ホンダNSX(4WD/9AT)

“走り”に文句はないものの 2016.10.08 試乗記 河村 康彦 11年ぶりに復活したホンダのスーパースポーツ「NSX」。独自のハイブリッドシステムを搭載した同車の実力はどれほどのものなのか? ドイツ勢のライバルである「アウディR8」や「ポルシェ911ターボS」との比較を交え、それを検証した。
「ホンダNSX」には左右の前輪に個別に駆動力とマイナストルクをかけることで、トルクベクタリングの効果を生み出す「ツインモーターユニット」が搭載される。
「ホンダNSX」には左右の前輪に個別に駆動力とマイナストルクをかけることで、トルクベクタリングの効果を生み出す「ツインモーターユニット」が搭載される。 拡大
随所に本革やバックスキンなどの素材が使用されたインテリア。オプションで、カーボン調の装飾パーツも用意されている。
随所に本革やバックスキンなどの素材が使用されたインテリア。オプションで、カーボン調の装飾パーツも用意されている。 拡大
キャビンの後方には3.5リッターV6ツインターボエンジンとそれをアシストするモーター1基、9段デュアルクラッチ式ATが搭載される。
キャビンの後方には3.5リッターV6ツインターボエンジンとそれをアシストするモーター1基、9段デュアルクラッチ式ATが搭載される。 拡大
フロントには、「ツインモーターユニット」や各種冷却装置が搭載されるため、収納スペースはない。
フロントには、「ツインモーターユニット」や各種冷却装置が搭載されるため、収納スペースはない。 拡大
エンジンの後方に位置するトランクルーム。トランスミッションのアクチュエーターが干渉するため、フロアはフラットになっていない。
エンジンの後方に位置するトランクルーム。トランスミッションのアクチュエーターが干渉するため、フロアはフラットになっていない。 拡大

想像以上の動力性能と、要改善の日常性

今回は“ショートショート”のスペースが当方の担当。それゆえざっくり単刀直入に記すと、「見ても乗っても期待と想像以上だった」というのが、新生NSXに対する印象だった。

2012年初頭のデトロイトショーでの披露から、5年近く。当時はコンセプトモデルだったとはいえ、あまりにも早くから見せ過ぎた印象は否めず。それゆえ新鮮さは薄れてしまったが、それでも実車を目の前にすると、ずばり「カッコイイ」と思えたのは確かだ。

ほとんどの採用テクノロジーが“初モノ”にも関わらず、それらの完成度がどれも非常に高く感じられたのは、先般リコールを繰り返した“不祥事”から得られた教訓も生きているのかもしれない。
例えば、ハイブリッドモデルゆえ自動で行われるエンジンの起動/停止のスムーズさや、DCTのプログラミングの巧みさなどはその一例。前輪用モーターを左右輪個別に配し、駆動側のみならず減速側にも制御を行っての“自在トルクベクタリング”が、違和感につながらない範囲で単純な二輪駆動モデルなどでは行えないコーナリング感覚を味わわせてくれるのも、個人的には好意的に受け取れた。

惜しむらくは、ワインディングロードで享受された“その先”の世界を、サーキットで知る機会が得られなかったこと。「ポルシェ918スパイダー」もかくや! というハイテクノロジーの神髄は、やはりそんな領域でこそ発揮されるはずだからだ。

モーター3基にバッテリーやコントロールユニットを搭載した“電動化車両”ゆえ、サイズの割に重いというのはやはりひとつの弱点。全長がひと回り小さい一方で、5.2リッターのV10ユニットを搭載するアウディR8は、比べれば150kgも軽い……というか、“軽さ”では定評あるポルシェ作の911ターボSに、「あと30kg」へと肉薄した今度のR8は、1.7t超だった従来型に対して大幅に軽くなっているのだ。

それでも、いざ走らせればNSXの動力性能は、全く文句の付けようのない迫力の速さ。ターボエンジンながらそのネガを感じさせないのは、ブーストの高まりでトルクアップが得られる以前の段階を、モータートルクが埋め合わせているから。これがまた、わずかな違和感もなくその先の爆発的パワーの盛り上がりへと見事につながっているのも、何とも感心させられる仕上がりだった。

一方、「何とも感心できなかった」のはラゲッジスペース。2人で乗ると、航空機内持ち込みサイズのキャリーケース1つ携えるのも難しそうな小ささは、いかにこうしたモデルでも困りもの。決して広いとはいえないものの、R8はフロントに深い空間が用意されるし、911ターボSならばフロントに立派なトランクルームに加え、リアシート部分も有効なスペースとして使える……というか、乗降性を含め“日常使い”をする気になれるのは、3車中ではこのモデルのみ。あらためて911のRRレイアウトが、合理的で高い実用性を備えていることを教えられるのである。

ところで、街中からのスタート直後には「これはなかなかしなやかだナ」と好感が得られたNSXの乗り味だが、実は”上には上”がいた。同じルート上を前出のR8、そして911で走り比べると、3車中で圧倒的にフラットなのは911であったからだ。

それにしても、ホンダスポーツカーで否めないのは“中間のモデル”が欲しいという印象。NSXでは、例え「半額」になってもとても買えないし、「S660」ではやっぱり物足りない――そんな思いを抱くのは、自分だけではないはずだ。

(文=河村康彦/写真=荒川正幸)

ホンダNSX
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【スペック】
全長×全幅×全高=4490×1940×1215mm/ホイールベース=2630mm/車重=1780kg/駆動方式=4WD/エンジン=3.5リッターV6 DOHC 24バルブ ターボ(507ps/6500-7500rpm、56.1kgm/2000-6000rpm)/フロントモーター=交流同期電動機(37ps/4000rpm、7.4kgm/0-2000rpm)×2/リアモーター=交流同期電動機(48ps/3000rpm、15.1kgm/500-2000rpm)/燃費=12.4km/リッター(JC08モード)/価格=2370万円

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