MINIクーパーSD クロスオーバーALL4(4WD/8AT)
正常進化の鑑 2017.04.11 試乗記 6年ぶりにフルモデルチェンジした、MINIブランドのSUV「MINIクロスオーバー」に試乗。ひとまわり大きくなった2代目の走りや乗り心地、燃費性能を、ディーゼルのトップモデル「クーパーSD ALL4」でチェックした。ステータス性をまとうMINI
MINIクロスオーバーがモデルチェンジした。2010年にデビューして以来の2代目だ。本名は「カントリーマン」だが、商標権の関係で、日本でのみクロスオーバーを名乗るのは、今度も同じ。クロスオーバーは、カントリーマンのコンセプトカー時代のモデル名からとっている。
クロスオーバーは、MINIファミリーのなかでも一番ビッグなモデルだったが、新しいプラットフォーム(車台)で構築される2代目はさらに大きくなった。全長(4315mm)は+20cm、全幅(1820mm)は+3cm、全高(1595mm)は+5cm。タワーパーキングでは門前払いを食うMINIである。
本国のカントリーマンはガソリン1.5リッター3気筒から始まるが、日本のクロスオーバーは“クリーンディーゼル推し”だ。新たにプラグインハイブリッド(納車は今秋以降)が加わったが、それ以外の品ぞろえは2リッターディーゼルのみである。
価格は、ベーシックグレードの「クーパーD」でも、386万円。今回試乗した最上級モデル、クーパーSD ALL4は、483万円。オプション満載の試乗車は580万円を超す。一番大きいだけでなく、最もプレミアムなMINI、というか、もはやMINIのステータスといえるのがクロスオーバーである。
体格の割にスポーティー
試乗した結論を先に書くと、新型クロスオーバーは、絵に描いたような正常進化型である。旧型のキャラクターはそのままに、改良と洗練を加えている。その意味で、大きなサプライズはないが、これまでのクロスオーバーオーナーの期待を裏切ることはないだろう。ベンチマークは先代モデルのみ、と感じさせる迷いのなさは大したものだと思う。
スペックどおり、たしかにまたデッカくなった。走りだすと、動的な量感は3リッター級のミニバン並みである。
ステアリングの操舵力から、シフトパドルのタッチに至るまで、操作力は全般に重いし、硬い。そのせいもあって、分厚く硬い革のカバンみたいなドライブフィールは相変わらずだが、ただ、ボディーの“揺れ方”がちょっと変わった。クーパーSDだから、「BMW 2シリーズ アクティブツアラー/グランツアラー」と同じサスペンションは最もスポーティーにチューンされているはずだが、ドテッとアンコ型だった旧型よりアシがしなやかに動くようになった。
クーパーSD ALL4の車重は1630kg。車検証の前後軸重は、前:950kg/後ろ:680kg。「スズキ・スイフト」が1台、フロントに乗っているようなものだが、それでもワインディングロードへ行けば、そこそこスポーティーに走れる。そこはやはりミニバンとは違う。
ドライブモードはデフォルトがMIDで、ほかにGREENとSPORTが選べる。山道ではSPORTを試したが、ハンドルが重くなり過ぎてMIDに戻した。最近のドイツ車は運転操作の手応え足応えを軽くして、それを商品性の向上につなげている。しかし、MINIはそのトレンドにまったく乗っていない。いつまでこのヘビーデューティー路線を続けるのか、興味深い。
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さすがは“S”の力強さ
2リッター4気筒ディーゼルターボは、モジュラーユニットの新世代クリーンディーゼルである。クーパーSD クロスオーバーALL4には、現行「クーパーSD クラブマン」初出の190psユニットが載る。最大トルクは40.8kgmもある。クラブマンより車重は140kg重いが、その差を一笑に付すほど地力に勝るエンジンである。
8段ATで引っ張ると、最高4900rpmまで回る。しかしそんなにがんばる必要はない。アクセルひと踏みで、グワッとスピードを上げる力強さはディーゼルターボならではだ。発進も、0-400mというより、0-40mが素早い。スタートダッシュは、このガタイを忘れさせる。ディーゼルとはいえ、クーパー“S”なのだから、当然か。
アイドリングしていると、車外で聞く音は、やはりディーゼルだ。ただ、乗り込んでしまえば、まったく気にならない。4000rpm以上だと再びディーゼルっぽくなるが、100km/hは、8速トップで1500rpm。全体に先代クロスオーバーディーゼルの8掛けで静かになった。
