メルセデス・ベンツGLC350e 4MATICスポーツ(4WD/7AT)
PHVの印籠を持ったSUV 2016.11.23 試乗記 「メルセデス・ベンツGLC」シリーズにこの秋、プラグインハイブリッド車の「GLC350e 4MATICスポーツ」が加わった。EV走行が身近に味わえ、しかもアクセルを踏めば0-100km/h加速を5.9秒でこなす緩急自在の“パワーハイブリッド”の実力やいかに? 350kmのワンデーツーリングでじっくり探った。メルセデス初の4MATIC+PHV
まだ11月なのに、北日本は吹雪になったりしている。今年の冬は厳しそうだ。
となると、四駆SUVの出番。「メルセデスCクラス」級のSUV、GLCに加わったプラグインハイブリッド(以下PHV)が、GLC350e 4MATICスポーツである。Cクラス相当のSUVといっても、価格は863万円する。まったく同じ値段の「AMG GLC43 4MATIC」と並ぶシリーズ最上級グレードである。
GLC350eのエンジンは、211psを発する「GLC250」用の直噴2リッター4気筒ターボ。これに116psのモーターやリチウムイオン電池などを組み合わせて、外部充電可能なPHVに仕立てている。このPHVシステムそのものは、ひと足先にCクラスに導入されているが、4MATICとの組み合わせは初というのがGLC350eのニュースである。
このクルマは同等の装備を持つ「GLC250 4MATICスポーツ(本革仕様)」(735万円)より128万円高い。つまりそれがPHVのお代、と考えると、高いけど安い? 13.9km/リッターのJC08モード燃費は、もちろんシリーズ最良。車重は250kg増えて2.1tもあるのに、PHVだから重量税は免税、タダになる。
走行モードは4種類あるものの……
PHVとは、エンジン付きのEVである。動力機構としてはハイブリッド車だが、EVのように外部から充電することもできる。
GLC350eの場合、200V電源だと4時間でフル充電される。排ガスゼロで走れる距離(プラグインレンジという)は、カタログ値で30.1km。PHVとしては長くないが、電池が切れてもエンジンで走り、発電してチャージするから、出先で充電スポットを探す必要はない。メルセデスのPHVは急速充電にも対応していない。
コンセントから充電するより、エンジンで充電するほうがはるかに高くつくが、それを気にしなければ、充電環境がなくても使える。エンジン車とEVのいいとこどり、というか、両者の欠点の言い訳を持ち歩いて走っているみたいなクルマが、PHVである。
GLC350eのシステムにはスイッチで操作できる4つのモードがある。
(1)ハイブリッドモード(エンジンとモーターを併用する、いわばおまかせモード)。(2)Eモード(モーターのみで走るモード。欧州仕様の参考値で135km/hまで出る)。(3)Eセーブモード(バッテリーを使わず、その時点での充電量をキープする)。(4)チャージモード(エンジンに多めに仕事をさせて、充電量を回復させるモード。1のハイブリッドモードで混んだ町なかを走っていると、出たり入ったりで、ほとんど充電量は増えない)。
モード切り替えは、センターフロアのスイッチで簡単にできる。計器盤には、充電残量(%)やEV走行可能距離(km)などがリアルタイムで示される。目の前の一等地に、エネルギーフローの動く図説も呼び出せる。
だが、実際このメルセデスを買って、これらの機能を使いきる人が、果たしてどれくらいいるだろうか。最初はおもしろがっていろいろやっても、その後はハイブリッドモードに入れっぱなし、という人がほとんどだと思う。
迫力の“モーターボ”加速
メカトロニクスの塊だから、いろいろなことができるが、いろいろしなくたってGLC350eは走る。900万円近いクルマなのだから、当然だ。
スタートボタンを押すと、計器盤に「READY」のグリーンランプが点く。デフォルトはハイブリッドモードである。充電量が十分なら、エンジンはかからない。7段ATの短いコラムレバーでDレンジを選び、アクセルを踏めば、モーターだけで静かに動き出す。
エンジンが“点いても”、基本、静かである。ハイブリッドモードでも、けっこうマメにEV走行に切り替わる。そのときは、タコメーターの針がストンとゼロに落ちる。
エアサスペンションを標準装備し、乗り心地は快適だ。けれども、走りは重々しい。重い車重を実感させるクルマである。
だが、エンジン+モーターの全力加速は迫力だ。海面が盛り上がるようなトルク感は、モーターボ(?)ならでは。0-100km/h=5.9秒の加速データは「ポルシェ・マカン」に迫る。ヨーロッパのハイブリッド車の例にもれず、このクルマもパワーハイブリッドである。
ハイブリッド系のモード選択のほかに、通常のドライブモードセレクトも付いている。とにかく“モード好き”なクルマだが、スポーツモード以上にすると、「喝!」を入れられたみたいに、途端にクルマの反応と動きがシャンとする。
ハイブリッドのほうが燃費が悪い!?
モーター走行のEモードでおもしろいのは、このモードのときだけ、アクセルのストロークに段付きが現れることだ。踏んでいくと、途中で重くなる。それを越して踏むと、エンジンがかかってしまう。ここまでが排ガスゼロ運転ということを右足で知らせる「プレッシャポイント機能」である。
そんなことに感心しながら、351.4kmを走って、無鉛ハイオクを39.5リッター消費した。燃費は8.9km/リッターである。重さ2.1tの高級フルタイム四駆としてはワルくないが、半年前にテストしたGLC250 4MATICスポーツは10.3km/リッターを記録している。同じエンジンなのに、ハイブリッドのほうが燃費が悪い!
だが、夜はガレージのコンセントにつなぎ、奥さんがウイークデーの5日間にEモードで毎日20km走ったとすると、350km+100kmになり、燃費は11km/リッター台に乗ってGLC250を逆転する。
でも、このクルマを求める人は、そんな細かい計算はしないだろう。電欠の心配をせず、EV走行が身近に味わえて、踏めばドーンと加速する。スリーポインテッドスターに加えて、「PHV」の印籠を持ったSUVがGLC350eである。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=小河原認/編集=竹下元太郎)
テスト車のデータ
メルセデス・ベンツGLC350e 4MATICスポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4670×1900×1640mm
ホイールベース:2875mm
車重:2110kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:7AT
エンジン最高出力:211ps(155kW)/5500rpm
エンジン最大トルク:35.7kgm(350Nm)/1200-4000rpm
モーター最高出力:116ps(85kW)※欧州参考値
モーター最大トルク:34.7kgm(340Nm)
タイヤ:(前)255/45R20 101W/(後)255/45R20 101W(ピレリ・スコーピオン ヴェルデ<ランフラット>)
ハイブリッド燃料消費率:13.9km/リッター(JC08モード)
価格:863万円/テスト車=871万8000円
オプション装備:メタリックペイント<イリジウムシルバー>(8万8000円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:1166km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:351.4km
使用燃料:39.5リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.9km/リッター(満タン法)/9.3km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
NEW
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。 -
NEW
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える
2025.10.20デイリーコラム“ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る! -
NEW
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】
2025.10.20試乗記「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。