第12回:GT-Rノ販売台数ニ刮目セヨ!!
2016.10.11 カーマニア人間国宝への道燃やせ! ホンダスピリット
新型「NSX」は、私が見たところ、「458ハイブリッド 容姿に恵まれないガリ勉仕様」だった! 3モーターハイブリッドという超複雑なシステムを、よくぞここまで仕上げたと感嘆するが、これを買うのはホンダファンのみだろう。
ホンダファンにもお金持ちはいるが、ホンダ神話が翳(かげ)った今、そんなにメッチャ多くはなかろう。生産規模は1日あたり8台。つまり年間200日生産して1600台。今は納車3年待ちでも、それを過ぎれば急激に受注が落ち、10年後には年100台も切るだろう。赤字ゆえに次のモデルチェンジは20~30年後(あるいは無期延期)となり、先代と似たような道を辿(たど)るのではないか?
フェラーリは年間約7000台、ポルシェは「911」だけで年間約3万台。それに対して年間たった1600台くらいという生産台数や、日本で年間100台しか売らないのに販売ディーラー数が130もあり、しかもそこではフツーに軽も売ることに対して、「本気で売る気があるのか?」という批判があるが、私はそうは思わない。
こういうのは売る気がありゃ売れるってもんじゃない! ゴージャスな専売ディーラーなんぞ造ったって付け焼き刃だし焼け石に水。買うのはホンダファンだけなんだから、軽と一緒でいいじゃないか!
ホンダはわかっているのだ。「傷は浅い方がいい」と。
とにかくスーパーカーを作る! それがホンダスピリット!
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赤字になるのは覚悟の上だ!
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でも赤字は最小限にネ。
企業として当然の選択だ。
日本が誇る戦艦大和・日産GT-R
ところで日本には、「日産GT-R」という先輩スーパーカーがある。
GT-Rは本当に素晴らしい。ウルトラ安くて世界一速いんだから! 見た目だって他のスーパーカーとは似ても似つかず、完璧に我が道を行っている。まさに日本が誇る戦艦大和! 個人的には欲しくないが。
この、何にも似ていない超オリジナルの世界最速マシン・日産GT-Rの販売動向が大変に興味深い。
(データ提供/日産自動車)
GT-Rは2007年の発表当時、「月間1000台の生産」を睨(にら)んでいた。つまり年間1万2000台だ。
これは、決して野心的すぎる計画ではなかった。なんせ777万円から買えて、性能はほぼ無敵なのだから! ポルシェ911の「年間約3万台」という実績を見れば控え目ですらある。
しかし現実は厳しかった。2年目の08年度こそそれに近い数字まで行ったが、そこから急速に落ち、近年は年間2000台程度で推移している。
評判が悪いわけじゃない。世界中で絶賛の嵐だ。チューンして1000psにすれば「ブガッティ・ヴェイロン」にだって対抗できる。まさに世界ブッチギリの超絶コストパフォーマンス!
国産スーパーカーの功績
GT-Rが全世界でリスペクトを受けているのは、地域別の販売実績を見てもわかる。
(データ提供/日産自動車)
日米で多く売れているのは「やっぱり」だが、欧州でもかなり売れている。極めてブランドを重視するコンサバな地で、アメリカに迫る販売実績を上げている! これを見れば、GT-Rが新たなスーパーカー像の創造に成功したことが理解できよう。
なのに、なのになのに年間約2000~3000台。ポルシェ911の10分の1以下、フェラーリの3分の1程度しか売れず、トータルではまだ赤字だという! 涙が出るじゃないか。
これを見たら、新型NSXが年間1600台ずーっと売り続けるなど、絶対に不可能だと理解するしかない。なぜってGT-Rより遅いし、チューンだって難しいし、値段はGT-Rの2倍なのだから。
ブランド力で圧倒的に劣る国産メーカーがスーパーカーを作る場合、新型NSXや「レクサスLFA」のように、出血を最小限に抑えつつ「とにかく作った!」というヤリ逃げ狙いで行くしかないのか!?
いや、もうひとつ道がある――ような気がする。
それは、フェラーリ・イーターの大衆向けスーパーカー! つまり「スカイラインGT-R(R32)」のようなクルマをリボーンさせ、今度は世界に打って出る!! どんなに性能が良くても、富裕層はフェラーリから日本製スーパーカーに宗旨替えしたりしないのだから、なら狙うべきは大衆しかないじゃないか!!
いずれにせよ、スーパーカーを作ってくれてありがとうホンダ様、トヨタ様、そして誰よりも日産様!
(文=清水草一/写真=清水草一、池之平昌信)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。