第404回:「MITテクノロジーレビュー×レクサス ビジョナリー カンファレンス」に参加
AIと人間が共栄する未来について考えた
2017.04.20
エディターから一言
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レクサスが未来の社会やライフスタイルの形を見据えるビジョナリーパーソンとともに、人間の力を拡張するテクノロジーとの共栄社会を考えるイベント、「MITテクノロジーレビュー×レクサス Visionary Conference ~AI/ロボティクスは人を幸せにするのか~」が2017年3月6日、文京区本郷にある東京大学で開催された。学者、作家、アーティスト、起業家たちが集い、白熱した議論が繰り広げられた会場の様子をリポートする。
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“わからない”から広がる不安
映画『her/世界でひとつの彼女』は、世界初の人工知能OS“サマンサ”に恋する、ひとりの男の恋愛を描いた作品だ。サマンサに肉体はなく、PCから聞こえてくるのは声だけ。AI(人工知能)と人間との境界がなくなっていく世界で、私たちがAIとどのように向き合っていったらいいかを考えさせられる。
筆者の感覚では、AIがどんなものなのか、よくわからないというのが正直なところだ。人間が絶滅したあとに繁栄するのがAIだという推論や、アメリカでは仕事の47%がAIによってなくなるという予測を耳にすれば、ただただ不安に駆られ、戸惑うばかり。“わからない”から余計に不安だけが広がっていく。同じように感じている人は多いのではないか。
そんななか、レクサスがあるイベントを開催するという。タイトルは「LEXUSがビジョナリーパーソンと共に、人間の力を拡張するテクノロジーとの共栄社会を考える『MITテクノロジーレビュー×レクサス Visionary Conference ~AI/ロボティクスは人を幸せにするのか~』」。
一読しただけで少々気後れするようなタイトルだが、それもそのはず、開催地は本郷にある東京大学。人生初の赤門くぐりに興奮冷めやらぬまま、すでに満席状態の会場に滑り込んだ。
“人間の拡張”はどこまで進むのか
3時間にわたって行われたイベントは、休憩を挟んでの2部構成になっていた。
第1部は、東京大学情報学環教授の暦本純一さんの研究紹介のあと、芥川賞作家の平野啓一郎さんを迎えて、対談が行われた。
暦本教授は、人間拡張(ヒューマンオーグメンテーション)やIoA(インターネット・オブ・アビリティーズ)を提唱、発明家としての顔も持つ。
映像とともに紹介された教授の研究は、理系脳を持ちあわせない筆者には、まるでSF映画をみているように映った。人工知能を組み込んだドローンで、あたかも自分が空を飛んでいるような体験ができる「フライング・ヘッド」や、iPadをお面のように使い、別の人間として他人との会話ができるようにした「カメレオン・マスク」、笑顔センサーを搭載し、顔の表情を読み取ることで開く冷蔵庫など、普段の生活のなかでは出会えないような斬新な発想に驚かされた。
また、私以外の参加者にとっては共通言語なのかもしれないが、SF小説のなかで登場する「ジャックイン(JackIn)」など、さまざまな専門用語を耳にすることで、まるで宇宙人の会議に紛れ込んでしまったような気分になった。ちなみに、「ジャックイン」とは、コンピューターのなかに人間の感覚がつながることを指している。
暦本さんの研究発表のあとは、作家の平野啓一郎さんが登壇。
平野さんは、近未来小説『ドーン』や『私とは何か』を通じて“分人主義(dividualism)”を唱え、個人とは、分割できない「個人」ではなく、多くの分割できる「分人」の集合によって規定される、と考えている作家だ。筆者も分人主義に共感したひとりで、自分というものの多面性を一言で片づけられないもどかしさを、分人主義をもって解釈することで、ふに落ちた経験を持つ。作家という立場から人間の能力の拡張や近未来への展望を読み解こうとしている平野さんが一体どんな話をするのか興味があった。
