アウディTT RSクーペ(4WD/7AT)
等身大のスーパースポーツ 2017.04.10 試乗記 400psの2.5リッター直5ターボユニットを搭載する新型「アウディTT RS」。0-100km/h加速をわずか3.7秒で駆け抜ける“等身大のスーパースポーツ”の実力をドイツで試した。TTはもはや欠かせぬ存在
どこの誰にも似ていない――まさにそんなフレーズで紹介するのがふさわしいアウディTTが、初めてその姿を現したのは1995年のフランクフルトモーターショー。
正確には、その舞台に展示されたのはいわゆる参考出品扱いのデザインスタディーであった。けれども、うれしいことにそのルックスは、ほぼ完全なカタチで市販バージョンへ再現されることになった。
こうして、まさに「ショーモデルが、そのまま公道へと現れた」と表現するに等しい仕上がりだっただけに、1998年に初代TTクーペが世に送り出された際のインパクトは大きかったものだ。
幸運にもその国際試乗会へと招かれ、“走り”の実力も期待通りだったのを確認の上で、エクステリアカラーやインテリアの仕様をその場で決定。“旬”のクルマでもあるだけに、早く日本に戻って購入契約書にサインをしないと!! ……と勢い込んではみたものの、「日本仕様は左ハンのみ」と聞かされて泣く泣く諦めた、という過去の経緯は、かつて本サイトの試乗記でも述べたような気がする。
あれから間もなく20年。そんな時の流れの中で、今や数あるアウディラインナップの中にあっても、なくてはならないアイコン的存在にまで成長を遂げたのが、このTTというモデル。
もちろん、アウディのイメージリーダー筆頭候補は「R8」。けれども、“スーパーカー”の範疇(はんちゅう)に入るR8では、価格も性能も「現実離れしている」と感じる人は少なくないはず。
一方のTTは、スターティングプライスが469万円と、はるかに身の丈感が強い。ラインナップを代表するスポーツモデルという実利面でも、ブランド広告塔という役割としてのマーケティング面でも、今やアウディにとって欠かせないシリーズなのだ。
アウディきってのピュアスポーツカー
現在で3代となる歴代モデルすべてが身に着けた、個性豊かなスタイリング。それに対して、TTをピュアなスポーツカーと認定しようという際に個人的にどうしても気になったのは、採用メカニズムが“乗用車”からの譲りもの、という点であったのは事実だ。
具体的には、ボディー骨格を筆頭としたメカニカルコンポーネンツの“出典”は、「A3」シリーズというのがTTの出発点。前述した初代モデルの国際試乗会の折に、「若者のためのカジュアルで安価なクーペが企画当初の狙いだった」と聞いていたから、そんな内容も当然といえば当然であったのだ。
けれども、「ボクスター/ケイマン」なども直接のライバルと想定すると、見た目に加えてより高い運動性能や「スポーツカーとして専用のメカニズムを採用する」といった記号性の強化も重要となる。
かくして、2代目のモデルライフ途中で戦列に加えられたのが、最強バージョンであるTT RSというわけだ。
現在では「アウディスポーツ」と名を変えた当時のクワトロ社が開発・生産を手がけたこのモデルで最も大きな注目を浴びたのは、その起源を1976年にまでさかのぼることができる直列5気筒という稀有(けう)なデザインのエンジン。ターボチャージングが行われた2.5リッターユニットは最高で340psを発生。4WDシャシーとの組み合わせという有利さも生かし、6段MTとの組み合わせで4.6秒という0-100km/h加速タイムをマークした。
すなわち、こと動力性能面に関しては、この時点で誰にも文句を言わせない実力を備えることに。こうして、初代TT RSには「R8と並ぶ、アウディきってのピュアスポーツカー」というタイトルが与えられたわけだ。
“好戦的”なディテール
ここにお伝えするのは、2015年に登場した現行TTシリーズをベースとした、TT RSとしては2代目のモデル。日本でも、この3月末からクーペとロードスター双方の受注が開始されているが、5月に予定される国内デリバリーに先駆けて、本国ドイツ本社からクーペを借り出してのテストドライブを行った。
ハニカムメッシュを採用した大開口グリルが目立つフロントマスクや、ウイングタイプのリアスポイラー、さらには今回のテスト車が標準比で1インチ増しの20インチという大径シューズを履いていたことなどから、それがシリーズ内でも特にスポーティーなキャラクターの持ち主であることは一目瞭然。
