第413回:いよいよ600ps超の4WDマシンへ
今秋発表の新型「BMW M5」に先行試乗!
2017.05.17
エディターから一言
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「BMW M5」が2017年秋、その歴史において大きく、かつ重要な一歩を踏み出す。新型は、いよいよ600ps超のパワーを持つに至り、それに伴い4WD化されるというのだ。モータージャーナリストの西川 淳は、そのプロトタイプに試乗するために、南フランスのテストコースに向かった。
4WDだがFRモードも選べる
G30型へと進化した7世代目「5シリーズ」。世間の評価は非常に高く、筆者などはポルトガルにおけるその初乗り以来、欧州Eセグメントにおける新たなスタンダードが登場した、と評してきた。そして、高いポテンシャルに触れた瞬間から、これをベースモデルとした、ラインナップの頂点となるM5の登場を、大いに待ち望んだひとりでもあった。
1984年のデビュー以来、アッパーミドルクラスのスポーツサルーンとして人気を博してきたM5。個人的には、最後の自然吸気ストレート6となったE34ベースや、F1サウンドもかく聞こえしエキゾーストノートが魅力だったE60のV10 M5あたりが、強烈な印象とともにいまだに“欲しいリスト”に掲載されたままである。「M3」と並んでM5は、いつの時代もクルマ好きの心を奪う、オールマイティースポーツカーだ。
もっとも、そんなM5も現行F10型ではラグジュアリー化が顕著になったと感じていたし、何よりV8ツインターボエンジンの、パワフルだけど面白みのなさが、車両の総合的な完成度の高さゆえ目立ってしまった点を残念にも感じていた。
だからこそ、ベース車両をして、軽さをひしひしと感じたG30をベースとした次世代M5の登場を、心待ちにしていたのである。
次期型M5は、この秋のフランクフルトショーでワールドプレミアされる(その前に詳細な発表があるかもしれない)。現時点(2017年5月17日)でBMW M社から明らかにされている情報は、以下の通りだ。
- 4.4リッターV8ツインターボながら600ps以上を誇り、
- そのハイパワー&ビッグトルクを受け止めるべくついに4WD化され、
- にもかかわらず車両重量は現行F10型よりも軽く、
- 0-100km/h加速は3.5 秒以下であり、
- 完全FRモードを含む5つのドライビングプログラムを用意する。
新型M5の概要が発表される直前に、南仏プロヴァンスにある世界最大級のBMWテストコースにおいて、次期型M5のプロトタイプに乗る機会に恵まれた。ごく短い時間のトライではあったが、その印象を語ってみたい。
擬装付きプロトタイプでいざコースへ
第6世代を迎える、次期型M5。個人的に期待していたのは、もっとスパルタンなキャラクターをもつスポーツセダンだった。
ところが、早い時期から4WD化のウワサが流れており、確かに現行モデルに積まれているS63B44ユニットはすでに560psというスーパーカー級の高出力を誇っていたから、これ以上のパワーアップともなれば4WD化もやむなし、とアタマでは認めたものの、どこか寂しさを感じるというか、過激なM5などもう過去のものだと認めつつある自分がいた。ありていに言って、もうM5には過度な期待を持たない方がいい、とさえ思っていたわけだ。
そう、ミラマスのテストコースにやってくるまでは……。
総面積およそ800ヘクタール。地上からアクセスする限り、その規模など想像もつかないテストコースに着くと、すでにカムフラージュされたM5が数台、スタンバイしていた。前述したような内容の、ごく簡単なプレゼンテーションを受けたのち、いきなり乗り込むことに。しかも、先導してくれるのは、ラグナセカ以来となるティモ(グロック。元F1ドライバーで現BMWワークス)だ。調子にのって、ドリフトするティモのまねをし、危うくコンクリートウォールに突っ込みそうになったオッサンを覚えてくれていたのか、「とにかく丁寧に、スムーズに運転することを心がけてくれ。反応はすごくダイレクトだけれど、冷静に対処すればクルマが応えてくれるよ」と、緊張した面持ちで乗り込む筆者にアドバイス。
室内もまた、カムフラージュされている。デザイン面を隠す、というよりは、プロトタイプゆえトリムレベルなどがベース車両のままだったり未完成であったりすることを見せないための処置らしい。とはいえ、新デザインのシフトレバーや、ステアリングホイールのスポーク上辺からにょきっと顔をのぞかせる2つの小さなレバースイッチ(変速パドルではない)など、ベースモデルとの差異も確認した。ちなみに、このレバーは、事前に登録したドライブモードを瞬時に呼び出すためのもので、現行モデルにも備わるM1/M2スイッチの進化版である。
BMWが4WDを選択したワケ
舗装路に低く太くたなびくV8サウンドを体で感じながら、ティモのゴーサインをレシーバー越しに待つ。4.4リッターでツインターボというエンジンの字面仕様は、何ら現行モデルと変わらない。けれども担当エンジニアの説明によれば、ほぼ別物と言っていいらしい。特に冷却システムの改良に力を入れた。もちろん、それは600psを超えるパワーを得た次期型用ユニットのパフォーマンスを有効に引き出すための施策である。
