シトロエンC4カクタス(FF/5AT)
21世紀の2CV 2016.12.28 試乗記 シトロエンの小型クロスオーバーモデル「C4カクタス」に試乗。1.2リッター直3自然吸気エンジンと5段ETGがもたらすのんびりとした走りには、どこか「2CV」に通じる、フランス車の原点的な味わいがあった。まずは限定200台で登場
2016年の年の瀬、ステキな体験をした。久々に異世界から来た乗り物に乗った。そういう感覚がとても新鮮で面白かった。筆者にとっては、webCG編集部からのクリスマスプレゼントといいたいぐらいです。C4カクタスは待望の、これぞリアルシトロエンというべき小型車だった。待ちくたびれて免許を返上しようかと思っていたシトロエニストのみなさん、21世紀の2CVが出ました!
サイズは全長4mちょっとで、ホイールベースは2595mm、ということはいわゆるCセグメント、「ゴルフ」クラスである。と思ったけれど、いまやゴルフは全長4265mm、ホイールベース2635mmにまで大型化している。とはいえ「ポロ」は全長3995mmで、ホイールベース2470mmだから、それよりはだいぶ大きい。
本国にはディーゼルもあるけれど、10月に国内発売となった初回限定200台のC4カクタスは1.2リッター自然吸気の3気筒のみである。最高出力はいまどきたったの82ps。これが実にイイ!
プラットフォームはPSAのPF1という、「シトロエンC3」や「DS 3」、プジョーだと「207」「208」「2008」等に使われているサブコンパクト用を流用する。たとえば、C3のホイールベースは2466mmだから、130mmほど引き延ばしている。おかげでこのクラスとしては異例に軽い。テスト車は、日本仕様にはないパノラマルーフながら、それでも車重は1090kg。フォルクスワーゲン・ゴルフは1240kg、「C4」だと1320kgもある。パワートレインを同じくするC3より50kgも軽く仕上がっているのはオドロキだ。
それぢゃ、ボディーがペコペコ、ユルユル、ガタガタなのでは? というような心配はまったくご無用だ。敷居とか鴨居(かもい)がしっかりしていて、きっちり感がある。
ペコペコするのは外見上の最大の特徴であるAIRBUMP(エアバンプ)である。ボディーのサイドに貼られたポリウレタン素材で、中にエアが入っていて、4km/hまでの衝突からボディーを保護する。おまけに、本国では全部で4色用意されていて、パーソナライゼーションに貢献する。日本に輸入される初回分の200台はボディー色が白のみ茶色で、あとは全部黒なのは惜しい。でも、黒ボディーに黒AIRBUMPとか実にシブい組み合わせだったりする。シトロエンの特許であるこれは、機能とファッションを併せ持つカクタス(英語で「サボテン」)の必殺技のひとつということになる。
これぞシトロエンのインテリア
丸くって四角いエクステリアは、顔がパラパラまんがの達人、鉄拳みたいにも、南米に住むカピバラみたいにも見える。かわいくもあるけれど、コワくもある。
ドアを開けて座ってみる。運転席と助手席で一応独立しているけれど、「シトロエンGS」みたいにフカフカで、いきなりリラックスムード。SUVを名乗るけれど、特に着座位置が高いということはない。
眼前のメーターは四角いデジタルの速度表示のみで、先進的というよりは、どこか70年代っぽくもあるし、フューチャーレトロのようでもある。ステアリングホイールが1本スポークでないのはまことに惜しいけれど、そう昔のままというわけにもいかない。
始動はフツウにキイを回す。1.2リッターの3気筒ユニットは静かに目覚める。センターコンソールからニョキッと突き出たそれはシフトレバーかと思ったら単なるパーキングブレーキのレバーで、ギアシフトはダッシュボードの大きな丸にNと、小さな丸にRとD、全部で3つのボタンで行う。変形楕円(だえん)のステアリングにはシフトパドルも付いている。フェラーリみたいに左右いっぺんに手前に引いたらニュートラルになるかと思ったら、そういうことは起きなかった。Dボタンを地道に押す。
のんびりまったりとした走り
ゼロスタートはまことにのどかだ。田園風景を走るシトロエン2CVのようにのんびりしている。遅い。ギアボックスは5段エフィシェント・トロニックというロボタイズドオートマチックで、このシングルクラッチのギアボックスの自動変速ぶり、シフトのまったり具合が非力な1.2リッター3気筒の遅さに輪をかけて、浮世離れしている。
最高出力82psは5750rpmで、最大トルク12.0kgmは2750rpmで発生する。極低速トルクは超細い。アクセルペダルを踏んでもクルマがついてこない。中速トルクはけっこうイケる。タコメーターがないのでわからないけれど、ギアが3速に入ると、活発に感じる。足まわりはウニウニしながら、フラットに走るその様は、ソフトで優しい感じ。ハイドロニューマチックでこそないものの、みんなが待っていたシトロエンの味わいだ。
