シボレー・コルベット コンバーチブル(MR/8AT)
底が知れない 2021.09.18 試乗記 ミドシップ化によって高い運動性能を獲得した新型「シボレー・コルベット(C8)」。その実力は、電動ハードトップを備えた「コンバーチブル」でも変わらない。とくに峠道では、オープンエアの心地よさに加え、C8の底知れないポテンシャルも感じることとなった。欠点は“ご本尊”を拝めないことぐらい
通算8代目(=C8)となる新しいコルベット最大の“新しさ”は、いうまでもなくミドシップ化されたことだ。それに次ぐ大きなトピックは、歴代コルベットすべてに用意されてきたコンバーチブル(初代=C1はコンバチのみ)が、史上初めて格納式ハードトップを採用したことだろう。
C8コルベットにおける、この2つのトピックはある意味で連動している。というのも、現在のオープンスポーツはFRではソフトトップが主流だが、ミドシップではその逆だからだ。最新例では、ランボルギーニはソフトであるものの、フェラーリとマクラーレンはハードである。格納式ハードトップは閉めたときの車体剛性や防犯性は圧倒的に高いが、大がかりで重くなってしまいがちなのがデメリットだ。しかしトップ開閉部分が小さいミドシップなら、ハードトップでも小型軽量なシステムで成立させられる。
実際、C8コルベットのコンバチも、ハードトップがゆえのデメリットはとても小さい。開閉時間が片道で約16秒、車速48km/h以下なら走行中も開閉可能という機能性は、最近の電動ソフトトップにほとんど劣らない。またクーペからの重量増は30kg。車両重量が約1.7tのコルベットでいうと2%にも満たない差である。車体剛性についても、コルベットはクーペといってもルーフパネルが脱着式のタルガトップであり、見た目からも想像できるようにクーペとコンバチとの性能差はそもそも小さい。
唯一のデメリットは、クーペではリアウィンドウ越しに見えていた6.2リッターV8 OHVエンジン「LT2」のお姿が、コンバチではほぼ完全に拝めなくなることだろう。これまで以上に低く搭載できるようになったLT2のおかげもあって、エンジンコンパートメントの真上に2分割ルーフの収納空間があてがわれるためだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
操作インターフェイスに見る知性
トップの開閉はもちろん電動ボタンひとつでOKだが、当初、そのボタンがなかなか見つからなかった。この種のスイッチはたいがい、ある種の演出も含めてセンターコンソールの一等地に鎮座しているものだ。しかしコルベットのそれは、運転席のドアに、パワーウィンドウのスイッチと紛れるようにひっそりと置かれる。これだけでなく、オーバーヘッドコンソールに追いやられたハザードボタンや、センターコンソールの“峰”にずらりとならべられたスイッチ群など、C8コルベットのインターフェイスは賛否両論の話題に事欠かない。ただ、これらも最初は確かにギョッとするのだが、一度使い慣れてしまうと意外なほど勝手がいい。
多少のヒイキ目も含めていわせてもらえれば、走行中も操作可能な格納式ハードトップは、スイッチがここにあるおかげで、窓の開閉と同じくらい気軽かつ頻繁にオープン走行を楽しめそうな気がする。オーバーヘッドのハザードスイッチも、本当の緊急時にほかのボタンと混同しにくい。コンソールの峰ボタンも実際はすべて空調(もしくはシートヒーター&ベンチレーター)関連だから、ブラインド操作を必要とするわけではない。むしろ、これらのレイアウトのおかげでドライバーのリーチ範囲内には走行機能のスイッチだけが残されるので、運転に集中しやすい。
パワーステアリング、電子制御ダンパー、パワートレイン、ブレーキフィール、エンジン音、PTM(パフォーマンストラクションマネジメント)などの項目が変えられるドライブモードセレクターには、4つのモードのほかに「Myモード」「Zモード」という2つのカスタマイズモードが用意される。Myモードは設定項目をパワステ、ダンパー、ブレーキ、エンジン音だけに限定した“日常のお好みモード”で、ZモードはパワトレやPTMを含めてすべてを細かく設定・記憶できる“とっておきモード”という想定らしい。このように、一見ギミックに見えるデザインや機能も、リアルワールドで考え抜かれた知性を感じさせるのがコルベットなのである。
乗れば存外にフレンドリー
すべての造形にそれなりの意味づけがあるのは、エクステリアも同じだ。各部に設けられた通気口にダミーはひとつもない。一見するとデザイン優先っぽいリアスポイラーも、急角度につままれて強いダウンフォースを発生する中央部と、整流効果が高そうな両サイドとの組み合わせである。