次期型M5最大のポイントが、繰り返しになるけれども、xDrive=4WDを採用した点であることは間違いない。正確にはM xDriveと呼ばれ、現行型がデュアルクラッチ・トランスミッションを採用しているのに対し、8段のオートマチックを組み合わせている。この点もマニアからは“糾弾”されそうなポイントで、筆者も当然、質問してみたが、エンジニアの回答はすこぶるシンプルだった。性能的には全く劣らず、かえってワイドレンジで高性能になった、という回答だ。Mは名前や伝統やスペックにこだわらず、最適な解を採用することを常とする。開発と熟成の進んだMステップトロニックの方が、4WDとなったハイパワースポーツセダンを、実用域からサーキットレベルまでオールマイティーにカバーして走らせるためには有効だった、という判断なのだろう。
もっとも、熱いマニアはこう反論することもできるのだ。4WD+8ATのパワートレインとなっても、現行モデルよりは軽く、またアジリティー豊かで精緻なハンドリングテイストは何ら損なわれていない、と。
そしてもうひとつ、マニアにはたまらないスパルタンセットも存在する。それは、DSCオフ時の完全FRモードだ。
次期型M5には、5つのドライビングプログラムがあると冒頭に記した。エンジンスタート時は常にDSCオン+4WDがデフォルトで、MDMモードにすれば、より後輪への駆動力配分が増す4WDスポーツへとセットされる。また、DSCをオフにした状態では、4WDと4WDスポーツ、そしてFRを選ぶことが可能だ。
4WDスポーツモードには“駆けぬける歓び”がある
今回、テストカーに乗り込み、すべてのドライブプログラムを試すことができた。まずは最も“安全”なデフォルトの4WDモードを試す。ずしりと力感に満ちたステアリングフィールは、ワインディングロードやサーキットよりもアウトバーンがお似合いであることをはっきりと感じさせるもの。フロントが路面をかく感覚もしっかりあって、しゃかりきにハンドルを動かすよりも、ティモが言う通り、慌てずスムーズさを心がけた方が、キレイに走れそう。
ちょっと踏み込んだあとのトルクフィールがすさまじい。踏み込む右足を逆に押し戻してくるかのような力感にあふれており、右足のわずかな動きにも反応して、クルマを前へと押し出していく。車体の軽さ感も半端なく、ひとたび加速姿勢に入ってしまえば、まるでプラスチックの箱が動いているようだ。それでいて、安定感は素晴らしい。これぞ安心感の塊と言うべきで、なるほどコイツは次期ビジネスエクスプレス候補の最右翼になりうると思う。
MDMモードでは、いかにも現代のスポーツカーらしいドライブを楽しむことができた。後輪により多くの駆動力が分配され、スリップも適度に許す。鼻先の動きも、はっきりと軽い。それゆえ、実にコントローラブルであり、また、最後までクルマが責任をもってくれているという安心感が、よりチャレンジングな気分をドライバーに与えてくれる。つまり、リスクの少ない、ほとんど無制限の駆けぬける歓びがあって、なるほどそれは、現代の600psオーバースーパーカーに匹敵する乗り味だった。
FRモードは無慈悲!?
DSCをオフにも挑戦した。実は筆者の先で、別のプロドライバーに導かれていたジャーナリストが、大スピンをやらかしていた。レシーバー越しに聞こえてくる会話を聞くと、MDMからいきなり、DSCオフのFRを試したらしい。タイトベンドをMDM時と同じ調子で曲がっていった揚げ句の大スピン。筆者はもちろん、DSCオフの4WDから試す。
DSCオンのときと同様に、ズシリと重めのステアリングフィールが、手のひらに伝わってくる。ワインディングコースではちょっと振り回しにくい。楽しめないよな、という感覚だ。
4WDスポーツでは、フロントの重みがすーっと消える。かといってニンブルすぎず、適度に支えられているという感覚も手元に伝わってきた。それでも気を抜くと、テールは見事に滑り出す。滑り始めが実にしなやかだから、慌てず、冷静に対処すればいい。破綻のリスクこそあるが、コントローラブルで、実に楽しい。
そして、いよいよDSCオフのFRモードを試すことに。正直に言うと、MDM+4WDスポーツで十分に楽しませてもらったから、あえてそんなリスキーなモードを試す必要はない、と思っていた。しかも、大スピンを目の当たりにしている。もっとも、同乗してくれた開発ドライバーに、そんな気持ちが伝わるはずもなく、無慈悲にもFRモードへとスイッチされてしまった。
ええい、ままよ! 最初はびびりまくっていた右足が、徐々に大胆になっていく。ちょっとでもラフな操作をすると、たちまちリアがブレイクする。タイヤのスキール音がいたるところで響き、そのたびに己の未熟なスキルを嘆かわしく思った。
そして案の定、調子にのった右足がもたらしたのは、タイトベンドの立ち上がりで踏み過ぎた揚げ句のハーフスピン、そして遅過ぎて、かつ大き過ぎた反応がもたらす格好の悪い揺り戻しがあり、そのままグラスエリアへ。おそらく、筆者は世界で最初に草を刈った次期型M5ドライバーになったに違いない。
冗談はさておき、こうまで無慈悲なモードを備えたスポーツサルーンは他にないことは明白だ。そして、こうまで絶大なパワーと安心感を誇るGTサルーンも稀有(けう)である。その両方と、そのまた間に3つの選択肢まで備えた次期型M5は、ベースモデルのG30と同様、硬派で、かつ軟派なスポーツサルーンとして、新たなスタンダードモデルとなるに違いない。
(文=西川 淳/写真=BMW/編集=竹下元太郎)

西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
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