第466回:イタリアのスーパーで三菱のクルマが景品になってるぞ!!
2016.09.09 マッキナ あらモーダ!ツナ缶買って「イプシロン」をもらおう
筆者が中学生だった1982年、日産で新型車の車名募集があった。その前年の1981年に東京モーターショーで公開された、1000ccの小型車「NX-018」に名前をつけてください、という企画だった。
特賞として、その市販版がもらえるという。1000ccにひっかけて「千尋(チヒロ)」とか「千太(センタ)」とか、奇抜なアイデアばかりハガキにしたためて何枚も応募した。
結果発表の当日は、在京民放局で日産提供の特別番組が組まれた。ボクは家のテレビの前に正座し、進行を見守った。結局のところそのクルマは、ボクがまったく思いつかなかった「マーチ」という名になった。
それでも、車名を考えているときは「免許もないのに当たっちゃったら、どうしよう!?」などと、本気で心配をしたものだ。
そして、いまでもイタリアでマーチ(イタリアでは「ミクラ」)を目撃するたび、「あれはマーチではない!」と心の中で叫ぶ自分がいる。
クルマが当たる懸賞といえば、イタリアに住み始めた1990年代後半、こちらでは、「リオマーレ」というツナ缶で「『ランチア・イプシロン』(初代)が当たる」というキャンペーンが繰り広げられていた。黄色いヒレをもつキハダマグロにかけて、景品のイプシロンはイエローであった。
当時街中には、この黄色いランチアがよく走っていた。実際はカタログカラーのひとつであったのだが、見かけるたびボクは「ツナ缶で当たったの?」と運転席をのぞいてしまったものだ。今もツナ缶は商品としてしっかり残っており、スーパーで見るたび「黄色いランチア」を思い出す。
一番人気は「フィアット500」
ところで昨今、イタリアにおける「懸賞として自動車が当たる商品」には、どのようなものがあるだろうか。
すでにキャンペーンが終わってしまったものや、イタリアで外資系企業が展開しているものも含め、以下の通り挙げてみよう。左がキャンペーン対象の商品名、右が景品となるクルマである。
・高級スナック菓子「マティルデ・ヴィチェンツィ」:フィアット500
・家電「エレクトロラックス」:フィアット500
・卵「マイア」:フィアット500
・鶏肉関連食品「アイア」:ジープ・レネゲード
・洗剤「アクア&サポーネ」:フィアット500X
・ティッシュペーパー「テンポ」:フォルクスワーゲン・ビートル カブリオレ
・トイレ洗剤「WCネット」:ランチア・イプシロン
ご覧のように、フィアット500系は、自動車市場における人気を反映して、景品として採用される頻度が高い。
日本車もたびたび景品となっている。例えば先日は、「『トヨタ・ヴァーソ』(トヨタの海外仕様ミニバン)が当たる」という牛乳のキャンペーンを発見した。面白いので思わず買ってみたものの、小学生以来牛乳が苦手な筆者は、わが家の冷蔵庫の中にそっと放置しておいた。
数日後、ヴァーソが刷られたパッケージが消えていたので女房に問いただせば、よくしたもので「ココナツミルクの代わりに、カレーに混ぜて使ってしまった」という。いやはや、うっかり苦手なモノを摂取してしまった。
三菱やピニンファリーナも
この夏、近所のディスカウント系スーパーマーケットで見かけたキャンペーンは、三菱の「スペーススター」(「ミラージュ」の欧州版)が当たるというものだった。
イタリアでは昨今の燃費不正問題は、それなりの自動車関係者でもない限り知らない。それどころか三菱に対するイメージは、「パジェロ」のおかげで決して悪くない。それを反映したものかどうかは知らないが、華やかな懸賞のポスターを見ていると、昨今の日本での状況を知るだけに複雑な心境になってしまう。
景品でもうひとつ思い出すのは、2001年に石油のエッソがイタリアで展開したキャンペーンである。「顧客カードのポイントをためると、ピニンファリーナのマウンテンバイクが漏れなくもらえる」というものだった。
必要ポイント数はボクなどが到底ためられないほど多かったと記憶している。だが、通勤やレジャーで自動車を多く使うイタリア人には、それほど高いハードルでなかったらしい。ボクの周辺でももらった人が複数いたものだ。
自転車に詳しい人に言わせると、それは「かなりプアなスペック」であったらしい。ところがどっこい、15年たった今日でも、その緑色のフレームを持ったマウンテンバイクを時折見かける。物持ちが良いイタリア人のおかげで、クオリティーはそこそこでも生き延びてしまったところがあっぱれである。
ついでにイタリアのネットオークションを調べてみると、最高270ユーロもの値段がつけられて出品されているではないか。イタリアにおける「キング・オブ・自動車関連景品」である。
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>、日産自動車、FCA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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