メルセデス・ベンツSLS AMG ロードスター(FR/7AT)【海外試乗記】
生粋のドライビングロードスター 2011.10.16 試乗記 メルセデス・ベンツSLS AMG ロードスター(FR/7AT)……2590万円
スーパースポーツ「SLS AMG」に追加されたロードスターバージョン。その走りは軟派な印象とは裏腹に硬派なものだった。2012年1月の日本でのデリバリーを前に、その実力をモナコからリポートする。
クーペよりハンサム?
「300SL」の伝説を追うように、「SLS AMG」にもロードスターモデルが加わった。半世紀以上も前、その構造上の必然性からガルウイング方式のドアを採用した300SLクーペは、今でこそガルウイングの代名詞として、ビンテージカーマニアから絶大なる支持を受けているが、“300SL”としての成功は、アメリカ市場を念頭においたロードスターモデルによるところが大きかった。
AMG初の専用スポーツカーとしてデビュー後、世界中で賞賛されている、“帰って来たガルウイング”SLS AMGもまた、このロードスターモデルの追加で、一層の人気と憧憬(しょうけい)を得ることは間違いない。
アイコニックな300SLと同様に、基本的にはクーペスタイルからルーフとガルウイングドアを取り去って、小さなソフトトップをそなえたスタイリングとした。2m近くもあるロングノーズがよりいっそう強調され、意外にたくましいショルダーラインが目立っていて、リアセクションも後方へとすっきり流れるデザインとなっていることから、こちらの方が単純に「格好いい」と思う人も多いことだろう。
ドアが上に開くことを至上とする筆者などは、それでもガルウイングを支持したくなるのだが、確かに小さく立ち気味でクラシカルなフロントスクリーンとの相性などは、ロードスターの方が優っていると認めざるを得ない。
ルーフにはエレガントなソフトトップを採用した。時同じくしてデビューした「フェラーリ458スパイダー」が軽量なハードトップを採用したこととは好対照である。3層からなるファブリックトップは、マグネシウムとアルミニウム、スチールを骨組みとして組み合わせ、軽量化を図った。Z型に折り畳まれ、開閉に要する時間はおよそ11秒。もちろん全自動で、時速50キロ以下であれば、走行中の開閉も可能だ。ちなみに、ソフトトップの色は黒、赤、ベージュの3色を用意した。
インテリアはクーペと同じデザインである。センターアームレスト前部に、ルーフ開閉のための操作ユニットを配した点が違う程度。それよりも、室内を注視されることの多いオープンカーということで、インテリアコーディネートに随分こだわった。特別外装色のデジーノカラーのみならず、あでやかなスタイルインテリアパッケージを用意(2012年春以降)するなど、見栄えアップには相当に力を入れている。
スペックに見劣りなし
ルーフとドアを取り去ることによって、ボディーシェルの剛性低下は免れない。もちろん、開発当初からロードスター化を念頭にデザインされているわけだが、それでも落ちるものは落ちる。剛性低下と、それを補うための重量増加をどれだけ最低限に抑えることができるか。加えて、不協振動をいかに抑えるか。それが、こうしたハイパフォーマンス・ロードスターにおける、性能面でのキモとなる。
「SLS AMG ロードスター」において、目立った対策は3カ所に見受けられた。ひとつめは、部屋割りを多くし、肉厚を増やしたサイドスカート。もうひとつは、ウインドスクリーンとセンタートンネルに対してダッシュボードのクロスメンバーを支えるストラット。そして最後に、リアアクスルの補強として、ソフトトップとタンクの間に湾曲ストラットを追加している。
これらの設計の最適化により、アルミニウムスペースフレームそのものの重量増加は、ルーフ部分と相殺してわずか2kgであり、車両重量増も40kgに抑えられた。
そのほか、メカニズム的に注目しておきたいのは、オプションながら電子制御ダンピングシステム「AMGライドコントロール」を新たに設定したことだ。これはボタンを操作することで、サスペンションモードを「コンフォート」「スポーツ」「スポーツプラス」の3段階に切り替えることができるというもの。スポーツが、これまでクーペに使われていた標準仕様ダンパーと同等のセッティング。スポーツプラスがパフォーマンスパッケージのダンピングとほぼ同じ硬さだ。要するに、これまでの二つの足まわりセッティングに、柔らかいセットを加えた三つの味つけを一台で楽しめるというわけである。もちろん、今後はクーペにもオプション設定される。
AMGによる専用開発、歴史に残る珠玉の自然吸気6.2リッターV8ドライサンプエンジンや、トランスアクスル式7段デュアルクラッチシステムの「AMGスピードシフトDCT」といった、主要メカニズムのスペックには、クーペからの変更点はない。
硬派なスポーツロードスター
結果的に、モナコのヘリポートへ到着する最後の5分を残して、運転席のみならず助手席に座っている間もずっと、オープンエアを楽しんだまま、モナコからイタリア、そしてフランス国境のあたりを走り回った。それほど、愉快な経験だったというわけだ。
わかり切ったことだったが、何はともあれこのクルマは、クーペと同様に、最高のドライビングカーである。要するに、運転席だけが楽しい。派手なオープンカーとなって、クーペに比べると軟派な印象も増したわけだが、ところがどっこい、そのライドフィールは硬派に徹していた。
もちろん、新設定のライドコントロールシステムを「コンフォート」にすれば、クーペの標準仕様より当たりがマイルドになって、凶暴なまでにハードな乗り心地感覚はいくぶん薄れる。けれども、それはあくまでも相対的にそう感じるというレベルでしかなく、絶対的にはビシッと筋の通った、ハードでフラットに徹したライドフィールである。アジリティー豊か、を通り越して、アジリティー全開のステアリングフィールも、クーペ同様、助手席に乗る“キミ”にはゲインが強過ぎて目がついていかず、あっという間に目が回ってしまい、ハードな乗り心地による不快な気分をいっそう加速させてしまうかもしれない。
結論を言おう。ドライブデートにふさわしいオープンカーではない。どんなにホワイトとブラウンと、レザーとチタンカラーの派手なインテリアが抜群に格好よく、思わず美女を連れ回したくなったとしても、これは、一人で純粋に運転を楽しむべき、超贅沢(ぜいたく)なロードスタースポーツカーだ(メルセデスのオープンカーでレディーをエスコートしたいのなら、「SLクラス」がやっぱり適している。そのすみ分けは、ある意味、見事だ)。
助手席の存在を無視して、サスペンションを「スポーツプラス」に、DCTの変速セットも「スポーツプラス」に、そしてセンターモニターの画面を新たに装備された「パフォーマンスメディアページ」にセットし、さらには自らの目も三角にして走り出そうじゃないか。そうすれば、クーペと寸分違わない、スリリングでよくできたFRらしいスポーツドライビングを、オープンエアという最高の環境下で楽しむことができる。もちろん、迫力のエグゾーストノートがダイレクトに体をしびれさせるという、極上のオマケ付きで……。
(文=西川淳/写真=メルセデス・ベンツ日本)

西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
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