第462回:イタリアでも支持率上昇中!
ヒュンダイ、試乗インプレッション
2016.08.12
マッキナ あらモーダ!
「コルサ」か「ポロ」か、それとも……
「レンタカーは、最も安いグレードのものを借りる」というのがボクの原則である。
もともと、自分のクルマでも見栄を張る気は毛頭ない。ゆえに、借り物のクルマではいいモデルに乗る気など全くおきないのである。
先日ドイツ南西部に赴いたときも、最も安い「エコノミー」というグレードをイタリアから予約しておいた。ウェブサイトには「『フォルクスワーゲン・ポロ』もしくは同等クラス」と表示されていた。
当日、シュトゥットガルト空港でレンタカー会社に向かう。
カウンターの向こうを見ると、いつものようにオペルのキーが、いくつも無造作に置かれていた。ボクは、「ま、いつもこんなものだよな」と心の中で呟(つぶや)きながら、本エッセイの第391回「痛快! オペルの自虐CM」で紹介した主人公たちの気持ちになった。
さらに困ったことに、カウンターの係員は「残念ですが、お客さまがネット予約したのは、空港じゃなくて、市内貸し出しのクルマですよ」という。よく見ると、たしかにプリントして持参した予約確認書でも「市内」になっている。格安のレンタカー会社探しに気をとられ、貸し出し地の欄で「空港」を選択するのを失念してしまったようだ。
係員は、当然のように手元にあるオペルのキーの束から1台を選ぼうとした。「コルサ」か何かだろう。コルサにはすでに英国で2回、ポーランドでも1回乗っている。ボクは慌てて、「ほ、ほかに何かありますか」と詰め寄った。
すると係員は、「お客さまはもともと空港発の予約ではなかったので、限られますよ」とか何とか言いながらも、後ろの棚に回ってキーを3つ携えてきた。
「今用意できるのはフォルクスワーゲン・ポロ、『プジョー208』、もしくは……」
「もしくは?」ボクはすかさず聞き返す。
すると彼はこう言った。「『ヒュンダイi20』です」
「ヒュンダイを知らないのは日本だけかもしれない」というのは、かつて2000年代にヒュンダイが日本進出を試みた際の広告キャッチであるが、思えばボクもヒュンダイ車を運転したことがない。それに、かつて知り合った日本メーカーのデザイナーが、横浜のヒュンダイ日本研究所に移籍したと、少し前に風のうわさで聞いた。これは話の種になる。
いざヒュンダイ初体験
ということで、迷わずヒュンダイi20を貸してもらうことにした。料金は4日間(走行1200kmまでは追加料金なし)60.8ユーロ+ポータブルカーナビ30.24ユーロ、空港発着特別料金、そしてそれらに掛かる付加価値税(19%)で、合計133.79ユーロ(約1万5000円)だ。
立体駐車場に赴くと、黒いi20が待っていた。2014年に登場した現行モデルは、翌2015年に「ゴールデン・ステアリングホイール」の小型車部門賞を獲得している。欧州で販売される仕様はトルコ製だ。
1.2リッター4気筒ガソリン(84ps)+5段MTの仕様である。オドメーターの走行距離は4000km台。グローブボックスに入っていた書類を見ると、今年の6月におろしたばかりのクルマだ。ラゲッジスペースは、中型スーツケースを載せてもまだかなり余裕がある。
早速シュトゥットガルト近郊を走ってみる。クラッチのミートポイントは、近年の同クラス車に比べても素直なので、ペダルワークに余計な気遣いは不要だ。ストップ&スタート機能も備わっている。エンジンの停止・再始動とも、しぐさは極めてジェントルだ。特に停止の動作は振動がほぼ皆無で、作動したことに気づかないほどである。
翌日は仕事上、一日の大半をシュヴァルツヴァルト(黒い森)の中を走り回る必要があった。
前マクファーソンストラット、後ろトーションビーム式のサスペンションは、淡々とワインディングロードで仕事をこなす。しかし、気になったのは、ギア比の設定だ。2速と3速が、かなりハイギアード気味なのだ。そのため上り坂にさしかかるたびに頻繁なギアチェンジが要求され、ちょっとストレスがたまる。もちろん、アクセルペダルを踏み込んで高い回転域まで回せば、ある程度は克服できるのだが、それでももっとトルクが欲しい。後続車が穏やかなドイツ人ドライバーだったからよいが、イタリア人だったらかなり煽(あお)られたに違いない。
「i20」の評価は道次第?
