第375回:はしる・まがる・とまるの次は、つながる!?
「トヨタConnected戦略」発表会をリポート
2016.11.08
エディターから一言
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2016年11月1日、トヨタ自動車は都内で「Connected(コネクティッド)戦略」に関する記者発表会を行った。グローバルでの販売はもちろん、今後競争激化が予想されるこの領域でトヨタはどういう“攻め”を行うのだろうか。カーコメンテーターの高山正寛がリポートする。
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“つながる”領域のキーマン
これまでもトヨタのテレマティクス戦略においてキーマンとなってきたのが同社の専務役員である友山茂樹氏である。失礼を承知で言わせていただくなら“Mr.テレマティクス”。同氏はトヨタの役員であると同時に2016年4月に設立された「コネクティッドカンパニー」のプレジデントでもある。
それがどんな関係があるのか? と思われるかもしれないが、私は、この組織改編自体が今後のトヨタの、いや世界的なテレマティクス&コネクティッド領域に大きな影響を与えるに違いないと見ている。
簡潔に言って、トヨタはすでにカンパニー制を導入し、スピードある意思決定を実現している。そしてこのカンパニーは、同社のすべての車両にかかわるコネクティッド領域の戦略やインフラ、さらにハードウエア側となる車載器の開発まで一気通貫で行うことでビジネスを大きく変える可能性を秘めている。
現在トヨタが行っているコネクティッドサービスは、車両に搭載されたDCM(通信機器)からの各種情報をトヨタスマートセンターに集約し、緊急通報サービスをはじめとする安心・安全サービスや収集した“ビッグデータ”を元に独自の「Tプローブ交通情報」などを提供している。実際、これらのサービスは顧客満足度も高く、レクサスにおいては、このサービスがあるために買い換えの際も同ブランド車に乗り続けるという事例があるほどだ。
一方で、これだけ大規模な投資と事業展開を行いながらユーザーから見えている部分が何となく「もやもや」していることも否定できない。今回の戦略発表にはそれらをより“見える化”する効果もあるのではないだろうか。
トヨタ流“3本の矢”とは?
今回、発表されたコネクティッドカンパニーの戦略は次の3つである。
①全車のコネクティッド化
②新価値創造とビジネス変革
③新たなモビリティーサービスの創出
これを毛利元就ではないが「3本の矢」として例えている。「おいおい毛利は広島だろ」という突っ込みは別として(失礼)、この3つの戦略は独立したものではなく文字通り3本がまとまることでビジネスとして強靱(きょうじん)なものになる、と言いたかったのではないだろうか。
この中で、特にエンドユーザーに大きなメリットがあるのは①と③であろう。今回の発表によると、前述したDCMを2019年までにグローバルで共通化し、2020年までに日米で販売されるほぼすべての乗用車に標準搭載、その他の主要市場にも順次展開していくという。
通信というものは国や地域によって方式や運用などはさまざまである。このため、エリアごとに選定した通信事業者に自動接続し通信状態を総合的に監視する「グローバル通信プラットフォーム」をKDDIと共同で構築する。
③に関してはまずは北米での展開が先になるが、増え続けるカーシェアリングにおける改造コストやセキュリティー面での問題を一気に解決する「SKB(スマートキーボックス)」が発表された。
このSKBは、車両を改造することなく簡単に設置でき、さらにスマホから専用アプリを使い、高いセキュリティーを保ったうえでドアロックの開閉やエンジン始動が行えるというもの。国内でもトヨタレンタリースほかと運用を検討中ということだが、SKBを使うことで改造費も抑えられるため、ユーザー側の利便性の向上や利用金額の低減にも寄与する可能性が高い。
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プリウスPHVで実現するすぐ先の未来のサービス
今回、同時に公開されたのが今冬に発売予定の新型「プリウスPHV」に搭載される「ポケットPHV」のサービスである。新型プリウスPHVにはほぼすべてのグレードにDCMが標準装備、3年間無償で通信サービスが提供される。また気になる4年目以降の通信料は年間1万2000円程度となる予定とのことで、月額1000円ならばリーズナブルとの印象を受けた。
考え方としては非常にシンプルで、スマホからプリウスPHVにアクセスし、車両の状態(充電状況)の確認やエアコンの事前作動などが行えるというものだ。
これらに関してはそれほど驚きはないのだが、このシステムの優れている部分はそのセキュリティー性の高さである。単純にインターネット経由で接続する場合のセキュリティーリスクは高く、今後サイバー犯罪はクルマの世界にまで波及してくる。正確に言えば、こういった犯罪はすでに世界で起きているのが現実だ。しかしトヨタの場合は前述したDCMを使ったプラットフォームによって高いセキュリティーを実現している。
また車両に何か不具合が発生するとDCMを使いデータをセンターに送信、そこに蓄積されているビッグデータから解析を行い、オペレーターや販売店(営業時間内の場合)に連絡を行い、サポートを受けることができる「eケアサービス」のデモも行われたが、これもユーザーにとってはメリットが大きい。
要はビッグデータが進化することで、より精度の高い、言い方を変えれば手厚いサービスが受けられる。同時に発表された「故障予知サービス」などは従来よりも一歩先を行ったサービスといえるだろう。
キーワードは「プラットフォーマー」
世の中のIoTの進化はクルマの領域、つまりコネクティッドカーの普及にも大きく影響することは誰の目にも明らかだ。今回の記者発表でも“トヨタの本気”は十分に理解できた。
しかし、何でも手放しで褒めるわけにもいかない。GoogleやAppleなどもこの領域に積極的に参入しているし、この発表直後にGMがIBMの人工知能である「Watson」を使ったドライバー向けサービス「OnStar Go」を発表するなど、ライバルの動きも速い。
友山氏は「ライバルという考えは持っていない」と述べていたが、すでにマイクロソフトなど数社と協業を発表するなどビジネスの水平展開を行ってはいるものの、その戦略の具体的な部分がまだ見えてこない。
また前述したDCMに関しても、これからのクルマに標準化されるのはいいとして、これまでの(最低でもトヨタ車の)ユーザーはどうなるのか? という問題も浮き上がってくる。
と書いてはみたものの、トヨタはそんなことはとっくに折り込み済みだろう。ビジネスに関しては今後、あっと驚くような仕掛けが用意されているだろうし、DCMに関しては個人的見解だが、汎用(はんよう)型のユニットを開発し、いわゆる“後付け”を可能にするのではないかと予想する。
要はこれによりビッグデータがさらに収集でき、サービスの質を向上させられることになる。
会見で友山氏は何度となく「プラットフォーマー」という言葉を発信していた。“フォーム”ではなく“フォーマー”。この言葉からもトヨタが「この領域で、常にプレイヤーとしてもイニシアチブを取っていく」と宣言しているような気がしたのは私だけではないはずだ。まずはそのショーケースともいえる、新型プリウスPHVの発売を楽しみに待つことにしよう。
(文=高山正寛/写真=webCG/編集=近藤 俊)
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高山 正寛
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