スバル・インプレッサ プロトタイプ(4WD/CVT)
納得の出来栄え 2016.09.10 試乗記 発売が間近に迫った新型「スバル・インプレッサ」。そのプロトタイプにクローズドコースで試乗。スバルのこれからを担う次世代プラットフォーム「スバルグローバルプラットフォーム」や、直噴化された「FB20」型エンジンの出来栄えを確かめた。厳しい競争に臨むスバルのエントリーモデル
スバルといえば何はともあれ水平対向エンジン。それゆえに変速機は縦置きが大前提。だからこそ、大工事なしで左右対称の四輪駆動が可能となり、それがまた、ブランドのオリジナリティーへとつながる。
……と、彼らのクルマ作りがこのスキームである限り、Bセグメント以下のモデルを開発し、それを過酷な価格競争にさらすことは非常に難しい。軽自動車も含め100万円台前半からのクルマたちは、サプライヤーや工場設備を含め、横置きFFを前提にすべての原価がパツパツで算出されている。直近の例外はRRの「スマート・フォーツー/フォーフォー」&「ルノー・トゥインゴ」だが、これもダイムラーとルノーの提携による開発や製造のスケールメリットを何年も模索してたどり着いた、恐らくはカツカツのプロダクトだろう。
ゆえに、Cセグメント相当のインプレッサは、世界市場において実質的なスバルブランドのボトムを担うモデルということになる。でもそれでは、「アシになればいい」という値札一本やりの客層を相手にすることはできない。昨今の好調を背景にブランドバリューの向上を目指すマツダには、Bセグメントの「デミオ」がある。対してスバルはもう一段高いところを玄関口とし、高付加価値をユーザーに実感させなければお金を払ってもらえないわけだ。一方でCセグメントといえば、「フォルクスワーゲン・ゴルフ」を軸に各メーカーが本気も本気のケンカを繰り広げる世界一の激戦区でもある。行くも地獄、戻るも地獄。この瞬間、アメリカで「レガシィアウトバック」や「フォレスター」が売れまくっているとはいえ、スバルの前途は相当難儀なところにあるといえるだろう。
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大幅に強化されたボディー剛性と衝突安全性
そんな今後の高付加価値を担う、文字通りの“屋台骨”であるプラットフォームを、スバルはこの新しいインプレッサから一新した。おおむね十幾年のスパンで刷新を繰り返してきた同社としては、異様な軽量化で注目された2003年のBL系「レガシィ」以来となる大規模投資となり、もちろん今後の十幾年を見据えたビジョンが織り込まれたものでもある。
その重量は仕上がりレベルでみると大きな変化はないものの、新型インプレッサにおいては現行型に対して静的ねじりでプラス70%、サスペンションを取り付けたうえでのリア側の曲げに関してはプラス100%と、剛性レベルは強烈に高められた。これは素材変更に加えてメインフレームを前端から後端まで一気に通すことや、フロアパンとの結合部に接着剤を用いたこと、上屋の結合方式を改善したことなど、生産技術の側の工夫も織り込んで得たものという。また、サスペンションユニット装着状態での剛性向上はストラットタワー部の箱組容積をミニマムにしてプレスリブを加えるなど、物理的改善を施したことが奏功したそうだ。
新型インプレッサは「アイサイトver.3」が全車標準装備となるが、このプラットフォーム刷新からもたらされる衝突安全性の改善も注目すべきポイントだろう。10年後に予想されるレギュレーションも折り込み、SUVに相当する2.5tの台車が90km/hで斜め前方から衝突する試験にもパスできるよう応力分散や強度が最適化されている。巷間(こうかん)とかく自動運転的な技術が取り沙汰されるものの、乗員保護の見地からみれば最後のとりでは間違いなくパッシブセーフティーだ。メルセデスやボルボに匹敵するADAS(Advanced Driving Assistant System=先進運転支援システム)の実践的知見を積んでいながら、ぶつからないことにあぐらをかくことなく、ぶつかった後の技術でも進化を止めないスバルの姿勢は至極まっとうだと思う。それでこそ、歩行者保護エアバッグの全車標準装備化も生きるというものだ。
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トルク特性の改善で実燃費の向上を目指す
現状では内外のライバル車に対して明らかに見劣りがあったことを踏まえ、静的質感の向上は新型インプレッサの開発において大きなテーマのひとつとなった。車内に入れば確実に広くなった前後左右の空間と共に、歴然とシャープになった全体の造形や、パッドやスイッチ類の見た目と触感にもしっかり気が配られていることがわかる。最新のCセグメントのフィニッシュレベルはしっかり押さえてきたと言えそうだ。が、そこでの優劣はある意味コストの配分次第。静的質感は後発にキャッチアップされやすい項目であることは否めない。
搭載されるエンジンは従来通りFB系の1.6リッターと2リッターの自然吸気(NA)で、駆動方式はFFと4WDの2種類、そして組み合わせられるトランスミッションは現状では「リニアトロニック」=CVTのみと発表されている。ただし2リッターNAユニットは直噴化やフリクションの低減、補機類の性能強化など中身に大幅に手が加えられ、従来のものより4psの出力向上を果たしながら、広いトルクバンドを実現し、実用燃費性能も向上させた。CVTもギアレシオのワイド化やフリクション低減、小型軽量化が推し進められており、これも実用燃費の向上に寄与したという。ちなみに現状の社内計測におけるJC08モード燃費は、2リッターFFモデルで17.0km/リッター(2.0i-L EyeSight)と、従来型のそれと数字的には変わらない。が、エンジニアが連呼する実用燃費の向上は、試乗のドライブフィールにもしっかりと表れていた。
それは低中回転域でのアクセル開度と回転上昇の関係に顕著に見て取れる。従来型では同等の加速力を得るに回転がブーンと跳ね上がるところを、新型はアクセル開度に応じてじっとりと粘りながら車体をぐいぐい推し進めるというセットアップ。これはCVT特有のラバーバンドフィールの低減と共に、エンジン側のトルクの厚みを生かしての高効率化ということになるだろう。テストコースでの試乗では残念ながら車載の燃費計を比較することはできなかったが、恐らく、普通に乗って実感できる程度の燃費改善は図られているはずだ。