やがて、メータークラスター内にある灯火類の警告灯が点灯。続いて、タイヤ空気圧警告灯もつきっぱなしになった。慌ててサービスネットワークを記したブックレットで調べてみると、20分ほど走った町にディーラーがあることが判明した。だが、どちらも実際にライトとタイヤを確認すると問題ないことがわかり、空気圧の警告灯は自然に消えてしまった。
i20では、アウトバーンも利用した。前述のようなトルク特性ゆえ、本線合流前の加速では、もう少し力強さがほしいところだ。幸いドイツの道は加速車線が十分に長いので、危険なレベルというわけではないが。
本線に入ると、i20の走りは見違えるように生き生きとしてきた。i20はアウトバーン推奨速度の130km/hはもちろん、150~160km/h巡行も余裕をもってこなす。追い越し加速もそれなりに十分で、猛烈なスピードで走る他車がない場合は、最高速車線を用いて追い越すことも決して不安はない。そばを走る大型トラックによる横風の影響も極めて少ない。
このクルマは、オペルと同じフランクフルト郊外リュッセルスハイムにある、R&Dセンターで開発された。スタッフたちの頭の中には、アウトバーンでなみいる高速セダンと互角に走るi20の姿があったのは間違いなかろう。
4日間で575kmを共にした結論として、i20の1.2リッターガソリン仕様は、山岳地帯に富んでいて、アウトストラーダにもきついアップダウンがあり、また加速車線が短いイタリアのような国では、ユーザーの評価が分かれるだろう。特に今も新車販売の半数以上をディーゼルが占めるイタリアでは、多くの人にとって、トルクの出方が少々物足りないと思われる。
逆に、平地が多く、アウトバーンのように整備された高速道路を持つドイツなどでは、かなりの大穴的選択であるとボクは確信した。
イタリアで高まるヒュンダイ人気
とはいっても、イタリアでも、ヒュンダイおよびグループ企業であるキアのユーザーは少なくない。
ボクの周囲もしかりだ。定年退職した知り合いのおじいさんは、早くも1990年代中盤からヒュンダイユーザーになった。かかりつけの女性歯科医は、以前ドイツ製プレミアムブランドのオープンモデルに乗っていたが、ブームにのって、少し前ヒュンダイのSUVモデルに乗り換えた。リサイクルショップの店長はキアのSUVのコストパフォーマンスを絶賛する。
参考までに、イタリアの2016年1月~7月の新車登録台数で、ヒュンダイは3万4520台。前年同期比16.87%増を記録している。
今回乗った「i20 1.2」の価格は、税込み1万3850ユーロ(約160万円)から。同じBセグメントのオペル・コルサ、「フォード・フィエスタ」と互角に戦える価格である。そのうえ、走行距離無制限の5年保証は、オペルやフォードの2年に対して大きなセリングポイントだ。加えて車線逸脱警告システムをはじめとする上級クラス顔負けの装備は、一般的なユーザーの目に魅力的に映るだろう。
そういうボクも、夏でも冷え冷えとしたドイツの朝に耐えられなくなり、借り出し時には「Bセグメントのクルマに、なにもこんなモノまで」と苦笑したシートヒーターとステアリングヒーターを、毎朝愛用してしまった。
話は飛ぶが、チュニジアにいる知人の最新情報によれば、近年、中近東・北アフリカ諸国において、いわゆる「韓流ドラマ」が人気上昇中で、彼女も欠かさず見ているという。
チュニジアとイタリアは目と鼻の先。ヒュンダイ車だけでなく、韓流ドラマもイタリアに上陸する日は近い? それが実現した暁には、かつて東京のヒュンダイ販売店でもらった「ヨン様」こと俳優ぺ・ヨンジュンの写真入りポストカードをイタリア人に見せびらかそうと思っている筆者である。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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