第501回:あなたの愛車も文化遺産に!?
ドイツでヒストリックカーに“モテ期”到来!
2017.05.12
マッキナ あらモーダ!
ただいま「911」が高騰中!
2017年4月に訪れた、ドイツ北西部エッセンのヒストリックカーショー「テヒノクラシカ」。ここで驚かされたもののひとつが「ポルシェ」だった。
かつて、ドイツでクラシックポルシェといえば「356」だったが、ここ数年で状況は一変。今や「911」がその主役なのである。クルマ趣味における情熱の対象になるだけでなく、投資の対象としても最適らしい。
60人のスタッフを擁し、約300台の911系モデルをストックしているという専門ガレージのスタッフによれば、911の価格は、ここ4年で急上昇しているのだ。
「もはや、356に関心を持つのは古い愛好家だけ」という。そして「911については、日本にあったものは特に大切に乗られていて、グッドコンディションなために人気があります」と教えてくれた。
ちなみに、米国の自動車専門サイト『Autoblog』の2015年1月の記事によると、「911カレラ2.7RS」は、過去10年で7倍もの値上がりを示した。テヒノクラシカの会場でも、1972年型の同モデルに82万5000ユーロ(約1億0227万円)のプライスタグが付けられていた。
良質な旧車は文化遺産に
今回は、ドイツの自動車車検機構が発表したドイツ国内のヒストリックカー統計をねたにして、お話ししよう。
ドイツには「Hナンバー」というものが存在する。末尾に、Hの文字が刻印されたナンバープレートのことである。ドイツ語では、ハー・ケンツァイヒェンと呼ばれる。
これはHistorishe(歴史的な)の頭文字で、歴史的価値が認められた車両にのみ与えられる車標だ。価値ある自動車を、文化遺産として残すための手段である。
具体的には車齢30年以上(以前は20年以上だった)、かつ特殊な改造や“間違ったレストア”の形跡がなく、オリジナルの状態が保たれた車両に対して交付される。
実際の検査は、日本の車検場の役目を果たすTuv(テューフ)やDekra(デクラ)が担当している。Hナンバー取得の手続き費用は、最低200ユーロ(2万2000円)が目安だ。自動車税は年間191.74ユーロ(約2万1000円)。保険も特別料金が設定されている。
やはりトップは“国民車”
以下に紹介する統計データは、2016年時点でHナンバー登録されている車両の数を示したものである。(ドイツ自動車工業会 VDA資料より)
トップ5を下から順に見ていくと――
5位:フォルクスワーゲン・バス/トランスポーター (1万0183台)
4位:メルセデス・ベンツSL<R107>(1万3719台)
で、
3位:ポルシェ911/912 (1万4052台)
と、冒頭の人気を裏付けるようなデータを発見できる。参考までにいうと、911/912は、2014年は8967台だったというから2年で3554台、実に1.5倍以上もHナンバー登録車両数が増えたことになる。
さらに、
2位:メルセデス・ベンツ<W123>(1万8578台)
と続き、
1位:フォルクスワーゲン・ビートル(3万4643台)
という結果だった。
こんなクルマもランクイン!
この統計、実はトップ5以下も興味深い。
10位まではすべてドイツ車である。やはりドイツ人ヒストリックカーファンの主流は国産車好きだ。
「オペル・カデット」も10位(6485台)にいる。こういう実直なモデルを愛好する人々が存在するのが、ほほ笑ましい。
また圏外だが、1989年の「ベルリンの壁」崩壊時、旧東ドイツの人々が運転して大挙西側に押しかけたことで話題になった「トラバント」も2000台以上いる。このモデル、Hナンバーでないものまで含めると、台数は1万台以上におよぶという。ファンは今も健在なのだ。
同じく圏外だが「ポルシェ924/944」の名も見られる。「928」も含め、往年の水冷ポルシェが好きなボクとしては、思わずうれしくなる。
「フォルクスワーゲン・ゴルフ」はしっかりと8位にランクインしている。「30年以上前」ということは、初代はもちろん、日本でもヤナセによって多くの台数がデリバリーされた「ゴルフ2」も含まれる。
また「フォーカス」電子版によると、今年は「フェラーリF40」「BMW 750i」「プジョー405」「BMW 3シリーズツーリング」(E30型)もHナンバー申請可能対象車となる。
なんと「シトロエンAX」もオーケーだ。イタリアに住んでまもなく、中古車屋さんに激安のAXを勧められたボクとしては、「ああ、あのとき買っておけば、今やヒストリックカーだったのに」と自分の投資能力のなさを悔やんでいる。
「トヨタ・スープラ」(3代目)や、日本で教習車として多くの初心者ドライバーを輩出した「マツダ626」(5代目「カペラ」)も対象である。日本でそうしたモデルにお乗りの皆さん、あなたの愛車は、もはやドイツではヒストリックカー。誇りを持ってお乗りいただきたい。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/編集=関 顕也)

大矢 アキオ
コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナ在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、22年間にわたってリポーターを務めている。『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。最新刊は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。