第415回:フェラーリはSUVを開発するのか?
日本市場の統括者が“跳ね馬”の今後を語る
2017.06.01
エディターから一言
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2017年5月23日、フェラーリの新しい12気筒モデル「812スーパーファスト」の披露会が東京都内で開かれた。当日は、フェラーリの極東・中東エリア統括CEOを務めるディーター・クネヒテル氏と、フェラーリ・ジャパン&コリア代表取締役社長のリノ・デパオリ氏が出席。共同記者会見の席で、創業70周年を迎えるフェラーリの製品や戦略について質問に答えた。
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日本は極めて大事な市場
――まず、フェラーリにとって今の日本市場はどんな存在なのか、聞かせてください。
ディーター・クネヒテル氏(以下、クネヒテル):日本は非常に重要です。もちろん、販売台数と成長性においてということですが、“ヘリテージ”という意味でも大切な市場と言えます。長年にわたって、われわれの商品をご愛顧くださっているお客さまがいらっしゃるのです。
――その日本における2016年度の販売台数は、過去最高を記録しました。なぜセールスは好調に推移し、新しいユーザーも取り込むことができているのでしょうか?
リノ・デパオリ氏(以下、デパオリ):おっしゃる通り2016年は記録的な年でした。そこにはふたつの理由があると思っています。ひとつは、先に述べた通り、日本でフェラーリは50年もの長い歴史があるということ。ロイヤルティーの高いお客さまがいらっしゃいます。もうひとつは、商品レンジです。特に「カリフォルニアT」は日本市場では非常に好調で、「GTC4ルッソ」も同様でした。“長いお付き合い”と“若いユーザーに受け入れられるモデル”。この2点により、お客さまを獲得できたのです。
――フェラーリのユーザーは、なぜ若い層にまで広がってきたのでしょうか?
デパオリ:カリフォルニアTやGTC4ルッソには、商品としての多用途性(ヴァーサティリティー)があるということだと思います。また、コミュニケーション戦略の結果だとも思っています。例えばわれわれは、日本語で「フェイスブック」「インスタグラム」「ツイッター」といったSNSや、オフィシャルサイト『ferrari.com』を展開しています。対応する世界6カ国語のうちのひとつが日本語なのです。創業70周年記念のスペシャルサイト『ferrari70.com』も日本語の用意がある。こうしたデジタル戦略がポイントになっているのです。
――日本の経済状況は、それほどよくなっているわけではないと思いますが、マーケット的な観点からはどう見ていますか?
クネヒテル:日本の経済状況という点では、2016年は、われわれが属しているスーパースポーツセグメントは、ベントレーなどほかのブランドを含めて大きな成功をおさめました。フェラーリは非常に熱心なカスタマーがベースにある。そこに、さらに新しい商品を投入することで、新しいお客さまを引き込む。「エクスクルーシビティー(ほかにない高級感、特別感)を維持しつつ、成長を目指す」という戦略を持っています。
年産8000台は「多すぎない」
――クネヒテルさんが担当されている中東と日本とではどんな違いがあるでしょうか?
クネヒテル:共通点はありますね。それは、フェラーリに対する情熱です。一方で、市場によって違う面はあります。日本市場がなぜ特別かといえば……1966年の1号車「フェラーリ275GTB」以来、われわれは日本で市場展開しているわけですが、日本のお客さまはレースというカルチャーを十分ご理解してくださっているし、ヨーロッパのハイテクノロジーへの関心が非常に高い。お客さまに強固なベースがあるわけです。だからフェラーリは、今後も日本市場で成長していけると確信しています。
――韓国の大統領選や北朝鮮との軍事的緊張は、かの国におけるフェラーリの売れ行きに影響を与えましたか?
デパオリ:答えは、ノーです。こんにち世界ではいろんなことが起こっていますが、韓国市場に対しては、確固たる長期的なビジョンを持っています。戦略的な、すばらしいパートナーもいます。その中で、私たちはブランドの価値を認知していただき、それを周知するための活動をきちんと行っています。地政学的、政治的側面に翻弄(ほんろう)されるということはないのです。
――そんなフェラーリの2016年の販売台数は8000台で、2017年も第1四半期は2000台を記録しています。このまま推移すれば、今年も8000台にはなる。かつてフェラーリは「自らのエクスクルーシビティーを保つことのできる生産台数の上限は7000台前後だ」と公言していました。現在は、それを1000台超えているわけです。この点、生産台数とフェラーリというブランドバリューの関係をどのように考えているか教えてください。
クネヒテル:非常に重要な質問ですね。まず、「フェラーリはエクスクルーシブでなければならない」という企業理念に変わりはありません。生産台数が1000台増えているということですが、エクスクルーシビティーにも変化はありません。もっとも、エクスクルーシビティーについては、それを示す確固たる数字はないわけですが。「これを超えてはならない」という生産台数の上限はなく、多少の柔軟性は加味しています。われわれにも、マーケットの中で成長したいという思いがあるからです。ただ、「エクスクルーシビティーを維持するためには、そのマーケットの中でこのくらい、という見込みよりもちょっと少ない数量(が適切である)」という考えは持っています。
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SUVはフェラーリに合わない
――クネヒテルさんは過去、ポルシェ在籍中に中国での事業に取り組まれていますが、ポルシェとフェラーリにはどんな違いがありますか?