オープンにしても横転時の安全性を確保するバルジが残る後方視界は、クーペと大差ない。つまり、まったくホメられたものではない。劇画タッチのエクステリアデザインもあって、初めて実車を目前にすると、ちょっと近寄りがたいオーラがあるのは事実だ。
ただ、実際に乗ったときの見た目からは想像できないほどに運転しやすい、それこそ“気安い”というほかないフィーリングは、C8にも受け継がれるコルベットの伝統である。同時に、コルベットが北米随一のポピュラーブランドであるシボレーの一員でもある証しだろう。
フロントからエンジンがなくなったC8は、市街地や高速道路を転がすだけならC7以前よりさらに気安い。フロントタイヤの位置やグリップ具合はこれまで以上に実感できるようになったのが理由のひとつだ。そして、これがコルベット史上初の右ハンドルであることも大きい。
ミドシップのスーパースポーツといえば、フロントよりリアが大きく張り出しているのが通例である。C8も寸法ではわずかにリアのほうが広いようだが、真上からの写真を見るかぎり、その差はわずか。実際、都合3日間のエセオーナー期間には、運転席からの直感にまかせて都内の住宅街や駐車場に突入しても、ヒップ幅や前後内輪差で困惑することは一度もなかった。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
優しい乗り味と高いパフォーマンスの両立
C8にも受け継がれるコルベット特有の気安さは、乗り心地によるところも大きい。連続可変ダンパーの制御はドライブモードやカスタマイズモードで全4種類のパターンから選べるが、もっともソフトだと思わず“異様”という言葉が出るほど快適だ。
もちろん舵角やGによって減衰は変わるのだが、市街地や高速を平和に流すだけだと、アメリカンツアラーらしいちょいユルな上下動で路面の凹凸を包み込む。5000rpm以上では金属的なヒステリックボイスを上げるLT2も、低回転ではおとなしい。100km/h程度では1300-1550rpm(=7速か8速)でハミングするだけだ。
もっとも柔かいダンピングでも、抜群のブレーキ姿勢は保たれる。ブレーキフィールも設定可能で、ハード側に振るほど初期反応が強まるが、路面をグッとかむ鮮明なフィードバックはモードを問わずに良好である。
ドライブモードセレクターを通常の「ツーリングモード」から「スポーツモード」に引き上げると、上下動が減ってターンインも1段階シャープとなる。これが一般的なワインディングロードではもっとも扱いやすいモードだが、それでも乗り心地は望外に快適だ。さらにサーキットを想定した「トラックモード」では、路面からの突き上げもやっと重低音系の“らしい”ものになる。それでも乗り心地は殺人的なものではなく、ここにいたっても車体も内装調度もミシリともいわない。今回のような公道のみの試乗では、個人的にトラックモードは不要と思うが、レーシングカート的な乗り味が好みなら、普通のワインディングでトラックモードというのもありだろう。
……なにをいいたいかというと、C8コルベットのフットワークは、どのモードでも欧州のライバルと比較して、ちょうど1段階ずつ柔らかく快適なイメージということだ。しかも、そういう上品で優しい味つけでも運動性能にネガを感じさせないのは、重心高や剛性、重量バランス、サスペンションのジオメトリーなど、C8の基本設計がよほど優秀だからだろう。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
屋根を開けてもハンドリングを楽しめる
今回はウエットのワインディング走行を余儀なくされることもあった。そんな場面ではPTMを安全方向に設定していても、踏んだ瞬間にズリリッといきかける場面がなくはなかった。502PS、637N・mはダテじゃない。
ただ、小心者の筆者がそこまで踏んでしまった背景には、ドライでのC8コルベットがLT2のパワーとトルクを完全に支配下に置いていたからでもある。そのトラクション性能と根が生えたようなリアの安定性は素晴らしいというほかない。公道で試せる範囲内ではオンザレールのまま、ちょっと驚くくらいの旋回Gに達する。
……と、ここにいたるまで、最初にトップの開け閉めを静止状態で試して以降は、ハードトップをずっと閉めたままで走っていたことに気がついた。ご想像のとおり、トップを閉めたC8コンバチは、剛性感も乗り味もクーペと選ぶところがないくらい能力が高い。
