シボレー・コルベットZ06コンバーチブル(FR/8AT)
むしろ洗練されている 2016.08.26 試乗記 シボレーのイメージリーダーを担う高性能スポーツモデル「コルベット」の、さらなるハイパフォーマンスバージョンが「Z06」である。今回は8段ATのコンバーチブルに試乗。サーキットが鍛えたその実力と、同車が持ち合わせる意外な一面をリポートする。大型バスも真っ青の力持ち
シボレー・コルベットの最高性能版、Z06を前にして、今日は体調が良好でよかったとホッとする。好戦的なフロントマスク、ノーマルモデルに比べてフロントで56mm、リアで80mm幅広くなった、全幅2mに届かんとするワイドなボディー。風邪気味や寝不足だったら気おされてしまうに違いない。
「よっしゃ」と気合を入れて乗り込むも、ドライバーズシートに座るといい意味でホッとする。前を行くクルマにかみつきそうなエクステリアとは対照的に、インテリアは落ち着いた雰囲気なのだ。
スポーツカーらしく室内はタイトだし、フラットボトムのステアリングホイールはレーシーだ。それでも体を包み込むようにホールドしてくれるシートの掛け心地は快適だし、レザーに施されたステッチは目が細かくてきれい。インテリアは高級車のしつらえである。
本日、体調が良好なのはよしとして、問題はお天気だ。最高出力659ps、最大トルク89.8kgmのモンスターを走らせる日だというのに、路面はウエット。それどころか、時折空の上でだれかがバケツをひっくり返している。
ちなみに日野自動車の大型観光バスが積む排気量7.7リッターのディーゼルエンジンの最大トルクが81kgmであるからして、Z06のエンジンがどれだけ力持ちかは推して知るべし。
恐る恐るアクセルペダルを踏み込んで、そろそろと市街地を走りだす。こんな走り方だと、このクルマは自分が化け物であることを巧妙に隠す。
まず乗り心地がいい。路面の不整を乗り越えるとビシッとショックは伝わるものの、衝撃の余波はだらだらと続かず、一発で収束する。辛口だけれど、後味がいい。
基本骨格にアルミを用いた軽くて強いボディー構造と、走行状態や路面状況に応じて1000分の1秒単位で減衰力を調整する、「マグネティックライドコントロール」がいい仕事をしている。
このタイヤで雨天のドライブは厳しい
GMが自社開発した8段ATが賢いことも、洗練された走行感覚につながっている。変速したことに気付かないほど変速ショックは小さく、それでも注意して観察すると早め早めにシフトアップして燃費を稼いでいることがわかる。
下り坂で速度を落とそうとブレーキを踏むとそれに合わせてシフトダウン、反対に速度を上げるためにアクセルペダルを踏み込む力を込めると、まさにここでシフトダウンしてほしいところでシフトダウン。このあたりの制御もキメが細かい。
都内で粛々と走らせる限りは、トルクの豊かなエンジンと洗練されたトランスミッションを組み合わせた高級車、といった印象だ。
それにしても憂鬱(ゆううつ)なのは雨脚が次第に強まっていることで、バケツではなく風呂おけでもひっくり返しているよう。中央道に入ると、大げさではなく路面には川が流れていた。
フロントが285/30ZR19、リアが335/25ZR20という極太サイズのタイヤを履くせいか、50km/h程度に速度を落としても時々水の膜に乗った感じがしてヒヤッとする。姿勢を崩すほどではないけれど、あまり気持ちがいいものではない。銘柄は「ミシュラン・パイロットスーパースポーツ」。
五木寛之の小説に『雨の日には車をみがいて』というのがあったけれど、このクルマとオプションの組み合わせだったら、雨の日は遠出をせずにクルマを磨いて過ごしたい。
われわれ取材班のだれかの行いがよかったのか、目的地の富士五湖周辺に到着する頃には雨は上がり、青空も顔を見せた。すっかり忘れていたけれどこいつはコンバーチブル、スイッチ操作で屋根を開け放つ。
うれしいことに、真夏の太陽が照らすと路面はすぐに乾き始めた。
日本の道でも十分に楽しめる
路面がドライに変わったとはいえ、日本の道路事情だと最高速度はせいぜい100km/h。スーパーチャージャーで武装した、6.2リッターV8直噴エンジンもブレンボのブレーキシステムも、そのポテンシャルの何割かしか発揮できない。
じゃあ宝の持ち腐れかといえば、そんなことはない。
まずこのエンジン、最高出力と最大トルクに目を奪われがちであるけれど、ただマッチョなだけではない。丁寧にアクセルペダルを操作すれば、それに繊細に応えてくれるのだ。
