第397回:レクサスが全国各地の若き匠のモノづくりをサポート
「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT」とは?
2017.01.28
エディターから一言
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モノづくりの若き「匠(たくみ)」を発掘・サポートする「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT(レクサス ニュー タクミ プロジェクト」がスタートして約1年。このプロジェクトの集大成となる制作発表イベントが、2017年1月18日に東京・日本橋で開催された。会場で出会った匠たちに、作品に込める思いを聞いた。
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地方創生も強く意識したプロジェクト
LEXUS NEW TAKUMI PROJECTとは何か? レクサスのホームページによれば、「レクサスが主催となり、日本の各地で活動する、地域の特色や技術を生かしながら、自由な発想で、新しいモノづくりに取り組む若き『匠』に対し、地域から日本全国へ、そして世界へ羽ばたくサポートをするプロジェクト」とある。
これだけ読むと、わかったような、わからないような気になるが、要は、まだ広く世に知られていない若手の職人・工芸家・デザイナーの才能を発掘し、彼らの新たなモノづくりが、ゆくゆくは世界レベルで戦えるようなプロダクトとして世に出るのを後押しするというもの。
匠として選出されるのは、各都道府県から約1名ずつ。選考基準には、地域独自の技術や風土を生かしたモノづくりをしているか、実際に商品化された場合に「生産」までが可能かどうかといったことなどが定義され、地方創生という目的も強く意識したプロジェクトであることがわかる。
スタートは2016年4月。その後、各都道府県代表の匠の選定、プロダクトの制作を経て、今回52人の匠が一堂に会し、プロダクトの発表とバイヤーとの商談を行う「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT プレゼンテーション」が開催された。
サポートメンバーとして参加したのは、プロデューサーの小山薫堂さん(以下 小山さん)をはじめ、建築家の隈研吾さんら全6人。彼らは制作現場に足を運び、直接アドバイスをするなど、匠のモノづくりを支えてきたという。今回は、各サポートメンバーがそれぞれ選出した「注目の匠」とプロダクトの紹介も壇上で行われた。
選出された5人の若き匠たちが制作したプロダクトは、和紙製の指輪や木製のキャリーバッグなど、素材も大きさもさまざまだ。
小山さんから「注目の匠」として選ばれたのは、徳島県代表の永原レキさん。藍染綿を巻き込んだサーフボードを抱え、ステージに上がると、「大好きなサーフィンや、地元の藍染を使ったモノづくりを通じて、自然を大切にする心を伝えていきたい」と述べ、今後の制作活動に意欲を燃やしていた。
最後に締めのスピーチを求められた小山さんは、「こんなこと、うまくいくのかな? と最初は半信半疑で引き受けました」と苦笑気味にマイクを握ると、「このプロジェクトの成功の鍵は、全国の新聞社を巻き込み、匠のモノづくりを勢いづかせたところにある。このようなシステムによって、作品のクオリティーも上がったのではないか」と分析。また、「作り上げたプロダクトが誰に出会うかが一番大事。ここに150人以上のバイヤーが集まり、新しい出会いがあったというのは非常に意味があったのではないか」と結び、このプロジェクトの今後にエールを送った。
クルマに対する思いを形に
サポートメンバーがそれぞれ選出した5人の匠以外に、記者が特に興味を持った2人を紹介したい。
まずは岩手県代表、浄法寺漆産業の松沢卓生さんだ。地元の漆産業を守っていきたいと、脱サラして起業。漆器のほか、現在はクルマのステアリングホイールを制作するなど、さまざまな漆製品のプロデュースに力を入れている。
松沢さんによれば、現在日本で使われている漆のうち、98%が中国産で、残りの2%が国産、そのうちの87%(重量にして821kg相当)を岩手県の浄法寺漆が占めているという。この説明だけでも国産漆の貴重さが伝わってくるが、種から15年間かけて育てた1本の木から採れる漆は約200gであること、カンナで木の幹に傷をつけ、染み出る樹液をヘラでかき取る漆掻き職人は二十数人であると聞けば、あらためてその希少性の高さに思いが及ぶ。
「漆は紫外線には弱いですが、今は、紫外線カットガラスも普及しているので、内装に使われる可能性も今後でてくるのではと期待しています。漆製品は触れたときの質感がいいので、ステアリングのほかシフトノブやキーケースなども考えられますね。色漆や蒔絵(まきえ)という技法を使うことによって、派手なものもできるんですよ」、と松沢さんがiPhone越しに見せてくれたのが、伊藤若冲の絵画をまとわせた漆塗りステアリング画像。クラウドファンディングで資金を募り、現在制作中だという。このほかにも、伝統柄をあしらったステアリングも制作・販売している。
「ぜひコラボレーションを! といった話もいただいているんですよ」と松沢さん。このプロジェクトを通じ、全国の匠たちとのネットワークができたことも大きな収穫だったようだ。
鹿児島県代表で、薩摩ボタン絵付師の室田志保さんは、エンジンスタートスイッチ用の薩摩ボタンを発表、実用化に向け提案している。
薩摩ボタンとは、江戸末期からある鹿児島の伝統工芸品「白薩摩」に、薩摩焼の技法を駆使し、ミリ単位の絵付けを施したもの。もともとは海外向けに作られた陶製のボタンで、洋服のボタンやアクセサリー等に加工して楽しむのが一般的だった。現代でもボタンコレクターの間では人気が高く、毎年8月にアメリカで開催される「ナショナル・ボタン・ソサエティー(NBS)」では、高く評価されているという。
「エンジンの起動動作として喜びを覚えるようなアイテムがあればと、この企画を思いつきました。絵柄は伝統的なものから、現代的なモチーフ、例えば“スカル”など、ジャンルは問いません。自分だけのスタートスイッチを愛車につけてもらって、クルマを使う喜びを感じてもらえればうれしいですね」と室田さん。
ボタン1つあたりの想定価格は2万~3万円。絵付けはすべて手作業のため、室田さんが1カ月に制作できる個数は約30個と限りはあるが、耐久性などの条件をクリアできたうえでオリジナルのものが手に入るなら、ぜひとも手に入れてみたいと思うユーザーは少なくないのではないか。
松沢さんや室田さんのプロダクトは、日本の伝統技術とクルマが出合うことで、また新たな価値が生まれるかもしれない、という期待感をグンと膨らませてくれる。
クルマの未来は、もっともっと面白い。
(文と写真=スーザン史子)
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大久保 史子
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