というわけで、ドアに仕込まれたトップ開閉ボタンを右指で押すと、頭上のハードトップが姿を消した。C8コルベットはいかにも最新ミドシップらしい深いバスタブにつかったようなドラポジなので、トップを開けても開放感はさほど高いとはいえない。それでも、シート後方の2つのバルジの間にある電動小窓を下げると、タルガ状態にしたクーペより明らかに風を感じられる。
走行中開閉が可能なのをいいことに頻繁にトップを開けたり閉めたりしてみると、オープン時にはステアリング付近にわずかな振動の発生を感じ取れる。いわゆるスカットルシェイクだが、そのレベルはお世辞ぬきで小さい。おそらくステアリングの反応も微妙にマイルドになっているはずだが、ハイグリップの本格クローズドサーキットではともかく、公道では操舵のタイミングを変えるほどではない。
これからの展開にも期待大
クーペでもルーフパネルを脱着することで、それなりのオープンエアモータリングが楽しめるのがコルベットの美点である。ただ、クーペでは外したルーフをリアトランクに収納するようになっている。
C8のコンバチは、そのトップ機構をクーペでは使われていないエンジン直上の空間に置く。トップの開閉は積載性能になんら影響せず、ゴルフバッグが2個積めるリアトランクのほか、当然のことフロントトランクもそのまま使える。積載性能や実用性はクーペと同等どころか、オープン時で比較すると、コンバチのほうがより実用的なくらいである。
このクルマの本体価格は1550万円。同等装備のクーペ「3LT」が1400万円だから、その差は150万円。150万円という金額そのものは安くないが、約1割の価格差で、ここまでネガの少ない格納式ハードトップが手に入るとなると、C8ではコンバーチブルが主力になっていく気がしないでもない。それよりなにより、1400~1550万円といえば「ポルシェ911」だとツルシでけっこう簡素な中身の「カレラ クーペ」しか買えない。ブランドがちがうとはいえ、クルマの内容だけで比較すると、コルベットは爆安である。
それにしても、こうしてC8コルベットに乗ってみても、新たな地平を開拓した基本フィジカル能力の限界はまだまだ見えない。これほど気安い調律なのに、シャシーは余裕しゃくしゃくというほかない。新世代のLT2エンジンも、前記のように6500rpmのトップエンド付近でのおたけびやタメのきいたレスポンスが快感でありつつも、まだ引き出しを隠していそうな気がしてならない。考えてみれば、C8コルベットはまだ序章にすぎない。内容といい価格といい、なんとも末恐ろしい(笑)。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
シボレー・コルベット コンバーチブル
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4630×1940×1220mm
ホイールベース:2725mm
車重:1700kg
駆動方式:MR
エンジン:6.2リッターV8 OHV 16バルブ
トランスミッション:8段AT
最高出力:502PS(369kW)/6450rpm
最大トルク:637N・m(65.0kgf・m)/5150rpm
タイヤ:(前)245/35ZR19 89Y/(後)305/30ZR20 99Y(ミシュラン・パイロットスポーツ4 S)
燃費:シティー=16mpg(約6.8km/リッター)、ハイウェイ=24mpg(約10.2km/リッター)(米国EPA値)
価格:1550万円/テスト車=1557万7000円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション フロアマット(4万6200円)/ETC 2.0車載器(3万0800円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:3642km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(6)/山岳路(3)
テスト距離:361.5km
使用燃料:50.9リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.0km/リッター(満タン法)/7.2km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