ドライバー正面の“バーチャルコックピット”内に地図などの表示機能を持たせ、センターディスプレイを廃してスッキリとしたダッシュボードまわりや、吹き出し口中央にスイッチを置いて直感的な操作が可能な空調システムなどは、既存のグレードから受け継いだ現行TTシリーズならではの特徴だ。
その上でインテリアでも、シートバックに「RS」の文字が刻まれた彫りの深い専用シートや、ステアリングホイールに移植をされた真っ赤なエンジンスタートボタンなどがスポーティーな雰囲気を盛り上げる。
ちなみに、ドライブモードを一括変更させるTT RSで初採用の“ドライブセレクト”のスイッチも、ステアリングホイールのスポーク脇にレイアウト。その操作時には必ず視線を大きく落とす必要に迫られるアウディ他モデルに対して、こちらはブラインド操作が可能であるため、安全性にも寄与していることも発見だった。
アウトバーンの弾丸
最新RS 3に搭載されるユニットと同様、従来型と同排気量ながらクランクケースのアルミ化や直噴とポート噴射を併用するデュアル・インジェクションシステム、大容量ターボチャージャーなどの採用によって、軽量化を図りつつ全面的に刷新された2.5リッターの直列5気筒エンジンが発する最高出力は400ps。
これにローンチコントロール機能付き7段DCTを組み合わせ、RS 3よりも軽い約1.5tというボディーを4輪で駆動するのだから、発進加速が遅いはずはない。
実際、発表された0-100km/h加速タイムはわずかに3.7秒と、それはまさに“スーパーカー”級。重量がかさむ「ロードスター」でも、3.9秒と「4秒切り」の実力をアピールする。
実際、そんな加速力のすさまじさは、制限速度が100km/hというドイツの郊外道路や、アウトバーンで何度も思い知らされることに。3800rpmを超えると明確に耳に届く、ちょっとばかり不協和音的な5気筒エンジンならではのサウンドも、そんな加速シーンを盛り上げる“小道具”として、申し分のない存在だ。
コーナー出口での脱兎(だっと)のごとき俊敏さに加えて、「ワインディングロードをちょっと飛ばす」という程度では決して破綻をきたさない、オン・ザ・レール感覚にあふれたハンドリング感覚も特徴的。
ただし、エンジントルク配分をより後輪側に振り分ける、と説明される“ダイナミック”モードを選択しても、感覚的にはやはりフロントヘビー感が完全に解消されるまでには至らない。
アクセル操作による荷重や姿勢の変化の感覚を、積極的に味わいたい……という向きには、このあたりにまだ、後輪駆動モデルの優位さが残るように思える。
ところで、そんなTT RSの乗り味はなかなかにハード。“その気”で飛ばすシーンでは、それもまた説得力を持つものではある反面、長時間のクルージングでは「ちょっと硬過ぎる」と、そんな意見も現れそうなレベルではある。
ちなみに、そんな乗り味は今回のテスト車にオプション装着(日本仕様は標準で採用)されていた電子制御式の可変減衰力ダンパー“マグネティックライド”で「コンフォート」のモードを選択しても、しなやかさを大きく増すまでには至らなかった。そこには“RSスポーツサスペンションプラス”という特別な名称が与えられていることからも想像できるように、通常のアウディ車のように快適性をアップさせるというよりも、むしろサーキット走行などでより効果を発揮するデバイス、と解釈をすべきかもしれない。
(文=河村康彦/写真=アウディ/編集=竹下元太郎)
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テスト車のデータ
アウディTT RSクーペ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4190×1830×1370mm
ホイールベース:2505mm
車重:1440kg(日本国内認証値:1490kg)
駆動方式:4WD
エンジン:2.5リッター直5 DOHC 20バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:400ps(294kW)/5850-7000rpm
最大トルク:480Nm(48.9kgm)/1700-5850rpm
タイヤ:(前)255/30R20/(後)255/30R20(コンチネンタル・コンチウインターコンタクトTS830P)
燃費:8.4-8.2リッター/100km(約11.9-12.2km/リッター 欧州複合モード)
価格:962万円*/テスト車=--円
オプション装備:--
*=日本国内での車両本体価格。
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。