スーパーチャージャーのローターを小さく短くすることで速く回転させ、素早くブースト圧を上げることにこだわったというけれど、その効果は確かにある。
レスポンスだけでなく、音もいい。一昔前のチューニングカーのようなセンター4本出しのド迫力マフラーはヌケのいい排気音を響かせ、屋根を開けて走ると風の音とミックスされてさらに気分が高まる。
面白いのは高速巡航だとかなり頻繁に気筒休止システムが作動して、4気筒エンジンに変身して4つのシリンダーが休憩すること。音もショックもなく変身するからディスプレイを見ていないと気付かないけれど、これほどのハイパフォーマンスカーであっても効率を考える時代なのだ。
「ウェザーモード」「エコモード」「ツアーモード」「スポーツモード」「トラックモード」の5つの走りを選べるドライバーモードセレクターを、長距離を快適に走る「ツアーモード」から「スポーツモード」にチェンジ。排気音に迫力が増すと同時に、ステアリングホイールの手応えがグッと骨っぽくなった。
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“高性能なスポーツカー”というよりも
「スポーツモード」でワインディングロードへ。富士五湖周辺の典型的な日本サイズのワインディングロードでこれだけの高性能、持てあますのではないかと心配だったけれど杞憂(きゆう)だった。
エンジンと同じく、ハンドリングは正確かつ繊細。ステアリングホイールを握る手のひらに少し力を入れると、長~いノーズがスッと向きを変える。行きたい方向に視線を向けるだけでノーズが向きを変えるように感じるほどだ。
ブレンボ製のブレーキシステムも、この程度の道でへこたれてフェードしないのはもちろん、タッチが素晴らしい。ドカンと踏んでガツンと利く、というのとは対極にあるフィーリングで、微妙に速度をコントロールできる。だからブレーキペダルを踏むのが楽しい。
シボレー・コルベットZ06の最高出力659psは、Z51の466psから実に200ps近くも増量されている。数値だけでなく、モータースポーツで好成績を残している「シボレー・コルベットC7.R」と同時に開発されたという出自からも、Z06はコルベットの最高性能版というよりも、レーシングモデルのデチューン版という表現が近いように思う。
したがって、本来はサーキットでテストする乗り物なのかもしれない。けれども、レーシングモデルのデチューン版が荒々しい乱暴者ではなく、繊細ささえ感じさせる洗練された乗り物だったのは、大きな発見だった。
(文=サトータケシ/写真=宮門秀行)
テスト車のデータ
シボレー・コルベットZ06コンバーチブル
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4515×1970×1230mm
ホイールベース:2710mm
車重:1660kg
駆動方式:FR
エンジン:6.2リッターV8 OHV 16バルブ スーパーチャージャー付き
トランスミッション:8段AT
最高出力:659ps(485kW)/6400rpm
最大トルク:89.8kgm(881Nm)/3600rpm
タイヤ:(前)285/30ZR19 94Y/(後)335/25ZR20 99Y(ミシュラン・パイロットスーパースポーツ)
燃費:シティー=13mpg(約5.5km/リッター)、ハイウェイ=23mpg(約9.8km/リッター)(米国EPA値)
価格:1502万円/テスト車=1519万円
オプション装備:ボディーカラー<ラグナブルーメタリック・ティンコート>(12万9000円)/フロアマット(4万1000円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:3145km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:413.8km
使用燃料:63.7リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.5km/リッター(満タン法)/7.3 km/リッター(車載燃費計計測値)
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サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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