クネヒテル:とてもいい質問です。どちらも同じようにヘリテージを持っているレーシングブランドであるということはいえますが、フェラーリは非常に小規模な会社です。隣の人と顔なじみで、人と人との交わりが、最大限に効果を発揮できる土壌があります。ただ、マラネッロの工場は小さくて、生産台数も限られている。一方ポルシェは大所帯で、いろいろなプロジェクトが同時進行していて、さまざまな方向性を向いている。企業の規模からしてもレベルが違いますから、相対的な比較はしにくいところはあります。
――フェラーリのトップが(ルカ・ディ・モンテゼーモロ氏からセルジオ・マルキオンネ氏に)変わってからしばらくたちますが、現在のCEOの体制になって明確に変わったことはありますか?
クネヒテル:偉大な方が引退されて、やはりぽっかり穴が空いた感じもありますが、企業理念については変更はありません。多くのプロジェクトが引き継がれていますので、特に大きな変化はないように思われます。
――では、自動運転と電気自動車(EV)、そしてSUVについて、現在のフェラーリの考えを聞かせてください。
クネヒテル:これは業界全体のトレンドですけれど、われわれは完全なる自動運転も完全なるEVも、完全なるSUVもお客さまが求めていないということから具体的な計画はありません。ただ、電気を使ったエレクトロニクス化に関してはリサーチは必要ということで、研究は重ねている状況です。
――SUVについては、例えばロールス・ロイスやアストンマーティンも取り組んでいる。フェラーリだけが、その予定がない。今後も計画はないということですが、額面通りに受け取ってよいのでしょうか?
クネヒテル:はい。フェラーリに関してはSUVの計画はありません。フェラーリのDNAにマッチしていないからです。フェラーリはいま車両の軽量化に取り組んでいます。より速く、より効率を高くするためです。(その点で適していない)SUVの開発は、われわれの計画にはありません。
今後も跳ね馬であり続ける
――今回は、6.5リッターV12エンジンを搭載する「812スーパーファスト」を日本で披露しました。フェラーリが12気筒のエンジンにこだわるのはなぜでしょう。
クネヒテル:フェラーリは1947年に発表した「125S」以来、12気筒のマシンを常に作り続けている“伝統”があります。最初のモデルから、70年たったこんにちも12気筒を堅持している。われわれのブランドにとって12気筒というのは非常に重要です。
――12気筒モデルはこれからも自然吸気になる予定ですか?
クネヒテル:イエス。その計画です。お客さまの期待も高い。
――今後、(「エンツォ」や「ラ フェラーリ」のような)限定モデル以外で12気筒エンジンをミドシップする計画はありますか?
クネヒテル:向こう数年のうちにはありません。ただし、将来に関してはさまざまなシナリオを検討しなければなりませんから、いまの時点ではどうこうという返事はできません。
クネヒテル氏の話をまとめてみると、こんなことが言えそうだ。フェラーリは、限定モデルであるラ フェラーリのように電気モーターの力を借りることはあるかもしれないが、12気筒の自然吸気エンジンの伝統を守り続ける。“フルEV”は作らない。もしかしたら、GTC4ルッソを発展させたようなクロスオーバーはアリかもしれないけれど、オフロードビークルを手がけることはない。4WSやアクティブステアリングなど電子制御は大幅に取り入れるものの、完全な自動運転車は開発しない。なぜなら、カスタマーがそれを望んでいないから。フェラーリは企業としてゆっくり確実に成長しながら、スーパースポーツのみを作り続ける。跳ね馬は、今後も跳ね馬であり続けるのだ。
――そんなフェラーリの最新モデルである812スーパーファスト。どんな方がユーザーになるのでしょうか。
クネヒテル:主に、45歳以上の男性だろうと思います。端的に言って、812はトップパフォーマンスを誇る、フェラーリ史上最速のクルマですから、おのずとハードコアな“フェラリスティ”が買われると思います。ピュアスポーツカーを好まれる方ですね。なにせ812は、ベストな、トップエンドの、ほかに類を見ないプロダクト。フェラーリを所有していない方も目を向けてくれるのではないかと思っています。
(文=今尾直樹/写真=webCG/編集=関 顕也)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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