アウディA4アバント1.4 TFSIスポーツ(FF/7AT)
未来が見えてきた 2016.12.26 試乗記 ダウンサイジングターボエンジンやApple CarPlay、渋滞時の運転支援システムなど、先進機能を備えた「A4アバント1.4 TFSIスポーツ」に試乗。筆者が「未来を感じた」という背景には、アウディのクルマづくりへの真摯(しんし)な姿勢があった。1.4リッターエンジンに不足なし
アウディA4アバント1.4 TFSIスポーツのコックピットに座り、iPhoneをLightningケーブルで接続する。すると「Apple CarPlay」が起動。「東京スカイツリー」と告げると、地図には東京スカイツリーの位置が表示され、目的地に設定するかどうかを尋ねてくる。
試しに、スタッフにショートメッセージを送ってもらうと、「オハヨウゴザイマス」と、音声で読み上げた。「シュッパツシマス」と音声で返信すると、スタッフのiPhoneには文字で「出発します」と表示される。音声認識システム「Siri(シリ)」の精度が上がっているのは知っていたけれど、ここまでヤルとは……。
CarPlayはAppleが開発したもので、アウディ以外の自動車メーカーも順次採用している。でもこのちょっと未来的なインターフェイスは、ブラック&シルバーできりっとキメた、アウディA4のクールなインテリアに似合っている。
そしてCarPlayに限らず、このクルマに乗っていると、少し先回りして未来に来たような気がするのだった。
スターターボタンを押してエンジンを始動、シフトセレクターでDレンジを選んで出発。5秒後には、「これだけ立派なボディーが1.4リッターの心臓でちゃんと走るのか?」という疑問は解けて消えた。一切のストレスなしに、するすると加速するのだ。
特にエンジン音が高まるわけでもなく、停止状態からスムーズに加速するのは、最大トルク25.5kgmを、1500-3000rpmというごく低回転域で発生するセッティングによるものだ。7段Sトロニックの変速もスムーズで、静かでシームレスな加速感はちょっとEVを思わせる。このエンジンの感触も、未来を感じる一因だ。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
渋滞中でも楽ちん
試乗車にはお値段69万円ナリの「セーフティーパッケージ」のオプションが備わっていたので、さまざまな運転支援装備を試すことができた。まずは「アダプティブクルーズコントロール」に新たに加わった、「トラフィックジャムアシスト機能」をチェック。
5段階から選べる先行車両との車間距離をセットして、先行車両に追従するクルーズコントロールを開始。ここで、先行車両が2台以上あって速度が65km/h以下だと、渋滞中だと認識されトラフィックジャムアシスト機能が作動し、メーターパネルに表示がともる。すると速度のコントロールだけでなく、ハンドル操作もアシストするようになる。
ちなみに前をいく車両との車間距離を把握するのはレーダーの役目であり、カメラは車線を認識してハンドル操作をアシストする。
最初はおっかなびっくりであったけれど、慣れると楽ちん。あくまで運転支援装備という位置付けなので、ステアリングから手を離すことは許されないけれど、じっくり観察してみるとステアリングさばきはなかなか巧みだ。
巧みといえば、先行車両に追従するときの加減速も巧みになっていて、実にナチュラルなのだ。このあたりの技術は日進月歩で、どんどんよくなっている。
快適に試乗を続けながらハッと気付いたのは、この快適さの裏には乗り心地のよさがあるということだった。
試乗車は「スポーツ」グレードだったので、車高を20mm低めるスポーツサスペンションや、225/50の17インチタイヤを履いている。ちなみに標準グレードは205/60R16。なのに路面との接し方はマイルドで、ゴツゴツしたり、突っ張った感じを伝えたりすることはない。
それでいながら、凸凹を乗り越えたり、コーナリングを終えたりした後は、すっきりと元の姿勢に戻るから気持ちがいい。躾(しつけ)の行き届いた、マナーのいい足まわりだ。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
鍛え上げた体があってこそ
最初はApple CarPlayやトラフィックジャムアシスト機能といった、先進機能に目を奪われがちだった。けれども、モーターのように滑らかなパワートレインや、ソフトなのにしっかりしているという、矛盾するポイントを両立した足まわり、信頼できるブレーキなどなど、新しさを感じた裏には、クルマとしての素性のよさがあった。
さらに基本的なところに立ち返れば、小排気量エンジンでもしっかり走ることや軽やかな身のこなし、そしてこれだけの体格で16.6km/リッター(JC08モード)という燃費を実現したことなどは、ボディーの基本骨格から変えて軽量化したことが効いているのではないか。
アウディA4のフルモデルチェンジにあたっては、新しいプラットフォーム「MLB evo」の採用によって、従来型から最大で120kgの軽量化を実現したという。軽さは動力性能にも旋回性能にも好影響を与えるはず。そうした地道な開発努力が、未来的な印象につながっているのだ。
従来型に比べて幅が15mm広がるなど、現行アウディA4はひとまわり成長して、このセグメントの中でも大きい部類だ。例えば「メルセデス・ベンツCクラス」のステーションワゴンに比べると、全長も全幅も30mm上回る。
1.6リッターの直4ターボを積む「C180ステーションワゴン」の車重が1550kgであるのに対して、アウディA4は1450kgと100kg軽い。Cクラスが後輪駆動で、アウディA4 1.4 TFSIがFFであるという理由はあるにせよ、100kgの差は興味深い。
アウディはおしゃれで、iPhoneもつながるし自動運転に近づいているみたいで新しい……。でも振り返れば、アウディは「クワトロ」でWRC(世界ラリー選手権)の歴史を変え、高効率エンジンでルマンを制したインテリの武闘派である。軽量化にもレースでのノウハウが生かされているはずだ。鍛え上げた体だからこそ、洋服もおしゃれに着こなせるのだということを、最新モデルに乗ってあらためて実感した。
ただしひとつだけ、自動パーキング機能のスムーズさは、以前に試した「トヨタ・プリウス」のほうが上手だった。自動パーキングにはモータースポーツの経験が注入できないから、というのはもちろん冗談である。
(文=サトータケシ/写真=高橋信宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
アウディA4アバント1.4 TFSIスポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4735×1840×1410mm
ホイールベース:2825mm
車重:1450kg
駆動方式:FF
エンジン:1.4リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:150ps(110kW)/5000-6000rpm
最大トルク:25.5kgm(250Nm)/1500-3500rpm
タイヤ:(前)225/50R17 94Y/(後)225/50R17 94Y(ミシュラン・プライマシー3)
燃費:16.6km/リッター(JC08モード)
価格:507万円/テスト車=591万5000円
オプション装備:ボディーカラー<グレイシアホワイトメタリック>(8万5000円)/セーフティーパッケージ(69万円)/バーチャルコックピット(7万円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:3543km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(8)/高速道路(2)/山岳路(0)
テスト距離:146.9km
使用燃料:13.6リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:10.8km/リッター(満タン法)/11.6km/リッター(車載燃費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
-
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】 2025.10.20 「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。