第10回:購入トライアスロン
2016.09.27 カーマニア人間国宝への道走ってフェラーリ、止まってランボ
「458イタリア」から「488GTB」に買い替えるのは当然の選択であり、同じ日に「アヴェンタドール」も納車になったという肉食系のA氏は、つい先日「911ターボカブリオレ(997)」(中古ながら軽く1500万以上?)も購入したという。まさにやりたい放題の酒池肉林。世界中のイイ女を総ナメだ。
とはいうものの、A氏の目には、どこか求道者の光が宿っている。
「もうトライアスロンですね。どこまで買い続けられるかっていう。これまでも無理してきましたけど、買うと結構行けちゃうんですよ。その繰り返しで、じゃあもうちょっと行けるかなって」
うーむ、そこは私も、財力なりにかなり近い感覚があるが……。
「アヴェンタドールを買ったのは完全にそれです。ランボルギーニはまだだったし、クルマ好きとしては、一度ドアが上に開くヤツに乗りたかった。それだけですよ。まだ2回しか乗ってないけど(笑)」
私が「カウンタック」を買ったのも、ほぼそれだった。敵を知り己を知れば百戦危うからず。フェラーリの宿敵を知るためだけに買った。半年間で5回ほどしか乗らなかったが、私なりの求道であった。
「アヴェンタ、乗ると遅いですね。488の方が全然速いです。走ってフェラーリ、止まってランボとは言い得て妙だな」
走ってフェラーリ、止まってランボについてもまったく同感だ。カウンタックは走るためのクルマではなかった。“走れる怪獣”とでも言おうか。サービスエリアでの集客力は、掛け値なしにフェラーリの10倍。ドアさえ開けておけば無敵だった。クルマにはこういう形の達成感もある。それを教えてくれた。
もう走りたくない!
今年だけですでにクルマに1億円以上注ぎ込んだA氏は、このように締めくくった。
「あんまり値段の下がらないクルマを買ってるので、大丈夫とは思ってますけど、それでもやっぱりね、異次元の返済額を更新しながら買い続けるのは結構苦しいですよ。でもその苦しみが快感に変わるんです。だからもっと苦しみたくなる。もっともっと気持ちよくなれますからね」
まさにトライアスロン!
その瞬間、私にも悟るものがあった。
私にはもう、トライアスロンは無理です!!
もう走りたくないんです。これ以上苦しみたくないんです。これ以上頑張っても、これ以上気持ちよくはなれそうな気がしないんですよおぉぉぉぉぉ!
458イタリアから追い金1500万円払って488GTBに買い替えても、追い金2000万なんぼ払って「458スペチアーレ」や「488スパイダー」に買い替えても、私はきっと今よりシアワセにはなれない。シアワセはなるものではなく感じるものですが、私はそっちの予感を強く感じる。そんなカネないから買い替えられないけど。
理由は……。年齢、体力、その他モロモロいろいろある。そこはもう、吉田沙保里選手が東京オリンピックでも金を目指すのかどうかみたいなものだ。周囲が「もう十分ですよ!」と言っても本人がその気ならGOだし、「まだまだ行けますよ!」と言われても本人にその気がなければどうにもならない。
私はついに、ゴールにたどり着いたのだ。フェラーリ458イタリアが私のゴールだったのだ!(達観)
毎日食える牛丼が欲しい!
といっても、私のクルマへの欲望が尽きてしまったわけではない。まだまだ欲しいクルマはたくさんある。齢(よわい)54、まだまだ死なん! スッポンスッポンスッポンパワー!
私が五十路のスッポンパワーを向ける対象、それはもうちょっときゃわゆいクルマたちだ。孫みたいなもんですかね?
たとえば「フィアット500Cツインエア」。あのきゃわゆいボディーにウルトラ死ぬほどきゃわゆくて愛(いと)しい2気筒ターボエンジンを積んで、ドコドコビイィィィィーンと突っ走る。考えただけで抱きしめたいでちゅ!
あるいは「DS 3カブリオ」。1.2リッター3気筒ターボの上品な加速を、シトロエンらしい足がフンワリと受け止める。かぼちゃの馬車みたいでウットリでちゅ!
ともにキャンバストップ的なカブリオレで、手軽にオープンエアを楽しめる。そこにはきっと小さなシアワセがある! 大きなシアワセはもう十分なので、小さなシアワセが欲しいんでちゅ!
ただし、最大の標的はディーゼルだ。
あの、7年前に欧州を駆け回った「フォード・フォーカス ワゴン1.6ディーゼル」(レンタカー)のような、欧州の吉野家牛丼(並)! あれが食いたい! この日本で主食として毎日食いたい! 毎日食ったら胃もたれするフォアグラみたいなんじゃなく、毎日食える牛丼がたまらなく欲しい!
といっても私はすでに、その吉野家牛丼を手に入れている。
その名は、「ランチア・デルタ1.6マルチジェット」(2009年式)である。
(文=清水草一/写真=清水草一、池之平昌信)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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