第232回:スバルCVT恐るべし!
2022.05.16 カーマニア人間国宝への道エリートのためのスポーツセダン
近年、スバル車への個人的な興味を失っていた。個人的な興味とはつまり、個人的な欲望(欲しいかも~)のことだ。
なぜならスバルはATがCVT。あえてCVT車を買う理由は皆無だ。しかもMTは絶滅寸前。もうスバルと聞いただけで「オレには関係ねぇな」と断定できた。
ところが、撮影の合間に新型「スバルWRX S4」に乗る機会があり、「ええっ!?」となった。
思えば先代WRX S4は、耐えられないクルマだった。300PSとCVTの組み合わせ、そして足はゴーモン的に超ガチガチ。「なんじゃこりゃ!?」の二乗だ。CVTとはいっても8段のステップ変速が付いていたが、そもそも、これに乗って何をすりゃいいのかわからない。目的が見えない!
ところが、新型WRX S4は違った。これはズバリ、「BMW 3シリーズ」の対抗馬! エリートのためのスポーツセダンである。もう一度乗ってみなくてはっ!
あらためてお借りした「WRX S4 STI Sport R EX」は、先般ちょい乗りしたのと同じ個体で、オレンジっぽい赤のボディーに黒い樹脂製フェンダーが付いていた。この樹脂フェンダー。空力効果があるらしいが、「フィット クロスター」っぽくてなんだか浮いている。
まあ、細かいことはいい。愛車のエリート特急こと先代「BMW 320d」と並べれば、ディメンションはウリ二つ! よし、夜の首都高に出撃だ!
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
「インディビジュアル」モードで無敵化
まずは「コンフォート」モードで走りだす。うおお、乗り心地がイイ! 先代WRX S4とは天と地の差! 極楽と地獄の差といってもヨシ! この雰囲気はまさにBMW 3シリーズ!
2.4リッターターボも、低い回転からググッとトルクが出ている。オッサンはパワーよりトルクが好き! うむう、これぞエリートの余裕。
ステアリング右下のモードボタンを押して、ドライブモードを切り替えていく。
「ノーマル」で、早くもサスはかなりハードになる。首都高に突入し、「スポーツ」、そして「スポーツ+」に変更! 「リニアロトニック」から進化した「スバルパフォーマンストランスミッション」は、自動的に「スポーツ変速制御」を用いる8段ステップ変速に移行! ダイレクト感もレスポンスもウルトラ最高! スバルCVT恐るべし! もうDCTは滅んでヨシ! アクセルレスポンスも飛躍的にシャープになり、パワートレインの印象は超グンバツだ!
ただし、電子制御ダンパーも超絶ハードに自動変更! 首都高のジョイントで激しい突き上げをお見舞いされ、オッサンの内臓はキリキリ舞いだ。うおおおおっ、耐えられん! 代々木PAにピットイン!
代々木で私は考えた。このグンバツなパワー感その他レスポンスはそのままで、サスだけソフトにできないか。
できるんです! 「インディビジュアル」モードでは、6つの要素を個別に設定できるから! サスだけ「コンフォート」であとは最強モードに設定! 再び首都高に出撃だ。
ス、スバラシイ……。
この、どこからでもビンカンすぎるほど加速しまくるレスポンス。ただし4WDが超絶スタビリティーを発揮するので、何をやっても許される。コンフォートモードは、首都高の大きなうねりやジョイントも優しくいなす。うおおおお、コイツは無敵だ!
![]() |
![]() |
![]() |
まさに天上界の展示走行!
陶酔状態で突っ走っていると、前方から派手なエキゾーストサウンドが聞こえてきた。すわ、走り屋か?
それは、羽根つきのポルシェ……と、黄色いR35「GT-R」のチューニングカーだろうか。2台は仲間なのか、ゆっくり流しながらマフラーをパオンパオン言わせている。
恐る恐る、無敵のスポーツセダンで接近を試みた。
羽根つきのポルシェは「911 GT3」らしい。そして黄色いのは……。
げええええっ! フェラーリ812スーパーファストォォォォォォ!
