第392回:世界的なカスタムカーの祭典
盛況に終わった東京オートサロン2017を総括する!
2017.01.16
エディターから一言
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世界屈指のカスタマイズカーイベント・東京オートサロン2017が2017年1月13日~15日の期間、千葉県の幕張メッセで開催された。今年も多くのクルマ好きが来場し、大いに盛り上がった会場の模様をリポートしよう。
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自動車メーカーの参加が“当たり前”に
今回で35回目となる東京オートサロンは、昨年同様、千葉・幕張メッセの全ホールを使用。広々とした会場を、国内主要自動車メーカー、輸入車のインポーター、アフターパーツメーカー、カスタムショップなど合計458社の展示ブースが隅々まで埋め尽した。さらに今回は、近隣のZOZOマリンスタジアムの外周を使用した「体感! カスタムカー同乗試乗走行会」を実施するなど、新たな取り組みも見られた。
以前のオートサロンの主役といえば、カスタムショップやチューニングショップ、そしてアフターパーツメーカーであったが、それも昔の話。近年は国産メーカーおよびインポーターの出展も定着しており、モーターショーなどとは異なる独自のオリジナリティーを追求した展示内容も、オートサロンの楽しみのひとつとなっている。
今回、国内メーカーでブースを出展したのはトヨタ(レクサス)、日産、ホンダ、マツダ、富士重工(スバル)、ダイハツ、スズキ、日野の8社。インポーターは、メルセデス・ベンツ日本、フォルクスワーゲン グループ ジャパン、ルノー・ジャポン、エルシーアイ(ロータス)の4社に加え、英国伝統のピュアスポーツカー「ケータハム」を正規導入するケータハムカーズ ジャパンや、同じく英国製のスポーツカーメーカー「ゼノスカーズ」の正規輸入代理店であるGruppeM Racingも「ゼノスE10」を展示していた。
モータースポーツを前面に押し出したトヨタとスバル
個々の展示を見ていくと、出展者中最大面積のブースを構えたトヨタは、トヨタ、レクサスの両ブランドで強く推進しているモータースポーツ活動を前面に打ち出した内容となっていた。特にTOYOTA GAZOO Racingの展示内容は今期より復活する世界ラリー選手権(WRC)参戦にまつわるものが中心で、そこに投入するラリーカー「ヤリスWRC」も国内初披露された。さらにその後方には、ラリーシーンに名を残すトヨタの歴代ラリーカーが居並び、トヨタのWRC復活を強くアピール。コンセプトモデルとしては、コンパクトカーの「ヴィッツ」「アクア」をベースとした「TGR Concept」の2台が初披露された。これは、TOYOTA GAZOO Racingがプロデュースした新たなコンセプトモデルで、モータースポーツ活動で得た技術や知見がフィードバックされたもの。スタイルの完成度も高いだけに、近いうちの市販車化も期待できそうだ。
一方、LEXUS GAZOO Racingは、SUPER GTに投入するGT500クラスの「LC500」とGT300クラスの「RC F GT3」の、2台の2017年モデルをお披露目。もちろん、昨年のSUPER GTの覇者である「DENSO KOBELCO SARD RC F」(GT500)も展示されていた。
スバルも、モータースポーツ活動を前面に打ち出したメーカーのひとつだ。クラス3連覇の掛かったニュルブルクリンク24時間耐久レースと、SUPER GT GT300クラスの2つを展示の柱とし、ステージには昨年の投入マシンである「WRX STI NBR CHALLENGE 2016」と「BRZ GT300 2016」の2台を展示。さらにブース内には、2016年に活躍した全日本ラリー選手権の「WRX STI」と、86/BRZ Raceに参戦する「CG ROBOT RACING」の2017年モデルが展示されていた。市販車では「WRX S4」と「BRZ」の「STIスポーツ コンセプト」を参考出品。STIスポーツは、すでに投入済みの「レヴォーグ」で大人気となっているグレードだけに、こちらの登場も期待できそうだ。
メーカーの個性が光るコンセプトカーの数々
一方で“カスタマイズ提案”を強く打ち出していたのがダイハツだ。前年のように「コペン」を中心とした展示ではなく、さまざまなモデルをベースにスポーティーな「SPORZA」、ちょい悪な「Grand Custom」、カジュアルでクラシカルな「Beach Cruisin’」、アクティブでタフな「CROSS FIELD」の全4種類のコンセプトカーを用意し、「小さいクルマを選び、遊ぶ楽しさ」を提案した。特にSPORZAは、「ブーン シルク」「トール」「コペン」「ムーブ キャンバス」をベースに、かつてダイハツが得意としていた「ミラTR-XXアヴァンツァート」や「シャレード デ・トマソ」などの個性派スポーツモデルを連想させる仕上がりとなっていた。トヨタによる完全子会社化でこれまで以上にダイハツとしてのブランド価値が問われる中、独自性をしっかりと守っていこうとする姿勢が感じられる内容で、興味深く感じた。
スズキの展示もカスタマイズ提案が中心で、こちらは二輪メーカーでもある強みを生かして、MotoGPの「チームスズキ エクスター」のカラーリングをまとった「スイフト レーサーRS」と、モトクロッサーをモチーフにしたという「イグニス モトクロッサースタイル」を展示。バイクとのコラボは、まさにスズキらしい。