2011年に初代クロスオーバーが発売されたとき、最大の売りは、「MINIの5ドアであること」だった。だが、いまはフツーのMINIにも5ドアがあり、ステーションワゴンのクラブマンもフル5ドアである。そのなかで、今度のクロスオーバーが旗幟(きし)鮮明にしたのはオフローダーとしてのキャラクターである。
それを表す装備が「カントリータイマー」で、オフロード走行を感知して、その時間を積算している。「コンバーチブル」の「オールウェイズ・オープンタイマー」と同趣向のものだが、カントリータイマーは、センターディスプレイのなかで、クルマの外観もどんどんオフロードカーに育ててゆく。たまごっちか。
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逆境に強いクルマ
ホイールベースを初代よりも約8cm延長した5ドアボディーは、後席空間の伸びシロが大きい。ただ、リアシートクッション前端の直下でフロアがキックアップしているため、座ると、そこにカカトが当たって、足もとが落ち着かない。膝まわりも頭上もたっぷりしているだけに、残念だ。
細かく変わってはいるのだろうが、ダッシュボードもおおまかにはキャリーオーバーで、最初に走りだしたときも、迷うことはなかった。
旧型に引き続いて気になったのは、真正面の丸いスピードメーターに、自分の顔が映り込むこと。その右側にある燃料計も換えてもらいたかった。燃料が減っていくリアリティーが持てない。デザインに溺れ過ぎだと思う。
試乗した一日は、天気の悪い、寒い日だった。早朝、エンジンをかけてスタートすると、程なくエアコン吹き出し口から温風が出た。メルセデス並みの素早さだ。
高速道路に乗ると、強い雨が降ってきた。でも、クロスオーバーはそういう逆境に強い。激しい雨のなかでも、たくましくて、たのもしい。レインシューズと呼びたくなるようなかるさは、まったくない。“プレミアム長靴”みたいなクルマだと思った。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=峰 昌宏/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
MINIクーパーSD クロスオーバーALL4
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4315×1820×1595mm
ホイールベース:2670mm
車重:1630kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼルターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:190ps(140kW)/4000rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/1750-2500rpm
タイヤ:(前)225/50R18 99W/(後)225/50R18 99W(ピレリPゼロ)
燃費:20.8km/リッター(JC08モード)
価格:483万円/テスト車=581万8000円
オプション装備:ダイナミックダンパーコントロール(7万7000円)/MINI ALL4エクステリアスタイリング(5万3000円)/リアスポイラー(2万6000円)/ブラックボンネットストライプ(2万円)/パーキングアシストパッケージ(5万4000円)/harman/kardon製HiFiラウドスピーカーシステム(12万3000円)/MINI Yoursインテリアスタイル ピアノブラックイルミネーテッド(5万円)/レザー クロスパンチ カーボンブラック<スポーツシート+電動フロントシート[運転席メモリー機能付き]>(35万1000円)/PEPPERパッケージ<PDCリア+リアビューカメラ+オートマチックテールゲート[イージーオープナー機能付き]+アラームシステム>(16万8000円)/18インチアロイホイール ピンスポーク ブラック(1万3000円)/John Cooper Worksレザーステアリングホイール(3万7000円)/ピクニックベンチ(1万6000円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:3189km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:251.8km
使用燃料:22.4リッター(軽油)
参考燃費:11.2km/リッター(満タン法)/12.6km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。