5段エフィシェント・トロニックはその名の通り効率重視で、アクセルペダルを踏み込んでも、なかなかキックダウンしてくれない。左側のパドルを引いてダウンシフトしても、右足に隙ができたと見るや、直ちにアップする。低いギアをキープしようという考えがハナからない。ただ、パドルでギアダウンしたときの反応自体は意外と敏しょうで、そこからの加速は小気味がいい。
50歳まで現役を続けた中日の山本昌投手は投球術で遅い球を速く見せていたというけれど、C4カクタスはそれだ。いつも遅い。だから、ツボにはまるとけっこう速く感じる。そのツボは最大トルクを紡ぎ出す3000rpmあたりあると思われるけれど、なんせタコメーターがないのでわからない。
ちなみにエンジンは意外と静かで、高回転まで無理やり回しても、ヴウウウ~ンという控えめな乾いたサウンドを発するのみ。室内にこもり音が発生することもなく、高速巡航を快適にこなす。
ヘンテコを愛すすべての人へ
ステアリングはいかにも電動パワーステアリングらしくて、高速道路に上がるとがぜん重くなる。これが高速でのスタビリティーの高さに寄与していると思われる。
箱根のターンパイクのような中高速コーナーの連続は得意科目で、ロードホールディングがいかにもよさげに曲がる。ロールは許すけれど、自然で心地がよい。非力なので上りはガクッとスピードが落ちる。3速、4速、5速で最高速が同じなのだ。下りは速いけれど、速いことに驚きはない。
C4カクタスは遅いってことのステキさを思い出させてくれる。2CVを思い出したくらいに遅い。平和だ。ピース! いったん速度が落ちると、従前のスピードを取り戻すのに時間がかかる。その間を味わうのもまた一興である。
フラットアウト、全開でどこまでも走る。フラットな大地を非力なエンジンでぶっ飛ばす。それがかつてのフランス車の醍醐味(だいごみ)だったわけだけれど、C4カクタスにはその醍醐味がある。webCG編集部から自宅へ戻る際の首都高速でグルグル回ってしまったのは、分岐で間違えたせいもあるけれど、家にそのまま帰るのが惜しかったのである。
リアのドアのガラスが昔のミニみたいにヒンジで外側にちょっとしか開かないこととか、バックするとき、Rボタンを押してから動き出すまでにものすごく時間がかかって、とっても運転が心もとなく外から見ていたら思われてしまうであろうこと等、気になる点もあるけれど、そんな欠点も含めて、シトロエンC4カクタスはヘンテコを愛すすべての人のためのクルマだ。
(文=今尾直樹/写真=小河原認/編集=竹下元太郎)
テスト車のデータ
シトロエンC4カクタス
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4155×1735×1530mm
ホイールベース:2595mm
車重:1070kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:5段AT
最高出力:82ps(60kW)/5750rpm
最大トルク:12.0kgm(118Nm)/2750rpm
タイヤ:(前)205/50R17 89V/(後)205/50R17 89V(グッドイヤー・エフィシエントグリップ)
燃費:--km/リッター
価格:238万円/テスト車=239万9980円
オプション装備:カクタス専用ソリッドボディーペイント(ハロー イエロー)(1万9980円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:3105km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:267.4km
使用燃料:18.2リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:14.7km/リッター(満タン法)/15.3km/リッター(車載燃費計計測値)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
-
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】 2025.12.12 「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。
-
BYDシーライオン6(FF)【試乗記】 2025.12.10 中国のBYDが日本に向けて放つ第5の矢はプラグインハイブリッド車の「シーライオン6」だ。満タン・満充電からの航続距離は1200kmとされており、BYDは「スーパーハイブリッドSUV」と呼称する。もちろん既存の4モデルと同様に法外(!?)な値づけだ。果たしてその仕上がりやいかに?
