ランドローバー・レンジローバー イヴォーク コンバーチブル HSEダイナミック(4WD/9AT)
パレードな気分 2016.11.01 試乗記 「レンジローバー イヴォーク」にソフトトップを装備した「イヴォーク コンバーチブル」が登場。21秒で絶景を得られるフル4シーターオープンで街中を流す気分とは? 海風香る横浜で試乗した。待望のSUVオープン
イヴォーク コンバーチブル発表! の報に接し、私は「これを待っていたんだよォ!」と打ち震えた。いや、必ずしもイヴォークでなくてもよかったのだが、とにかく美しいSUVオープンの登場を待っていた。
SUVオープンのコンセプトモデルは、これまでも掃いて捨てるほどあった気がする。しかし実際に市販されたのは、先代「日産ムラーノ クロスカブリオレ」くらいか? その他「ジープ・ラングラー」など軍用車系にSUV「屋根が取れます」というのはあるが、今やSUVのほとんどが泥とは無縁の都会派。私も泥とは無縁の生活を営んでいる関係上、アスファルトの上で貴族気分が味わえるSUVオープンの登場を待ち望んでいたのである。
本国での発表当初、日本に導入されるのは、フェニックスオレンジ一色のみの方針と報じられた。このテのクルマは目立つことも大きな目的のひとつだから、派手なオレンジ上等! ではあったが、よほど数が売れないと見越したのだろう。究極のニッチだけに限定モデルになるか? それも上等であった。
ところがフタを開けたら、限定どころかカタログモデルで、ボディーカラーは5ドアやクーペと同様の17色! 事前の反響の大きさに「これは売れるかもしれない」と方針が変わったのか? ディーゼルモデルの導入についても前向きだというから驚くしかない。
思えば都会派SUVのオープン自体、イヴォークが唯一だが、そこにディーゼルエンジンが搭載されれば、もうひとつ「唯一」の称号が付く。個人的にはそれを強烈に待ち望んでおります!
見た目はクルマより筆箱
初めて生で見たイヴォーク コンバーチブルは、期待に違わぬカッコ良さだった。クローズド状態でのデザインバランスは3ドアモデルに匹敵し、幌を開けると――筆箱だった。まるでただの立方体に見える! Aピラーがブラックアウトされているので、試乗した白いイヴォーク コンバーチブルは真剣に筆箱みたい! ウエストラインがほとんど完全な直線であることに微妙な違和感も芽生えたが、初対面で違和感ゼロのデザインは大抵飽きる。この適度な違和感こそ吉兆だ。
補足すると、筆箱と言ってもただの筆箱ではない。大変に美しい筆箱だ。大変に美しいがクルマより筆箱に似ていることに違和感を抱くのみ。そこがカワイイ。スバラシイ。いつかこのクルマを手に入れる予感をビリビリ感じる。
エンジンは、例によって2リッター直噴ターボの1種類。トランスミッションも9段トルコンATで変わりない。
車両重量は2020kg。クローズドボディーの「イヴォーク HSEダイナミック」は1790kgなので、230kgも重くなっていることになるが、実際に運転するとそんな重さはほとんど感じず、ひたすらボディーの堅牢(けんろう)さが伝わってくる。これだけ重くすれば堅牢にもなるわ! とも言えますが、まるで金庫のようだ。
コンバーチブルは、「HSEダイナミック」の1グレードのみ。足まわりもダイナミックかつスポーティーだが、このボディー剛性の高さと、小さな入力をしっかり吸収する優秀なサスのおかげで、乗り込心地は十分にしなやかだ。極小の姿勢変化で路面を滑るように走り、エリート感満点である。このへんは、クローズドボディーのイヴォークとなんら変わりないと思っていい。
それより皆さんが知りたいのは、「オープンでどうよ?」という部分だろう。
見晴らしのいいフル4シーターオープン
私自身、SUVのオープンに乗ったのはこれが初めてだったが、スバラシイです! とにかく見晴らしがいい! 20秒前後で開閉できて、しかも時速48kmまでなら走行中も開閉可能な幌を開けると、視界が一気に広がる上に、視点が高いから見晴らしがいい。つまり山のてっぺんに登ったみたい!