パオンパオン言わせているのはこっちで、GT3はほとんど無音(に聞こえる)。思えばわがWRX S4も無音(に近い)。現代のスポーツカーが、騒音規制に対応して無音に近づくなか、フェラーリ12気筒は、治外法権感ビンビンの甲高いサウンドを響かせている。
いかにも富裕層らしき2台のドライバーたちは、わがWRX S4には目もくれず、ちょっと前が空くと「パオオオオオ~ン」と全開をかましては、またゆっくり流している。まさに天上界の展示走行! ウットリ……。
WRX S4は、この2台の競演を眺めるのに最適だった。ルックスは格違いだが、レスポンスは無敵。彼らの大パワーにもやすやすとついていけるのだ!
それにしても、首都高はスバラシイなぁ。こんな展示走行に出会えるなんて、他の場所じゃあり得ない。
もう俺は、首都高さえあえればいい。プラス、こういうのにそこそこついていける自家用車があれば人生満点パパ! 首都高最高!
(文と写真=清水草一/編集=櫻井健一)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
第320回:脳内デートカー 2025.10.6 清水草一の話題の連載。中高年カーマニアを中心になにかと話題の新型「ホンダ・プレリュード」に初試乗。ハイブリッドのスポーツクーペなんて、今どき誰が欲しがるのかと疑問であったが、令和に復活した元祖デートカーの印象やいかに。
-
第319回:かわいい奥さんを泣かせるな 2025.9.22 清水草一の話題の連載。夜の首都高で「BMW M235 xDriveグランクーペ」に試乗した。ビシッと安定したその走りは、いかにもな“BMWらしさ”に満ちていた。これはひょっとするとカーマニア憧れの「R32 GT-R」を超えている?
-
第318回:種の多様性 2025.9.8 清水草一の話題の連載。ステランティスが激推しするマイルドハイブリッドパワートレインが、フレンチクーペSUV「プジョー408」にも搭載された。夜の首都高で筋金入りのカーマニアは、イタフラ系MHEVの増殖に何を感じたのか。
-
第317回:「いつかはクラウン」はいつか 2025.8.25 清水草一の話題の連載。1955年に「トヨペット・クラウン」が誕生してから2025年で70周年を迎えた。16代目となる最新モデルはグローバルカーとなり、4タイプが出そろう。そんな日本を代表するモデルをカーマニアはどうみる?
-
第316回:本国より100万円安いんです 2025.8.11 清水草一の話題の連載。夜の首都高にマイルドハイブリッドシステムを搭載した「アルファ・ロメオ・ジュニア」で出撃した。かつて「155」と「147」を所有したカーマニアは、最新のイタリアンコンパクトSUVになにを感じた?
-
NEW
なぜ給油口の位置は統一されていないのか?
2025.10.14あの多田哲哉のクルマQ&Aクルマの給油口の位置は、車種によって車体の左側だったり右側だったりする。なぜ向きや場所が統一されていないのか、それで設計上は問題ないのか? トヨタでさまざまなクルマの開発にたずさわってきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】
2025.10.14試乗記2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。 -
ただいま鋭意開発中!? 次期「ダイハツ・コペン」を予想する
2025.10.13デイリーコラムダイハツが軽スポーツカー「コペン」の生産終了を宣言。しかしその一方で、新たなコペンの開発にも取り組んでいるという。実現した際には、どんなクルマになるだろうか? 同モデルに詳しい工藤貴宏は、こう考える。 -
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】
2025.10.13試乗記BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。 -
マツダ・ロードスターS(後編)
2025.10.12ミスター・スバル 辰己英治の目利き長年にわたりスバル車の走りを鍛えてきた辰己英治氏。彼が今回試乗するのが、最新型の「マツダ・ロードスター」だ。初代「NA型」に触れて感動し、最新モデルの試乗も楽しみにしていたという辰己氏の、ND型に対する評価はどのようなものとなったのか? -
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】
2025.10.11試乗記新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。