ランドローバー・レンジローバー イヴォーク コンバーチブル HSEダイナミック(D180)
新種のスポーティーカー 2018.03.13 試乗記 SUVのルーフをチョップして生まれたユニークな「レンジローバー イヴォーク コンバーチブル」に、ディーゼル仕様が登場。その走りは、先行して発売されたガソリン車とはひと味違う個性にあふれていた。必殺技のあるSUV
首都高速を走っていたら、芝公園のちょうどコーンズのあたりで真っ黒の「カイエン」だか「マカン」だかとサイド・バイ・サイドになった。ほほう、きみは若いのにポルシェか、と思った。私はコレですよ。自分のでもないのに、筆者をそういう余裕たっぷりのステキな気分にさせてくれたのがこのクルマである。
最新のディーゼルエンジンを搭載した2018年モデルのレンジローバー イヴォーク コンバーチブル。ガソリンのイヴォコンもよかったけれど、ディーゼルはいっそう「ワイルドだぜ」だったか、「ワイルドだよ」だったか、そんな感じ。
不思議なことに筆者は、カイエンだかマカンだかを物理的に見下ろしていた。イヴォーク コンヴァチは全長4385×全幅1900×全高1650mm、ホイールベース2660mmと、ようするにフォルクスワーゲン グループでいえば、「ティグアン」のクラスである。かたやマカンは、全長4697×全幅1923×全高1624mm、ホイールベース2807mmと、格上であることは明白だ。カイエンともなればなおさら。
しかるに全高のデータも示しているように、着座位置の高さでは負けておらん上に、こちらには屋根が開くという、あちらにはない特技、必殺技がある。そのことを向こうは、というのはポルシェSUVのドライバーの方のことですけれど、もちろんなんにも思っておられないだろうけれど、申し上げるまでもなく、必殺技を持つキャラクターは強いのである。
ウルトラマンのスペシウム光線、仮面ライダーのライダーキックはもちろん、星飛雄馬の大リーグボールに矢吹 丈のクロスカウンターと、たとえが古くてどーもすいません。キャラクターを立たせること、「キャラ立ち」に必殺技は欠かせない。最近の例でいえば、平昌冬季オリンピック、カーリング女子の「そだねー」であろう。本来であれば、金メダルを2個もとった高木菜那が一番エライはずなのに、どちらがマスコミ的にもてはやされているかといえば、わかりやすい必殺技を持っている方である。「そだねー」のどこが必殺技なんだ? そだねー。
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ワイルドな気分にしてくれる
従来のガソリンエンジン搭載イヴォーク コンバーチブルもサファリ気分が横溢(おういつ)していたけれど、ジャガー・ランドローバーの独自開発によるディーゼルエンジン搭載によって、主人公の乗り物の、ということはタフガイのタフネス度合いがますますアップした。
新しいエンジンは「インジニウム」という聞きなれない言葉が頭につく。ラテン語で「才能」「資質」「知力」の意だそうである。英語のエンジンの語源でもあるという。ガソリンとディーゼルの同時開発が、つくり手にとって知的ということであろう。同じ工作機械が使えるように、ボア×ストロークは同じ……ではなくて、83.0mmのボアは同じだけれど、ストロークがガソリンは92.2mm、ディーゼルは92.4mmと微妙に異なる。
イヴォークは現在、3ドア、5ドア、それにコンバーチブルの3つのボディーがあって、2018年モデルでそれぞれに2リッター直4コモンレール式直噴ターボのインジニウムディーゼルをラインナップに加えた。最高出力は180ps/4000rpm、最大トルク430Nm/1750rpmと、トルクの数値が同クラスのライバルより突出している。例えば、上陸したばかりのフォルクスワーゲンのディーゼル「パサートTDI」と比べると、同じ2リッターでも向こうは最高出力190ps/3500-4000rpm、最大トルク400Nm/1900-3300rpmと、やや高回転型に振っていることがスペックからも知れる。
イヴォコン ディーゼルの場合、トルクの強大さはエンジンを目覚めさせたときから印象的だ。ドカンと一発パワートレインが揺れる。実はパサートTDIも揺れたけれど、やっぱりエンジンが横置きだと揺れやすいのかもしれない。でも、その揺れはマイナスに作用しない。日常生活の冒険の新たな始まりを告げている、と好意的に解釈できる。冒険という意味ではイヴォコンはなおさらである。こちらも、というのはエンジンを始動させた筆者も、おのずと目が覚める。コンクリートとガラスのジャングルへとサファリに繰り出すのに、適度にワイルドな気分にしてくれる。
ゴツゴツなりのよさがある
最初のアクセルのひと踏みにはこれまた特別の感慨があった。インジニウムディーゼルは前述のごとくの大トルクをわずか1750rpmの低回転で生み出す。全長4mちょっとのクルマにV8エンジンを積んだと思ってください。豪快。ゼロスタートではブワッと前に出る。助走なしでいきなりジャンプする。アクセルに御用心。
もっとも、すぐに慣れる。こいつはアクセルを踏み込まなくても、強大な低速トルクでスッと前に出ることを瞬時に学ぶ。コンバーチブルの場合、イヴォークの中でもひときわ重い。車重は2tを80kg超える。同じディーゼル同士、3ドアと比較すると、200kg以上重い。コンバーチブル同士だとガソリン比で20kg重い。というのに、街中では車重を意識させない。キビキビ走って、小型車っぽい印象を与える。おそらくZFの9段ATも、いい仕事をしている。さりげないアップ&ダウンで黒子に徹している。