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劇的な進化を遂げたドライブフィール
そしてなんといっても従来型から激変したのが動的質感。それはもう、走り始め……というか、転がり始めからこれまでとはまったく違う。路面のサーフェスの微妙な変化をしっかりと伝えながらもNV(騒音・振動)はきれいに丸めて収め、上屋をフラットに保ちながら滑るように走る。その感触は大げさでなくゴルフ級のレベルに達している。
コーナーでの所作もまた、印象的なのは上屋の動きがしっかり規制されている。特に上下のバウンジング量は従来型から激減していて、コーナリング時の大きな路面変化に対しても、上屋の動きは最小限にとどめられる。タイヤのコンタクト感はもう別物で、特にタイトターンでのアンダーステアの少なさは唖然(あぜん)とするほどだ。グリップでのコーナリング限界は通常時に程よく体をホールドしてくれるシートのサポートが全然足りなくなるほどで、そこからスリップ領域に入ってからの修正応答にもピーキーさはない。その走りからは、Cセグメントの動的なベンチマークたる「フォード・フォーカス」にも勝るとも劣らない、見事なパフォーマンスの素地(そじ)がうかがえた。唯一気になったところといえばブレーキの踏量初期の食いつきがやや強いことだが、エンジニアに話を聞けばそれも協議を重ねた上でクルマの性格を考慮してのことだという。ともあれスバルは、このシャシーの仕上がりに相当な自信をもっているようだ。
車体をふわふわと動かして入力をうまくいなしながら、絶妙な前後のグリップバランスで柔らかくコーナーを抜けていく。ある種フランス車っぽいところもあった従来型の走りの優しさは、個人的にはデイリーカーとして非常に好ましいところにあると思っていた。新型インプレッサの走りにその面影を重ねるのはさすがに難しいかもしれない。が、新型は新境地ともいえるフラットライド感とライントレース性を、とても上質な乗り心地と共に実現している。正常進化というにはあまりに長足な第一印象も、時がたてばこれがスバルの走りと納得できるようになるだろう。この先、パワー&ドライブトレインの高効率を筆頭にまだまだ課題は残るものの、スバルの新世代の第一歩として、新型インプレッサは世界が十分納得する回答を示したといえる。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏)
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テスト車のデータ
スバル・インプレッサスポーツ2.0i-L EyeSight
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4460×1775×1480mm
ホイールベース:2670mm
車重:1370kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター水平対向4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:154ps(113kW)/6000rpm
最大トルク:20.0kgm(196Nm)/4000rpm
タイヤ:(前)205/50R17 89V/(後)205/50R17 89V(ブリヂストン・トランザT001)
燃費:16.8km/リッター(JC08モード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:439km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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スバル・インプレッサスポーツ2.0i-S EyeSight
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4460×1775×1480mm
ホイールベース:2670mm
車重:1400kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター水平対向4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:154ps(113kW)/6000rpm
最大トルク:20.0kgm(196Nm)/4000rpm
タイヤ:(前)225/40R18 88W/(後)225/40R18 88W(ヨコハマ・アドバンスポーツV105)
燃費:15.8km/リッター(JC08モード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:1645km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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スバル・インプレッサG4 2.0i-S EyeSight
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4625×1775×1455mm
ホイールベース:2670mm
車重:1400kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター水平対向4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:154ps(113kW)/6000rpm
最大トルク:20.0kgm(196Nm)/4000rpm
タイヤ:(前)225/40R18 88W/(後)225/40R18 88W(ヨコハマ・アドバンスポーツV105)
燃費:15.8km/リッター(JC08モード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:1533km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
※数値はすべてプロトタイプ

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。