アウディTT RS クーペ(4WD/6MT)【試乗記】
看板に偽りなし 2010.03.05 試乗記 アウディTT RS クーペ(4WD/6MT)……890万5800円
「アウディTT」シリーズに、最もパワフルな「TT RS クーペ」が登場。新型の5気筒エンジンがもたらす走りや、いかに?
血統書付きのTT
「アウディTT RSクーペ」は、単に「TT」の高性能モデルというに留まらず、アウディの輝かしいモータースポーツの歴史を飾る「アウディ・クワトロ」の再来とも言うべき高度な内容を備えるクルマである。
当時のクワトロは、エンジンや4WDシステムなど、スペックだけ見れば現代ではそう珍しくもないかもしれないが、当時のラリー界では向かうところ敵無しで、連戦連勝を欲しいままにした。
2.1リッターのエンジンで、出力は200ps。のちのグループB仕様の「スポーツクワトロ」でも(市販モデルで)306psだったから、数字だけみると、「なぁんだ、大したことないじゃないか」と思われるかもしれない。当時の技術ではパワーカーブはピーキーなものとなり、いわゆる“ドッカンターボ”といわれるように、低回転ではトルクが無くて、ある回転域からいきなり盛り上がったものだった。
それにフルタイム4WDも、センターデフのロックはプルスイッチでオン/オフするタイプだったし、強大な四駆のトラクションは主にコーナー脱出時の加速用と考えられ、四駆を過信してコーナーに突っ込めば、たちまち強烈なアンダーステアに見舞われた。
一度スロットルを戻すと過給圧が落ちるし、大きなターボは立ち上がりが遅いから、ドライバーのとる道は、スロットルを踏んだまま左足でブレーキングを加え、ハンドル操作は一度反対側に切ってから本来の方向へ切る、いわゆるフェイントをかけて、ヨー慣性を利用して振り回し、一度オーバーステアの形をつくり出してから、トラクションでアンダーステアにして姿勢を立て直す、というようなものだった。
こうなると両手両足は忙しく、ギアチェンジが辛くなる。かような次第で、DSGのような、パワーフローが途切れないギアボックスが開発されたのかも知れない。
新しい心臓がキモ
ひるがえって現代の「TT RS」は、すべての面で洗練されており、運転は容易だ。まずエンジンは、アウディが好んで使ってきた81mmボアではなく、大きいエンジンに使われている82.5mmを使い、排気量を2.5リッターにアップして340psを搾り出す。
1600rpmの低回転から5300rpmまで、広い範囲で45.9kgmという強大なトルクを発生するのも特徴だ。
昔と一番大きく違うのはエンジンの搭載方法が縦置きから横置きになっていることだ。前軸より大きくオーバーハングする5気筒は、それだけでも強いアンダーステアの要因だった。今度は横置きすることで接地荷重を確保したまま慣性モーメントを小さくしている。
こだわりの5気筒は、スムーズさだけをとるならば6気筒より不利だが、極微少の振動が、一種のトラクションコントロール的に駆動力を有効に路面に伝える。その振動とて、様々な現代技術のおかげで、昔のようなビリビリしたところはない。
4WDのシステムはソリッドな歯車どうしの噛み合わせから、油圧多板クラッチと電子制御の組み合わせとなり、最初から油圧がかけられたフルタイム4WDである。昔のハルデックス・カプリングは、前輪の空転によってつくられる油圧を使っていたから、ステア特性としてはアンダーステアになった時に、さらに後ろから駆動力が追い打ちをかける形になり、アンダーステアが増すだけで、ステア特性の改善には貢献しなかった。この辺は最近ではヨーコントロールの考え方が浸透しているから、後輪のトラクションを必要としなければクラッチは断たれるのだろう。短時間の試乗ではそこまで確認できていないが。
ある意味オールラウンダー
こうした“面白いメカの塊”のようなクルマは、いろいろな路面状況が用意されていないと、その本当の実力を知ることはできない。が、片鱗を垣間見ることはできる。
まず発進時の身軽さからして素晴らしい。そのレスポンスはスーパースポーツの「R8」よりいいほどで、後ろから押されるというより、まずはフロントがスッと出ていく感じの鮮烈な印象。アルミを多用したボディは軽く、「R8」の1630kgに対して1500kgしかない。FFベースだから前の方が重いとはいえ、4WDのシステムが後軸付近にあることから尻軽な感触もない。実際の前後重量配分は60:40となっている。また、縦長な印象の「R8」に比べ、「TT RS」は横に広く、旋回中心が前寄りにあるためニュートラルステア感覚は強い。
とにかく広いトレッドを利して、グイッと軽く旋回体勢に入る感覚は、昔のクワトロからすれば信じられない軽快さである。
6段MTのギア比は、1速と2速の間は少し離れているが2、3、4速とクロースして、5速が少し離れてまた6速が接近するという、ドイツ流の設定だ。いずれにせよ日本の公道上の速度では6500rpmまで目一杯回すチャンスはないだろうが、回転幅を制限して中間の2、3、4速の小まめなシフトを駆使すれば、大いにドライビングを楽しめる。いっぽう、60km/hも出ていれば、5、6速の高いギアに入っていても、そのまま普通に走れてしまう柔軟性をもつ。この辺は、最近の電子制御技術の恩恵でもある。
スポーツシートの座り心地やホールド性の良さは、アウディ実用車からして最良の部類に入るもので、文句無しにいい。クーペのボディはハッチバック車的な実用性も多少はあるから、長距離ツアラーとしても最適だ。
とはいえ、「TT RS」の高性能車ぶりは生半可なスーパースポーツ以上。テールに付けられた“RS”の文字は伊達ではないから、あなたがもしポルシェに乗っていて、たとえ腕に自信があったとしても、深追いは禁物である。
(文=笹目二朗/写真=高橋信宏)

笹目 二朗
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