乗り心地のスポーツカーっぽい硬さもいい。SUVはタイヤがでっかいこともあって低速でゴツゴツするものである。ましてイヴォーク コンバーチブルは見た目重視で、タイヤは245/45R20と、ひときわデカイのを標準で履いている。街中で登山靴を履いているようなものだから、乗り心地がゴツいのは当然である。実際ゴツゴツする。ただし、そのゴツゴツのカドは丸めてある。ゴツゴツにはオリジナルMINIにも共通するスパルタンさがある。ブリティッシュネスを感じさせる。そこがイヴォコンのよさである。
内装の趣味も、イギリスのバックヤードスポーツカー風であるように筆者には感じられる。黒とボディーと同色のオレンジの2トーンカラーが効いている。エキセントリシティーがステキなんである。
これから増えていく予感
ディーゼルエンジンの特性で、高速道路での中間加速は鈍感で、あせってガバチョとアクセルを踏み込んでも、クルマは前に進んでくれない。高速巡航は得意だけれど、高速での追い越しは得意ではない。ガソリンエンジンとは違う反応をする、ということをディーゼル乗りは頭に入れておく必要がある。
今回の燃費は車載コンピューターで13.1km/リッター。前回2016年12月に試乗したガソリンのイヴォコンが7.6km/リッターだったことを考えると、走行ルートも走り方も異なるとはいえ、なんとも素晴らしい。車両価格はガソリンより20万円高いだけだから、ディーゼルを選ぶ現実的なメリットがあるだろう。
取材した日はまだ冬の名残でひんやりした空気の中だった。けれど、オープンにしていても、寒中水泳大会みたいなことにはならなかった。ステアリングヒーターにシートヒーターを完備しているから、少なくともドライバーは快適に過ごすことができる。ほろの開閉は全自動で、スイッチひとつ、ロックも必要ない。屋根が大きい分、閉めるのに17秒ほど時間がかかる。とはいえ、わずか17秒である。なんて世の中、便利になったことでしょう。シートにはマッサージ機能までついている。
イヴォーク コンバーチブルはまるで1分の1のチョロQみたいな外見にもかかわらず、日常の使用に耐える実用性と快適性を備えている。ディーゼル搭載により、その実用度をいっそう上げた。現代の初代「ゴルフ カブリオレ」、あるいは「MINIコンバーチブル」のお兄さんという位置付けのようにも思われる。
SUVのオープンは今後増殖する気配がある。間違いなく増える。でも、それはもうちょっと先のことである。イヴォーク コンバーチブルはそれまでのあいだ、現代の傾奇(かぶき)者のためのクルマとして先行者利益を独占することになる。スポーツカーとは違う種類のスポーティーなカーである。
(文=今尾直樹/写真=小河原認/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
ランドローバー・レンジローバー イヴォーク コンバーチブル HSEダイナミック(D180)
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4385×1900×1650mm
ホイールベース:2660mm
車重:2080kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:180ps(132kW)/4000rpm
最大トルク:430Nm(43.8kgm)/1750rpm
タイヤ:(前)245/45R20 103W/(後)245/45R20 103W(コンチネンタル・コンチクロスコンタクト)
燃費:13.4km/リッター(JC08モード)
価格:788万円/テスト車=1042万5000円
オプション装備:インテリアトリム・フィニッシャー<グロスブラックストラータ>(5万6000円)/プレミアムメタリックペイント<フェニックスオレンジ>(8万8000円)/セキュアトラッカー(9万7000円)/プロテクト(3万7000円)/コネクトプロ(5万7000円)/ブラックパック(36万5000円)/アダプティブLEDオートマチックヘッドランプ(31万1000円)/ACC(12万6000円)/コールドクライメイトコンビニエンスパック(8万1000円)/ラグジュアリーパック(71万6000円)/ラグジュアリーシートパック(55万5000円)/ウェイドセンシング(5万6000円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:1727km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(9)/山岳路(0)
テスト距離:252.5km
使用燃料:21.1リッター(軽油)
参考燃費:12.0km/リッター(満タン法)/13.1km/リッター(車載燃費計計測値)
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今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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