第399回:新型SUV「ウルス」でランボルギーニはどう変わる?
ドメニカリ体制の今後を占う
2017.03.14
エディターから一言
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かつてフェラーリF1チームの代表を務めたステファノ・ドメニカリが、ランボルギーニの社長兼最高経営責任者(CEO)に就任したのは2016年3月のこと。以来、「アヴェンタドール」が世代交代を果たして「アヴェンタドールS」に進化し、同時に車名の命名方法が変更されるなど、徐々に新体制の「作法」が見えてきた。新型SUV「ウルス」を2018年に発表して、年間生産台数の倍増をもくろむ同社の戦略は万全か? ドメニカリ体制の今後を占ってみよう。
5年間で6000台も生産されたアヴェンタドール
驚異の人気というべきだろう。ランボルギーニは、V12自然吸気ミドシップというリアルスーパーカーにしてフラッグシップのアヴェンタドールを、2011年にデビューさせて以来、5年間ですでに6000台以上世に送り出した。
これがいかにずぬけた数字であるかは、「カウンタック」約2000台(15年間)、「ディアブロ」約2900台(10年間)、「ムルシエラゴ」約4000台(10年間)という過去のフラッグシップモデルの生産台数を見ればよく分かる。
ランボルギーニのフラッグシップのモデルチェンジサイクルは10年といわれてきたから、アヴェンタドールは何とその半分の期間で、ムルシエラゴの1.5倍も売れてしまった。
ちなみに、日本におけるアヴェンタドールの売れ行きもすさまじい。2016年、日本市場に正規輸入されたランボルギーニは、アヴェンタドールと「ウラカン」を合わせて359台で、史上最高。この数字は全生産台数の1割強にあたる。しかも、その内訳が、アヴェンタドール166台というから驚くほかない。ランボルギーニ全体ではアヴェンタドール1に対してウラカン2だが、日本は4対5である。日本人のマインドセットが、いまなおシザードアのV12気筒ミドシップ、つまりカウンタックに良い意味で縛られている結果でもあった。
スーパーカーの希少性をどう保つのか?
アヴェンタドールはスーパーカー界のベストセラーカーである。けれども、素直に喜んでばかりはいられない。なぜなら、この手のスーパースポーツには“希少性”も要求される。フェラーリのフロントエンジン12気筒2シーターよりも売れていることの意味は、そう単純なものではないからだ。
この件について、昨年ステファン・ヴィンケルマンの跡を継ぎCEOとなったステファノ・ドメニカリに直接聞いてみたところ、彼もやはり、多くなり過ぎてはいけないことを理解していた。
公式には、新型アヴェンタドールSの登場が“モデルライフの中間点”とはなっているものの、新CEOとさらに突っ込んで会話をした印象からいうと、少なくとも、「あと5年で合計1万2000台」という単純計算ではなさそうだ。
想像するに、今後登場する予定の「ロードスター」や「スーパーヴェローチェ(SV)」後継となる限定車を入れてもアヴェンタドール全体で1万台以下、できれば9000台前後にしたいのではないか。そうすると、アヴェンタドールのモデルライフは早くてあと3年、モデル末期に需要が落ちることもあるだろうから、長くて4年。つまり、2020年か21年がそのXイヤーとなる。
そして2018年にはいよいよスーパーSUV「ウルス」の生産型(ポルシェからやってきた新チーフデザイナーのミッチャ・ボルカートによると、シルエットは不変ながら、ディテールデザインはけっこう変わるらしい)がデビューする。19年にはフル生産が始まって、ランボルギーニ全体の当面の目標である年産7000台をクリアした後に、ボルカートが一から線を引いた次世代フラッグシップのスーパースポーツが華々しくデビュー、というシナリオはいかがだろう? ドメニカリCEOいわく、「市場デマンドに応じてモデルライフやコンセプトを決めていきたい」とのことだ。
いずれにせよ、アヴェンタドールSの未来における評価は、そのSV並みに高い性能と相まって、前期モデルのアヴェンタドールを大きく上回ってくるに違いない。
ウルスをフレキシブルに供給する
ウルス登場後の7000台という目標数字は、スポーツカー系の現状3500台をキープして、という意味だ。つまり、倍増=3500台増は、ウルスが担うことになる。これもまた、ブランドのエクスクルーシビティー(排他性)を担保するための戦略である。
これを達成するために、ランボルギーニでは現在、新工場を本社裏に建設中である。この工場は、ドイツが推し進めている“インダストリー4.0”(IoTをフル活用した新生産システムで、第4次産業革命といわれている)を採り入れた、イタリアで初めての製造工場になるという。要するに、その生産能力のフレキシビリティーさにおいて、際立ったものになるということ。
逆にいうと、スポーツカー系の生産を3500台、もしくはそれ以下に保つ反面、ウルスの供給は非常にフレキシブルになるというわけだ。もちろん、市場デマンドにもよるが、第1弾のV8ツインターボエンジン搭載車の後、追加グレードのハイブリッドモデルが出るに及んで、現在ランボルギーニの需要が落ち込む中国市場をはじめ、最大のマーケットであるアメリカなど、旺盛なデマンドが発生するであろうことは容易に想像がつく。その際、納車待ちを許容するスポーツカー系とは違って、SUVのウルスを、注文が入ったら入ったぶん、どんどん生産しようとするだろう。ポルシェの成功例を見るまでもなく。
チームワークが大切
ウルスの生産が無事に立ち上がるまでに、会社の規模を2倍にしなければならない。マネジメントも組織も、大変革が迫られている。このあたり、新しいCEOは、まずはうまく取り組んでいるようだ。
ボローニャ出身の彼にとって、ランボルギーニで働くことの“誇り”と“情熱”を従業員に説いてまわることは、そう難しいことではない。そして、実際、彼はできるだけ多くの部署を毎日回って、日々の仕事以上に大事な“矜持(きょうじ)”について、社員ひとりひとりに語りかけているのだという。
そして、かつてフェラーリのF1チームを率いていた経験から、小さな組織も、そして大きな組織であっても、チームワークが最も大事であることを、ドメニカリCEOは理解している。トップダウンだけではいけない。かといって、ボトムアップばかりに頼ってもいけない。適材適所に人物を配した効率的な組織を作っていく一方で、とはいえ、さほど大きな会社ではないのだから、イタリアの企業らしくファミリーでフレンドリーな雰囲気を醸造していきたい、と言った。
確かに、会社もスタッフも、彼がやってきてから雰囲気ががらりと変わった。ドメニカリCEOの個性が吉と出るか凶と出るかは、まだ分からない。とはいえ、いちファンとしては、「サンターガタは君の第2の故郷だ」とみんなが筆者に言ってくれる今の雰囲気がとても心地いい。必ず、成功してほしいと思う。
(文=西川 淳/写真=アウトモビリ・ランボルギーニ/編集=竹下元太郎)

西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。