第9回:無敵の三段論法
2016.09.20 カーマニア人間国宝への道488オーナーの生態
自慢の宇宙戦艦号こと「458イタリア」が「488GTB」に大敗を喫し、「フェラーリは速さじゃない!」と強弁中の私だが、フェラーリは速さじゃないなら最初に買った「348tb」に乗り続けてりゃよかったじゃねぇか、という自己撞着(どうちゃく)にはまりこんでしまった。
では、458から488に買い替えた方はどうなのか。何を目的に、どんな欲望に突き動かされて買い替えたのか!? そこのところを直接聞いてみようじゃないか!
ということで私は、A氏のガレージにお邪魔した。
A氏は「RX-7(FC)」や「スカG」、「ソアラ」など国産スポーツで爆走する青春時代を過ごし、サーキットやドリフトも修業。その後起業によってフェラーリ、ランボルギーニ、ポルシェ、アストンマーティンにまで到達した男である。45歳にしてこれまで63台のクルマを購入。54歳にして44台の私をはるかに凌駕(りょうが)する「クルマを買うのが趣味の人」だ。
A氏のガレージは各所に分散されているようだが、本丸にはフェラーリ488GTBと「ランボルギーニ・アヴェンタドール」が格納されていた。数カ月前、なんと同じ日に納車になったというから恐れ入るではないか。美人女子アナを2名同時に嫁にもらうが如き所業である。
といってもA氏は決して超富裕層ではない。富裕層だが超はつかない。青春時代から現在にいたるまで、一貫して収入のかなりの部分をクルマに注ぎ込み続けているタイプの人で、ある意味ピュアである。
「買い替えない」という選択肢はナシ
私は単刀直入に尋ねた。
「なぜ買い替えたの?」
「それは、みんなの目というのがありますから。458イタリアに乗り続けてると、『なんで?』って言われちゃうんですよ」
みんなとは、“最新のフェラーリに乗る人の会”の皆さまである。別にそういう名前の会ではないが、実質的にそのような感じの会なのだそうだ。
「別に458がダメなわけじゃないですし、というか本当に素晴らしいクルマだったんですけど、買い替えないっていう選択肢はなかったですね。だって僕、まだフェラーリたったの3台目ですし」
A氏が初めてフェラーリを買ったのは4年前の458イタリア(新車)が最初だった。続いて買い出し用(?)に「フェラーリ・フォー」を購入(新車)。そしてこの度、458から488GTBに買い替えた(新車)。
なるほど、である。
クルマを買うのが趣味。
↓
フェラーリは下取りがいいので、買い替えるのが結構簡単。
↓
新型が出たら買うに決まってんじゃん。だってまだ3台目だし、もっともっとたくさん買いたいんだよぉ!
この単純極まりない三段論法だったのだ!
この三段論法は、最後の「だってまだ3台目だし」が「だってまだ10台目だし」になっても、それほど大きくは変わらないと推測される。なんせ私ですら10台買ってますから。
フェラーリを買うという絶頂
やはり、フェラーリを買うというのは、お買い物として地上最強クラスに気持ちいいのである。買うだけでイッてしまうくらいの絶頂なのだ。その魔力は、「フェラーリは自然吸気に限る!」とか、「ピニンファリーナじゃないし、整形ブスだ!」といったオタク理論をはるか高高度で超える。
一方で私が488を敵視し続けているのは、
理由その1)もう逆さに振ってもカネがありません。
理由その2)冷静に見れば造形の美しさで458より劣るし、速いだけで走りの快楽度も落ちてるっしょ? つまりコストパフォーマンスが悪いっしょ!?
この2点に集約される。何よりコスパが決定的な問題である。
私は再度A氏に問いを発した。
「私はさ、回転ずしやコンビニスイーツの、『この値段でこのうまさ!』ってのが好きで、クルマに関しても『この出費でこの快楽!』ってのを重視してるんだけど、そういうのはないの?」
「うーん、僕はそれよりも、有名なすし屋で食べてる自分が好き、っていうタイプかもしれないですね~」
再びなるほど!
あっちの回転ずしなら断然安くて結構うまいとわかっていても、こっちのセレブ御用達すし屋で食って大将と顔馴染みになった方が価値がある。そういうことだったのか! まさに下流社会vs富裕層ビジネスの構図。いやもちろん458が回転ずしで488が有名すし屋というわけでは断じてありません。
(文=清水草一/写真=清水草一、池之平昌信)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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