ルノー・カングー ゼンEDC(FF/6AT)
ニッポンの道がつくったカングー 2016.09.02 試乗記 「ルノー・カングー」に、1.2リッター直噴ターボエンジンとデュアルクラッチ式6段ATを搭載した新グレード「ゼンEDC」が登場。フランスの知日家エンジニアが取りまとめたという“日本向けカングー”の乗り味とは?フランス人女性開発者の采配
今から3カ月ほど前、ここで紹介するルノー・カングーの「ターボEDC(エフィシエント・デュアル・クラッチ)」の先行取材のためにフランスに出掛けた。そこで印象的だった出来事のひとつに、トランスミッションのプロダクトマネジャーの取材があった。
まず驚いたのは、マネジャーが女性だったことだ。日本の自動車メーカーでも最近は開発部門に女性が多くなってきたけれど、デザインやユーティリティー関係が中心だ。トランスミッションというコテコテのエンジニアリングのまとめ役が女性とは思わなかった。でもこれが欧州基準なのだろう。
気を静めて話を伺っていくと、そこで2つめの想定外が押し寄せた。カングーへのEDC投入は、日本市場が大きく関係しているというのだ。
日本は販売台数の大部分が2ペダルという特殊なマーケット。その中でカングーの販売台数は増えつつあった。それだけに販売の主力が1.6リッター自然吸気エンジンと4段のトルコンATという、ひと世代前のパワートレインであることが気になりはじめた。欧州ではカングーに自動変速機を求める声は少ないが、グローバル視点では伸びが期待できそうでもあり、EDC採用が決定した。
といってもデータだけを頼りに決めたわけではない。彼女はアライアンスパートナーである日産の開発部門で数年間仕事をしており、自ら日本の道をドライブしてもいた。その経験がEDCに結び付いているというのだ。
こうした経歴を持つのは彼女だけではない。フランスにいるルノーの開発担当者と話をすると、日本滞在経験を持つ人が多いことに驚かされる。欧米ブランドで最も知日家が多いブランドのひとつではないだろうか。
でもこのときは、ターボEDCに乗ることはかなわなかった。理由は簡単。最初の生産分が日本向けで、フランスにはクルマがなかったからである。多くの輸入車は、欧米で売っている車種を日本に最適化して販売しているけれど、カングー・ターボEDCの場合は違う。日本のために開発したものを他国でも売るという、特異なポジションにいる車種なのだ。