プジョー2008アリュール(FF/6AT)
新しいブルーライオンの旗手 2016.11.22 試乗記 「プジョー2008」がマイナーチェンジを受け、新しいパワーユニットとよりSUVらしいスタイリングを得た。激戦のコンパクトSUV市場に本気で挑む、新世代ブルーライオンの旗手の実力をリポートする。ブランド戦略を担うマイナーチェンジ
<プジョーが来年に向けて指し示す重要なブランド戦略は「SUV」です>
プジョー2008のプレスリリース冒頭に記されている言葉である。パリモーターショーでは新しい「3008」と「5008」を発表していて、「208」「308」などの「0」モデル路線から「00」モデル重視にかじを切ったことが明確に示された。
プジョーといえばコンパクトハッチ、というのがちょっと前の常識だった。「205」はオシャレ系女子に人気で、ホットバージョンは走り好きの男子から支持を得た。「206」も好評で、電動開閉式ハードトップを備える「CC」はこのジャンルが人気となるきっかけとなった。「207」になるとボディーが大幅に拡大し、日本では3ナンバーサイズに移行する。
不満が多かったのか、208ではサイズを縮小するという逆転現象が起きた。3気筒エンジンが採用されて機関面でもダウンサイジングが図られる。好感をもって迎えられたが、かつてのような熱狂からは遠い。2004年に「1007」が登場し、初の「00」モデルとなる。その後4ケタ車名が続々と現れ、ミニバンとクロスオーバーにバリエーションを広げていった。2008は「00」モデルとしては最後発で、2013年のジュネーブショーでデビューしている。
3年を経てマイナーチェンジを受けたわけだが、このモデルにはプジョーの言うブランド戦略が大きく刻印されている。今までクロスオーバーと言ってきたのに、SUVという言葉を使うようになった。プレスリリースの見出しは<プジョー、「NEW PEUGEOT 2008 SUV」を発売>である。モデル名にSUVが付いたわけではなく、ラインナップ紹介には「2008 Allure」「2008 GT Line」と書いてある。説明書きの「ハンドル/ドア」の項目まで「右/5ドア SUV」となっているのはさすがに面食らった。SUVというのはキャッチコピーなのだろうか。
迫力を増したフロントマスク
新モデルのフロントマスクを見ても、SUV路線が強調されていることがわかる。トレンドを取り入れ、グリルは垂直に切り立った形状になった。穏やかにスラントして空力のよさそうな形だったマイチェン前に比べ、迫力が増したフォルムである。ライオンエンブレムは高められたボンネットからグリルに降りてきた。
アンダーガードやルーフレールは以前から備わっていたが、新モデルのほうがよく似合って見える。前は控えめで上品なファミリーカー然としていたのに、いかつい威圧感をまとうようになった。フレンチなステキ系とは縁を切り、ゲルマン対抗型へとはっきり路線を変えている。
コンパクトSUVは世界的に流行していて、プジョーが力を入れるのは理解できる。ただ、各社がこぞって力作を投入しているジャンルであり、生半可なことでは存在感を示せない。プジョーの武器は、「インターナショナル・エンジン・オブ・ザ・イヤー」を2年連続で受賞している1.2リッター3気筒ターボの「Pure Tech」エンジンだ。低回転域から十分なトルクを供給しながら、JC08モードで17.3km/リッターという好燃費でもある。
「ルノー・キャプチャー」は同じ1.2リッターターボエンジンの4気筒だが、比べても3気筒のネガは感じない。振動や不快な音はていねいに消されている。スペックで見ても、最高出力ではキャプチャーが上回るが、トルクの数値は2008に分がある。発進の力強さや低速での取り回しでは、アドバンテージがあるように思う。
ワインディングロードでは機敏な動き
駆動方式はFFだけだが、2008には雪道や砂地での走行をサポートする「グリップコントロール」が用意されている。ただし、これは「GTライン」専用の装備。「アリュール」は完全に都市型ランナバウトという位置づけで、上質な内外装が売りだ。レッドとブラックを強調したGTラインに対し、アリュールはクロームパーツの多用で差別化が図られている。メーターはブルーで縁どられ、クールなイメージだ。
特徴となっている小径ステアリングホイールのおかげで、運転席に収まるとスポーティーな気分が盛り上がる。都市型SUVではあるが、ハイウェイ巡航も得意科目だ。高速コーナーでは安定した姿勢に終止し、不安感がない。乗り心地は少々硬め。伝統的なフランス車のイメージとは異なる。そういえば、キャプチャーも思いのほか硬質な乗り心地だった。
小径ステアリングホイールはワインディングロードで本領を発揮する。最小限の動作でクルマを操れることがスポーティーな気分を盛り上げる。気分だけでなく、実際にコーナーでの動きは機敏だ。車高を気遣うのを忘れて結構なペースで飛ばせる。
もともとは「ETG5」と呼ばれるシングルクラッチ式5段ATが装備されていたが、新モデルはコンベンショナルな6段ATになった。マイチェン前の3月に発売された「CROSSCITY」という特別仕様車が6段ATになっていたので、変更は既定路線だったのだろう。日本のユーザーにとっては朗報に違いない。
プラスアルファが欲しい
都会的なスタイルでダウンサイジングターボエンジンを搭載するほどよいサイズ感のSUV。2008は昨今のトレンドを詰め込んだ売れ筋モデルだ。プジョーといえども、昔のイメージにしがみついていることはできない。マーケットの動向にきっちり応えた商品開発は正しい方向性だ。
コンパクトSUVはハッチバックが以前占めていた場所に取って代わった感があり、プジョーが戦略としてSUVを選んだのは自然なことなのだろう。長年コンパクトカーの開発で培ってきた技術が生かされ、上々の仕上がりになっている。何の不満もないいいクルマなのだが、欲を言えばプラスアルファが欲しい。プジョーならでは、フランス車ならではの何かだ。
SUVらしい力強さを身につけたエクステリアは魅力的だが、デザイン面でフランス車が大きなアドバンテージを持つ時代ではない。コンパクトSUVのジャンルでは日産が「キャシュカイ」や「ジューク」で新風を吹き込み、トヨタは「C-HR」を世に問おうとしている。その中で強い印象を残すというのは難度の高いミッションだ。
CROSSCITYで落とされた装備の中で、今回復活したのがアンビエンスランプだ。天井に刻まれたラインが夜になると淡く光るというだけのものだが、実にいい雰囲気をもたらす。役には立たないけれど、ディテールにこそクルマの価値が宿る。売れ筋の向こうに、プジョーにしかできないデザインと走りが求められているはずだ。
(文=鈴木真人/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
プジョー2008アリュール
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4160×1740×1570mm
ホイールベース:2540mm
車重:1230kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:110ps(81kW)/5500rpm
最大トルク:20.9kgm(205Nm)/1500rpm
タイヤ:(前)195/60R16 89H(後)195/60R16 89H(グッドイヤー・エフィシエントグリップ)
燃費:17.3km/リッター(JC08モード)
価格:262万円/テスト車=288万4060円
オプション装備:ボディーカラー<パールホワイト>(7万0200円)/2008専用SDカードメモリーナビゲーション(18万3600円)/ETC車載器(1万0260円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:2205km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:404.6km
使用燃料:28.1リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:14.4km/リッター(満タン法)/13.6km/リッター(車載燃費計計測値)
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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