スポーツカーのオープンだと、海に浮かんで空を見上げた状態で、それはそれで気持ちいいが、やっぱり周囲を見下ろす山のてっぺんのほうがもっと気持ちいい。私がSUVのオープンを待ち望んでいた第一の理由はそこにある。
自らの所有歴の中でも、「フェラーリF355スパイダー」よりも「プジョー306カブリオレ」や「BMW 335iカブリオレ」の方が気持ちいい面があったが、一因は視点の高さだった。オープンカーは視点が高い方がイイのである。
もうひとつの理由は、フェラーリは2シーターだがプジョーやBMWは4シーターだったことだ。オープンカーは4シーターの方が楽しいし、どこか豊かに見える。それは、「本人だけじゃなく、一緒にオープンを楽しんでくれる人がいっぱいいる」という予感を周囲に伝えるからだろう(たぶん)。実際に4人乗ってオープンで走ると、本当にパレード気分になれる。これは非常に重要なポイントだ。だからオープンカーは、2シーターより2+2、できれば大人が4人乗れた方がいい。イヴォークはその点も合格だ。後席足元は余裕タップリとまでは行かないが、大人が2人座っても問題ない広さがある。幌を閉めても天井に頭がつかえない。つまりフル4シーターだ。スバラシイ! トランクスペースも、洞窟みたいだけどそこそこ広いです。
風の巻き込みも楽しみのひとつ
最後の課題。風の巻き込みはどうか?
個人的には、オープンカーは風を感じてナンボと考えているので、あまり風が遮断されすぎなのも興ざめだが、イヴォーク コンバーチブルはその点も実にちょうどいい。前席に座っていれば、時速100kmでもソヨソヨと軽く髪が揺れる程度。最も心地よいレベルだ。サイドウィンドウを閉めれば頭のてっぺんのみがソヨソヨする。オプションのウインドディフレクターなんて必要ない。
そして後席。ここはさすがに風に対してほぼ無防備だ。街乗りなら問題ないが、高速ではかなりすごいことになる。まるでジェットコースターの最前列だ。
後方に行くにしたがって高くなるウエストラインのおかげで、後席に座ると肩から下はボディーの内側。守られ感は十分高いが、風は容赦なく後ろから横から上から降り注ぐ。
あえてドライバーに高速道路の追い越し車線を走ってもらったところ、エベレスト山頂の烈風に耐えているようで、意識がもうろうとしてきた。しかしこれもまたオープンカーの楽しみじゃないでしょうか!? オープンカーで意識が飛ぶのって、なかなか気持ちいいですよ。
(文=清水草一/写真=池之平昌信)
テスト車のデータ
ランドローバー・レンジローバー イヴォーク コンバーチブル HSEダイナミック
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4385×1900×1650mm
ホイールベース:2660mm
車重:2020kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:240ps(177kW)/5500rpm
最大トルク:34.7kgm(340Nm)/1750rpm
タイヤ:(前)245/45R20 103V/(後)245/45R20 103V(コンチネンタル・コンチクロスコンタクト)
燃費:9.6km/リッター(JC08モード)
価格:765万円/テスト車=884万4000円
オプション装備:メタリックペイント(0円)/キーレスエントリー(10万2000円)/フロントシート・ヒーター&クーラー(15万5000円)/電動調整式14ウェイフロント・シート+運転席・助手席シートメモリー+運転席・助手席マッサージ機能(25万9000円)/ウインド・ディフレクター(5万2000円)/オックスフォード・レザーインテリア(22万7000円)/20インチ スタイル504<シャドークローム・フィニッシュ>(8万6000円)/アドバンスド・ドライバーアシスタンスパック(31万3000円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:1406km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(10)/高速道路(0)/山岳路(0)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】 2025.10.11 新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。
-
NEW
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】
2025.10.18試乗記「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。 -
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】
2025.10.17試乗記「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。 -
スバルのBEV戦略を大解剖! 4台の次世代モデルの全容と日本導入予定を解説する
2025.10.17デイリーコラム改良型「ソルテラ」に新型車「トレイルシーカー」と、ジャパンモビリティショーに2台の電気自動車(BEV)を出展すると発表したスバル。しかし、彼らの次世代BEVはこれだけではない。4台を数える将来のラインナップと、日本導入予定モデルの概要を解説する。 -
アウディQ5 TDIクワトロ150kWアドバンスト(4WD/7AT)【試乗記】
2025.10.16試乗記今やアウディの基幹車種の一台となっているミドルサイズSUV「Q5」が、新型にフルモデルチェンジ。新たな車台と新たなハイブリッドシステムを得た3代目は、過去のモデルからいかなる進化を遂げているのか? 4WDのディーゼルエンジン搭載車で確かめた。 -
第932回:参加者9000人! レトロ自転車イベントが教えてくれるもの
2025.10.16マッキナ あらモーダ!イタリア・シエナで9000人もの愛好家が集うレトロ自転車の走行会「Eroica(エロイカ)」が開催された。未舗装路も走るこの過酷なイベントが、人々を引きつけてやまない理由とは? 最新のモデルにはないレトロな自転車の魅力とは? 大矢アキオがリポートする。 -
ミシュランもオールシーズンタイヤに本腰 全天候型タイヤは次代のスタンダードになるか?
2025.10.16デイリーコラム季節や天候を問わず、多くの道を走れるオールシーズンタイヤ。かつての「雪道も走れる」から、いまや快適性や低燃費性能がセリングポイントになるほどに進化を遂げている。注目のニューフェイスとオールシーズンタイヤの最新トレンドをリポートする。