日産は、好評のNISMOシリーズが展示の中心。中央ステージに飾られていたのは昨年大幅にアップデートされた「GT-Rプレミアムエディション」と「GT-R NISMO Nアタックパッケージ」で、ブースには昨年のGT500クラス参戦マシン「MOTUL AUTECH GT-R」の姿もあった。カスタマイズに関するものでは「プレミアムスポーツ コンセプト」と名付けられた「スカイライン」と「セレナ ハイウェイスター」のコンセプトカーが出展されていた。オーテックジャパンが手がける「ライダー」や「モードプレミア」のような大人向けのカスタマイズモデルで、スポーティーさだけでなくプレミアム感も表現。より上級なカスタマイズカー需要を見込んでの提案なのだろう。
明らかに減退したインポーターの勢い
これらのメーカーと比べ、一般の自動車ショー的な“新車展示会”色が強かったのがホンダで、復活を果たした「NSX」に加え、新型「シビック」のプロトタイプを出展。近年では「タイプR」が限定発売されるのみだったシビックが久々にハッチバック、セダン、タイプRという3モデル構成で今夏に復活するという。カスタマイズカーとしては、「ステップワゴン」で好評を博す「モデューロX」シリーズの第2弾と思われる、「フリード モデューロXコンセプト」を初公開した。販売好調な新型「フリード」だけに、こちらの動向にも注目したい。
マツダもステージに新型「CX-5」を据えるなど新型車色の強い展示内容で、プレスカンファレンスでは2017年2月28日までの期間限定で「ロードスター」に「クラシカルレッド」を設定することが発表された。クラシカルレッドは初代「NA」と2代目「NB」に採用されたかつての定番カラーで、限定復刻とはいえファンにとっては朗報といえよう。生産期間も限定されているので、興味がある人は早めにディーラーに出向いた方がよさそうだ。このほかにも、ブースには市販車にドレスアップパーツを加えた「カスタムスタイル2017」が展示されていた。
こうした国内メーカーの出展に対し、インポーター勢の出展は昨年より明らかに減少。大きなブースを構えたのはメルセデス・ベンツとフォルクスワーゲンのみで、前者はこのイベントでスマートの高性能モデル「スマートBRABUS」を日本初公開。さらにSUPER GTのGT300クラス参戦車両「GAINER TANAX AMG GT3」や、そのベース車である「メルセデスAMG GT」の特別仕様車「メルセデスAMG GT Sカーボンパフォーマンスリミテッド」などの展示を行った。
フォルクスワーゲンは、グループ企業であるトラックメーカー、スカニアのトレーラーを用いた展示スペースを用意するなど、インパクトのあるブースに仕上げてきた。展示の中心は「ゴルフ」の高性能モデルである「GTI」と「R」。これは今年より正規ディーラーでのカスタマイズパーツの取り扱いが開始されるからだ。このほかのインポーターとしては、ルノーが西ブースの中ほどにF1マシン「ルノーRS16」のショーカーをメインに据えたブースを出展。人気のルノースポールモデルである「メガーヌ ルノースポール」と「ルーテシア ルノースポール」そして昨年導入されたばかりの新型「トゥインゴ」を会場にそろえた。
カスタムカーの祭典ならではの展示を
今回、一日かけて全ホールを見学して感じたのは、SUVのカスタムの人気の高さだ。これは近年のSUV人気を受けてのことで、ベース車の多くはラグジュアリーな高級SUVであった。以前は高級車のカスタムの定番といえば、VIPカーと呼ばれる高級セダンであったが、そのニーズをラグジュアリーSUVが奪いつつある。この傾向はワゴンやワンボックスでも見られ、ミニバンも幅広い車種というより「トヨタ・アルファード/ヴェルファイア」の“一極集中”だ。なかにはヴェルファイアのストレッチリムジンなんて、ビックリするような仕様まであった。ワゴン系で見られたもうひとつの面白い動きは、「ハイエース」のハイリフト仕様が多かったこと。ようするにワンボックスのクロスオーバー化だ。ある出展者に尋ねると、ハイエースをもっと趣味に活用したいという顧客の声に応えたのだという。積載性に優れたハイエースに高い走破性が加われば、鬼に金棒といったところなのだろう。
一方で、先述のVIPセダンとともに、かつての花形だった走り屋系のスポーツカーも減少傾向にある。これは昨今の自動車人気の移り変わりを受けてのことだろうが、もうひとつには手ごろで良質なベース車の減少も影響していると考えられる。かつてチューニングの大定番だった国産スポーツカーは、流通量の減少に加え、中古車価格の高騰で高根の花となってしまったものも多い。展示車両の様変わりに、そんな切実な事情も垣間見えた気がした。
また、メーカーやインポーターの積極的な参加については、クルマの楽しみ方の間口を広げるという観点から歓迎できる反面、一部の出展者については展示内容にもう少し工夫が欲しいと感じられるようになったのも確かだ。カタログモデルの展示は、来場者に気軽に実車に触れる機会を与えてくれるものの、それはディーラーに出向けば実現できることだ。やはりカスタムカーの祭典ならではの方法でメーカー独自の個性を打ち出し、新しい提案を見せていく。それが、大小問わずさまざまなチューナーやショップが切磋琢磨(せっさたくま)する東京オートサロンという舞台にふさわしいやり方ではないだろうか。
(文=大音安弘/写真=webCG/編集=堀田剛資)
