第4回:贅沢は不倶戴天の敵
2016.08.16 カーマニア人間国宝への道普段のゲタに800万円も出せるか!
神であるフェラーリ様を信仰しつつ、大和(ド中古初代「プリウス」)で燃費との激しい戦闘を繰り返し、欧州の吉野家牛丼(並)(欧州製ディーゼル乗用車を指す)を食って生きる生活こそ、究極の多様性に満ちた刺激的なカーライフ! まさにカンブリア紀の生命大爆発! という直感を得た私だったが、そこに大きな壁が立ちはだかった。
この悟りを得た2009年当時の本邦においては、クリーンディーゼル乗用車のラインナップが極めて乏しかったのである。
具体的には「メルセデス・ベンツE320 CDI」と「日産エクストレイル20GT」のみ。生態系がカバとハコフグしかなかった。
実をいえば、カバもハコフグも非常に魅力的なクルマではあった。特にカバのトルクフルな走りは悪魔的で、牛丼も極めればここまで来るのか! と感嘆させられた。同じ牛丼でも吉野家牛丼(並)とは大変な違いである。
しかし私には、そんな超高級牛丼を毎日食う生活は想像できなかった。想像できないというより好きになれない。それは違う、毎日フェラーリに乗るのはもちろんダメだけど、毎日E320 CDIに乗るのもなんかちょっとダメ! 毎日吉兆のお弁当食うみたいで。
もちろん、この辺の感覚には個人差があろう。E320 CDIは普段のゲタとして開発されたクルマなわけだし。
しかしそれはあくまで富裕層のゲタだ。庶民がゲタに800万円も出すのは絶対に間違っている。フェラーリ様を買うために血や臓器を売るのは正しいが、ゲタに800万円は絶対やってはいけないことだ!!
恐るべし、E320 CDI
E320 CDIが日本で発売されたのは2006年。当時は他に日本で乗れるクリーンディーゼル車は皆無だっただけに、それは本当に衝撃的なトルクと燃費であり、ガソリンエンジンの高級車に乗るのがバクテリア並みのアホに思えた。
ディーゼルらしきカラカラ音はほとんどまったく聴こえないし、排気もまるでキレイに見える。弊社スタッフのマリオ二等兵はこのクルマを存分に試乗した後、次のように報告している。
マリオ二等兵「マフラーに口を近づけ排ガスを思いっきり吸入させていただきましたが、ウワサ通り、臭くない! これなら吸える! と確信しました! 正確に計測したワケではありませんが、一気に吸入してもせきこむこともなく、体に悪い物質が少ない! ということは体で確かめることができました!」
実は当時のE320 CDIはユーロ4適合に過ぎず、窒素酸化物は現在比でかなりドバドバ出ていたはずだ。それこそフォルクスワーゲンの不正ディーゼル車並みかそれ以上出ていたと思われるが、窒素酸化物は無味無臭につき、マリオ二等兵には検知できなかったようだ。私にもできないが。
ゲタ車の常識通用せず
このE320 CDIで中部・関西の史跡巡り取材に遠征した際は、そのあまりの快適性と低燃費に心底打ちのめされた。あんだけ気持ちよく飛ばして16km/リッターかよ! と。しかし、「こんだけ高けりゃな」というのもまた事実であった。
もちろん、希望はあった。クルマには中古車という裏技、いや王道がある。待てば海路の日和あり。中古になってもあんまり値段が下がらないのはフェラーリ様くらいで、ゲタ車はどんな高級車も下がる。いや高級車ほどドカンと下がる。「Sクラス」なんざ鬼のように下がる。10年で10分の1以下になる。値段が下がれば吉兆のお弁当だって毎日食ってOK。それが高度資本主義社会である。
が、しかしE320 CDIは下がらなかった。私のようにコレの中古を狙うカーマニアが多数存在していたのであろう(推測)。需要があれば価格は下がらない。それもまた高度資本主義社会の法則である。
2009年当時はまだ、最安でも500万円くらいしていた……ような記憶がある。しかもその最安車、走行距離は10万kmオーバー! 10万kmオーバーで500万円けぇ!
いや、耐久性に富むディーゼル車にとって10万kmなんざ序の口なのだろうが、でもやっぱり10万kmに500万円はイカン。それはそれで贅沢の極み! 贅沢は不倶戴天(ふぐたいてん)の敵だ! フェラーリ様を除いては。
(文と写真=清水草一)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
第320回:脳内デートカー 2025.10.6 清水草一の話題の連載。中高年カーマニアを中心になにかと話題の新型「ホンダ・プレリュード」に初試乗。ハイブリッドのスポーツクーペなんて、今どき誰が欲しがるのかと疑問であったが、令和に復活した元祖デートカーの印象やいかに。
-
第319回:かわいい奥さんを泣かせるな 2025.9.22 清水草一の話題の連載。夜の首都高で「BMW M235 xDriveグランクーペ」に試乗した。ビシッと安定したその走りは、いかにもな“BMWらしさ”に満ちていた。これはひょっとするとカーマニア憧れの「R32 GT-R」を超えている?
-
第318回:種の多様性 2025.9.8 清水草一の話題の連載。ステランティスが激推しするマイルドハイブリッドパワートレインが、フレンチクーペSUV「プジョー408」にも搭載された。夜の首都高で筋金入りのカーマニアは、イタフラ系MHEVの増殖に何を感じたのか。
-
第317回:「いつかはクラウン」はいつか 2025.8.25 清水草一の話題の連載。1955年に「トヨペット・クラウン」が誕生してから2025年で70周年を迎えた。16代目となる最新モデルはグローバルカーとなり、4タイプが出そろう。そんな日本を代表するモデルをカーマニアはどうみる?
-
第316回:本国より100万円安いんです 2025.8.11 清水草一の話題の連載。夜の首都高にマイルドハイブリッドシステムを搭載した「アルファ・ロメオ・ジュニア」で出撃した。かつて「155」と「147」を所有したカーマニアは、最新のイタリアンコンパクトSUVになにを感じた?
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。