「人間の力を拡張するテクノロジーとの共栄社会に向けて」と題し始まった科学者と作家との対談は、一見異色の組み合わせのようにも思えたが、非常にかみ合い、話題は多岐にわたった。例えば、2001年にロボットを使って、国をまたいでの遠隔手術が成功したことを皮切りに、人間と機械が協調して操縦を行う飛行機のコックピットデザインはどうなっていくのか? もしも人間自体が自動化されたら生活はどう変わるのか? 人間が他人になりすますとどういった心情の変化が起こるのか? など。
平野さんが加わることで、実社会での“人間の拡張”についての理解がさらに深まったように感じた。
AIと人間、その違いとは何か
そして話題は、人間の身体の存在意義へと移っていく。
「機械と人間とが共存していく未来において、人間の身体は今後もあり続けることが前提としてあるのか」と問いかける平野さんに、暦本さんは、延々と一定のパターンでビートを刻み続ける、ミニマルミュージックのライブでの体験を紹介した。
そこでは、メトロノームのように寸分たがわぬビートを刻み続けるという作業を、ロボットがやったところで感動はしないが、それを人間が行うのを見ることで、人は心を打たれるのだという。そして、こう続けた。
「ライブがいいと思えるのは、人間の頑張ってる感じがいいと感じられるからだと思うんです。ミスタッチするんじゃないかという緊張感が伝わるのがよくて。音響だけで再現してもきっと感じられないものがあるんです」。
それを受けて、平野さんが画家、ピエト・モンドリアンの創作工程を引き合いに出す。なるほど、あれは手作業で行ったのか、と思うと、ふと伊藤若冲の絵が思い浮かんだ。ひとつひとつのマス目に色を落としたデジタル的な画法。数メートルはあるかと思われる大作が、わずかミリ単位の細かい手作業で成り立っているという現実を目のあたりにしたとき、人はその途方にくれるような時間と作業の細かさに敬意を払い、感動するのかもしれない。
さらに今回はレクサスが共催していることもあり、クルマの自動運転技術についても話題に上った。クルマ好きにとっては、とかく悲観的な論調にまとまりがちだが、平野さんの見解は違った。
「クルマの運転が面白いと感じる人がいるのなら、運転することを排除するのではなく、その人の事故率だけは下げるようなシステムを一緒につくっていく形でテクノロジー化していくと、悲観的な結果にはならないのではないか」(要約)と結び、AIとクルマとの関係に、明るい未来を予感させた。
さまざまな角度からAIとの未来を語る
第2部は、レクサスの新型「LC」や「LS」に使われている技術が最終的に人(TAKUMI)の技術によって支えられていることを紹介した、レクサスインターナショナル プロジェクトゼネラルマネージャーの沖野和雄さんをはじめ、アーティストや起業家の立場から、AI研究を続ける登壇者3人とのディスカッションが行われた。
なかでも、もっともストレートに胸に響いてきたのは、COROという協働ロボットの開発に取り組んでいるユン・ウグンさんの発言だ。
ユンさんは、今後、急速に人口が減少していく日本で人手不足を解消していくためには、ロボットとの協働が欠かせないと考えている。
「AIやロボットを怖いと思う人もいますが、それは“わからない”ということが大きな原因です。しょせん、技術。どういうものを作っていくのかは僕たち次第ですが、善人が真っ先に主導権を握ること、それが一番重要です。今、ロボットの9割は軍事目的に使われていますが、技術は人を幸せにするもの。僕たちはそこに力を入れていきたい」(要約)と述べ、子どもたちにいい日本を残すことが自分の仕事であると胸を張った。
第1部の対談で、「理系の人と話していると、未来のことを生き生きと語ってくれる」と平野さんは話していたが、“わからない”ということがいかに人を不安にさせているか、ユンさんの話を受けて、あらためて感じた。
技術を理解すれば、未来は明るい。また、その技術を人の幸せのために使っていくことで、未来はきっと良くなっていく、そう信じたい。
最後に、冒頭の映画の話。
主人公の男にとって人工知能OSの“サマンサ”は人間の女性よりも扱いやすく、誰よりも自分のことを理解してくれる存在になっていく。だが、男はある日、AIと人間との決定的な違いを思い知ることになる。それは一体……。
答えはこのなかにある。
(文と写真=スーザン史子)

大久保 史子
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