑さのレベルが違う。なにせプリウスは2つのパワーユニットを載せ、適宜組み合わせて使っている。その順列組み合わせは無限大。まるで男女関係のもつれである。オッサン単独では屁をこいてもひとりだが、男女がそろえば屁をこくのもドラマとなる。
いかにしてこの一組の男女に相互補完的な関係を築かせるか。それをアクセル操作のみで行うのは、「F40」での筑波サーキット最終コーナー立ち上がりのアクセル操作に勝るとも劣らないシビアさだった。
さすが元神童!
最大の衝撃は、プリウスは高速道路で渋滞にハマると燃費が伸びることだった。
プリウスの燃費については、職業柄ある程度熟知していたが、しかしやはり広報車に試乗するのと愛車にするのとでは訳が違う。渋滞する週末に広報車で家族ドライブとかに出掛けないので。
というか私は渋滞研究家でもあるので、わざわざ渋滞にハマりに日本各地に遠征することもあり、その際にその恐るべき事実が判明して震撼した。
プリウスは高速巡航時には、アンダーパワーの超退屈な「ほぼガソリン車」となるが、その間せっせと充電を続けるため、渋滞にハマるとしばらく(距離で10kmくらいまで)半EV的に走行することになり、燃費がドカンと伸びるのだった。初代プリウスすげえ! さすが元神童! 渋滞バンザイ! プリウスに乗ってると渋滞が楽しみ!
その時私の脳内では、次のような理想の構図が生まれていた。
「神であるフェラーリ様を信仰しつつ、大和で燃費との激しい戦闘を繰り返し、欧州の吉野家牛丼(並)を食って生きる生活」。
これ以上多様性に満ちた刺激的なカーライフはあるまい。まさにカンブリア紀の生命大爆発。
(文=清水草一/写真=清水草一、池之平昌信)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
第343回:おやじ、涅槃で待つ 2026.8.31 清水草一の話題の連載。ちまたでの評判がよく、売れ行き好調の新型「日産キックス」に試乗した。その出来はカーマニアをも満足させる評判どおりのもので、新車購入のきっかけにもなった。え? 購入したのはキックスではない?
-
第342回:どうしてこんなに高いんですか 2026.8.17 清水草一の話題の連載。BYDが日本の軽自動車市場に向けて独自開発した電気自動車「ラッコ」が上陸した。早速、愛車「ダイハツ・タント」の後継として検討すべく、近所のディーラーで試乗することに。果たしてその印象は?
-
第341回:「スカイアクティブZ」は大丈夫か 2026.8.3 清水草一の話題の連載。夜の首都高に新型「マツダCX-5」で出撃した。マイルドハイブリッドのパワートレインと進化したシャシーが織りなす走りを確かめつつ、ディーゼルエンジンがラインナップから消えた3代目CX-5について考えた。
-
第340回:一にエンジン、二にカッコ 2026.7.20 清水草一の話題の連載。マツダ渾身(こんしん)のラージ商品群を応援するカーマニアのひとりとして、「CX-60」と「CX-80」の動向は常に気になっている。3列シートSUV、CX-80の最新モデルにあらためて試乗して感じたこととは?
-
第339回:駆けぬけるヨロコビは安くない 2026.7.6 清水草一の話題の連載。いつもの首都高で試乗した「BMW 120d Mスポーツ」の価格が540万円ってマジか! と思っていたら、本国ではなんと4万1750ユーロ(邦貨約770万円)⁉ 安かったころ、もっと小さかったころのBMWに思いをはせた。
-
NEW
北米産の800万円級SUV「トヨタ・ハイランダー」「日産ムラーノ」「ホンダ・パスポート」で一番“買い”なのはどれか?
2026.9.4デイリーコラム特例により国内導入されることになった北米生産のジャパニーズSUVは、3車種ともにサイズと価格帯が接近している。では、そのなかで最も“買い”なのは? それぞれの仕様を見比べてみた。 -
ホンダがコンセプトモデル「アキュラ・ネクセラ ビジョン」を発表 次世代デザインを読み解く
2026.9.3デイリーコラム本田技研工業の米国現地法人アメリカン・ホンダモーターが、アキュラブランドの次世代デザインを示すというコンセプトモデル「ネクセラ ビジョン」を初公開した。バタフライドアを採用するこのスポーツカーは、次世代アキュラの何を表現しているのか。 -
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(後編)
2026.9.3あの多田哲哉の自動車放談ワインディングロードで新型「BMW iX3」のステアリングを握った多田哲哉さんは、その走りに感心した様子。どんなところが優れているのか、トヨタのエンジニアの視点で語ってもらおう。 -
新型「三菱パジェロ」の外装・内装を写真でチェックする
2026.9.2画像・写真5年間のブランクを経て、三菱のフラッグシップSUV「パジェロ」がついに復活! 「グランドカリスマ -泰然自若-」をコンセプトにデザインされた本格クロスカントリーモデルは、どのような姿をしているのか? 内外装の詳細を、写真で紹介する。 -
復活の決め手はこっくりさん!? 新生「三菱パジェロ」誕生の経緯とその狙い
2026.9.2デイリーコラム5年間の沈黙を経て、ついに登場した新型「三菱パジェロ」。スリーダイヤモンドが誇る荒野のフラッグシップは、いかにして復活を遂げたのか? 開発の経緯や内外装デザインの詳細、パワートレインに見るクルマの“狙い”をリポートする。 -
第127回:新型BMW X5(後編) ―迷走するBMW 結局アナタは“ノイエクラッセ”でなにがしたかったの?―
2026.9.2カーデザイン曼荼羅その姿が明らかとなるや、賛否両論を巻き起こしている新型「BMW X5」。このクルマは既存のBMW製SUVとはなにがちがうのか? そもそもBMWは“ノイエクラッセ・デザイン”になにを託していたのか? カーデザインの識者と、迷走するBMWの明日を探った。