-
フェラーリ12チリンドリ(FR/8AT)【試乗記】 2025.12.9 フェラーリのフラッグシップモデルが刷新。フロントに伝統のV12ユニットを積むニューマシンは、ずばり「12チリンドリ」、つまり12気筒を名乗る。最高出力830PSを生み出すその能力(のごく一部)を日本の公道で味わってみた。
-
アウディS6スポーツバックe-tron(4WD)【試乗記】 2025.12.8 アウディの最新電気自動車「A6 e-tron」シリーズのなかでも、サルーンボディーの高性能モデルである「S6スポーツバックe-tron」に試乗。ベーシックな「A6スポーツバックe-tron」とのちがいを、両車を試した佐野弘宗が報告する。
-
トヨタ・アクアZ(FF/CVT)【試乗記】 2025.12.6 マイナーチェンジした「トヨタ・アクア」はフロントデザインがガラリと変わり、“小さなプリウス風”に生まれ変わった。機能や装備面も強化され、まさにトヨタらしいかゆいところに手が届く進化を遂げている。最上級グレード「Z」の仕上がりをリポートする。
-
NEW
アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター(FR/8AT)【試乗記】
2025.12.13試乗記「アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター」はマイナーチェンジで4リッターV8エンジンのパワーとトルクが大幅に引き上げられた。これをリア2輪で操るある種の危うさこそが、人々を引き付けてやまないのだろう。初冬のワインディングロードでの印象を報告する。 -
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】
2025.12.12試乗記「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。 -
高齢者だって運転を続けたい! ボルボが語る「ヘルシーなモービルライフ」のすゝめ
2025.12.12デイリーコラム日本でもスウェーデンでも大きな問題となって久しい、シニアドライバーによる交通事故。高齢者の移動の権利を守り、誰もが安心して過ごせる交通社会を実現するにはどうすればよいのか? 長年、ボルボで安全技術の開発に携わってきた第一人者が語る。 -
第940回:宮川秀之氏を悼む ―在イタリア日本人の誇るべき先達―
2025.12.11マッキナ あらモーダ!イタリアを拠点に実業家として活躍し、かのイタルデザインの設立にも貢献した宮川秀之氏が逝去。日本とイタリアの架け橋となり、美しいイタリアンデザインを日本に広めた故人の功績を、イタリア在住の大矢アキオが懐かしい思い出とともに振り返る。 -
走るほどにCO2を減らす? マツダが発表した「モバイルカーボンキャプチャー」の可能性を探る
2025.12.11デイリーコラムマツダがジャパンモビリティショー2025で発表した「モバイルカーボンキャプチャー」は、走るほどにCO2を減らすという車両搭載用のCO2回収装置だ。この装置の仕組みと、低炭素社会の実現に向けたマツダの取り組みに迫る。 -
ホンダの株主優待「モビリティリゾートもてぎ体験会」(その2) ―聖地「ホンダコレクションホール」を探訪する―
2025.12.10画像・写真ホンダの株主優待で聖地「ホンダコレクションホール」を訪問。セナのF1マシンを拝み、懐かしの「ASIMO」に再会し、「ホンダジェット」の機内も見学してしまった。懐かしいだけじゃなく、新しい発見も刺激的だったコレクションホールの展示を、写真で紹介する。






