ボルボEX30クロスカントリー ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】 2026.2.24 ボルボの電気自動車「EX30クロスカントリー」に冬の新潟・妙高高原で試乗。アウトドアテイストが盛り込まれたエクステリアデザインとツインモーターからなる四輪駆動パワートレイン、そして引き上げられた車高が織りなす走りを報告する。
-
BYDシーライオン6(FF)【試乗記】 2026.2.23 「BYDシーライオン6」は満タン・満充電からの航続可能距離が1200kmにも達するというプラグインハイブリッド車だ。そして国内に導入されるBYD車の例に漏れず、装備が山盛りでありながら圧倒的な安さを誇る。300km余りのドライブで燃費性能等をチェックした。
-
アルファ・ロメオ・トナーレ ハイブリッド インテンサ(FF/7AT)【試乗記】 2026.2.22 2025年の大幅改良に、新バリエーション「インテンサ」の設定と、ここにきてさまざまな話題が飛び交っている「アルファ・ロメオ・トナーレ」。ブランドの中軸を担うコンパクトSUVの、今時点の実力とは? 定番の1.5リッターマイルドハイブリッド車で確かめた。
-
トライアンフ・トライデント800(6MT)【海外試乗記】 2026.2.20 英国の名門トライアンフから、800ccクラスの新型モーターサイクル「トライデント800」が登場。「走る・曲がる・止まる」のすべてでゆとりを感じさせる上級のロードスターは、オールラウンダーという言葉では足りない、懐の深いマシンに仕上がっていた。
-
マセラティMCプーラ チェロ(MR/8AT)【試乗記】 2026.2.18 かつて「マセラティの新時代の幕開け」として大々的にデビューした「MC20」がマイナーチェンジで「MCプーラ」へと生まれ変わった。名前まで変えてきたのは、また次の新時代を見据えてのことに違いない。オープントップの「MCプーラ チェロ」にサーキットで乗った。
-
NEW
右も左もスライドドアばかり ヒンジドアの軽自動車ならではのメリットはあるのか?
2026.2.25デイリーコラム軽自動車の売れ筋が「ホンダN-BOX」のようなスーパーハイトワゴンであるのはご承知のとおりだが、かつての主流だった「スズキ・ワゴンR」のような車型に復権の余地はないか。ヒンジドアのメリットなど、(やや強引ながら)優れている点を探ってみた。 -
NEW
第950回:小林彰太郎氏の霊言アゲイン あの世から業界を憂う
2026.2.25マッキナ あらモーダ!かつて『SUPER CG』の編集者だった大矢アキオが、『CAR GRAPHIC』初代編集長である小林彰太郎との交霊に挑戦! 日本の自動車ジャーナリズムの草分けでもある天国の上司に、昨今の日本の、世界の自動車業界事情を報告する。 -
NEW
ルノー・グランカングー クルール(FF/7AT)【試乗記】
2026.2.25試乗記「ルノー・グランカングー」がついに日本上陸。長さ5m近くに達するロングボディーには3列目シートが追加され、7人乗車が可能に。さらに2・3列目のシートは1脚ずつ取り外しができるなど、極めて使いでのあるMPVだ。ドライブとシートアレンジをじっくり楽しんでみた。 -
NEW
第862回:北極圏の氷上コースでマクラーレンの走りを堪能 「Pure McLaren Arctic Experience」に参加して
2026.2.25エディターから一言マクラーレンがフィンランド北部で「Pure McLaren Arctic Experience」を開催。ほかでは得られない、北極圏のドライビングエクスペリエンスならではの特別な体験とは? 氷上の広大な特設コースで、スーパースポーツ「アルトゥーラ」の秘めた実力に触れた。 -
ボルボEX30クロスカントリー ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】
2026.2.24試乗記ボルボの電気自動車「EX30クロスカントリー」に冬の新潟・妙高高原で試乗。アウトドアテイストが盛り込まれたエクステリアデザインとツインモーターからなる四輪駆動パワートレイン、そして引き上げられた車高が織りなす走りを報告する。 -
エンジニアが「車検・点検時に注意すべき」と思う点は?
2026.2.24あの多田哲哉のクルマQ&Aすっかりディーラー任せにしている車検・点検について、ユーザーが自ら意識し、注視しておくべきチェックポイントはあるだろうか? 長年トヨタで車両開発を取りまとめてきた多田哲哉さんに意見を聞いた。





























































