第212回:場外乱闘発生!? 大矢アキオ式フランクフルトショーの楽しみ方(前編)
2011.09.23 マッキナ あらモーダ!第212回:場外乱闘発生!?大矢アキオ式フランクフルトショーの楽しみ方(前編)
これって、クルマのクラウド化?
第64回フランクフルトモーターショーである。一昨年と比べ、主要メーカー各社が電気自動車(EV)をより現実的な形でアピールしていたのはすでに報道されているとおりなので、そちらにお任せしたい。
本欄ではボク・大矢アキオ自身が個人的に気になったもの・楽しんだものを硬軟取り混ぜてつづってゆこう。
EV関連のディスプレイで秀逸だったのは、実はドイツメーカーでなくルノーだ。充電器を30分の急速型、6〜8時間型、さらに電池交換型など明確に分けて展示するという、EVのある生活を非常にイメージしやすいものだったからだ(写真2、3)。
ご存じの読者もいると思うが、電池交換型とはルノーが以前から模索しているシステムで、専用ステーションで空になった電池とフル充電の電池を自動交換するというものだ。
このシステム、電池技術が進歩して航続可能距離が長くなったあとは、シンフォニーを一曲聴くのにレコード盤が何枚も必要だったSP時代のごとく、昔の笑い話になる危険性が高い。「高価なインフラを各地に作ったあと、いったい何年使うのだ?」という疑問も残る。しかし電池を共有のものにするという概念は自動車のクラウド化という面白い未来性が広がるかもしれない、と思ったボクであった。
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究極のローエミッション発見
引き続き、クルマのハード以外の事象で、気になったもの・楽しんだものを紹介しよう。
【写真4】はBMWが展示した「i」コンセプトシリーズの“プラグイン充電器”としてディスプレイされていたものである。東京にお住まいの方は地下鉄東西線のマークを思い出すかもしれないが、ボクは「デザインした人はダイソンの扇風機が欲しかった人」と読んだ。
モーターショーに欠かせないものといえばコンパニオンだが、今回いちばん体を張っていたのは、セアトのお姉さん(写真5)である。ポールの上に据え付けられたバルーンに入り、前後左右へとポールをしならせながら踊るという仕掛けだ。見世物小屋っぽさ全開で、眺めている自分がちょいと恥ずかしくなってしまったが、セアトというブランドのポップなムードを体現していたことは確かだ。
アトラクションの前後、お姉さんがどうやって登り降りしたのか見たかったのだが、時間がなかったのと(たぶん)苦しい顔をして抜け出すお姉さんをわざわざ見るのは粋でないので、やめておいた。
各社のグッズショップをのぞいてみる。しゃれていたのは、メルセデス・ベンツで見つけた「SLK」のマニキュア(写真6)である。値段も9ユーロ(約900円)と安心価格だ。ボディと同色のマニキュアをつけた手でステアリングを握れば、なんともオシャレではないか。ただし車内に転がしておくと、殿方にタッチアップペイントと間違えられる恐れありかもしれない。
究極のローエミッションといえば、幼児用の足押し車である。ボクは見つけるままに写真を撮っていったのだが、気がつけばアウディ、ポルシェデザイン、シュコダ……と、みんな広義でのフォルクスワーゲン系だった(写真7、8、9)。
ショーケースに入っていて確認できなかったので断定は避けるが、ここまでそろうと、もしかしてプラットフォーム共有? という仮説を立ててしまった。
 「ホンダ・シビック」の影を薄くしたアイツ
なんで今まで、こういうアイデアがなかったのか? つまり「やられたー」と感心したものも多々ある。【写真10】は今回会場で発表されたフィアットの新型「パンダ」である。例のツインエアエンジン搭載をうたうためのディスプレイで、エンジンが出たり引っ込んだりするわけでなく固定だが、2気筒のコンパクトさがよくアピールされている。こういう誰でも考えそうでやらなかったディスプレイには賞賛を送りたい。
報道関係者公開日の茶菓にも同様のものがあった。【写真11】は地球の裏側でフォルクスワーゲンとの提携解消を決めたスズキが用意したフレッシュジュースのスタンドである。日本のデパ地下ならどこにでもあるが、意外に欧州のショーで前例がなく、各国の記者たちに好評を得ていた。「マンゴ・スイフト」「マンダリン・アルト」といったメニューのため、注文するとき、スズキファンでなくても車名を口にしなくてはいけない。
【写真12】はマツダのブースに記者発表のあと置いてあったものだ。ドイツ名物のプレッツェルであるが、よく見ると、同社のシンボルマークになっている。これも、ありそうでなかったネタである。フォルクスワーゲンの「ソーセージ用ケチャップ」には及ばなくても、「スバル最中」に対抗できると思う。
意外な展開になっていたブースもある。ホンダだ。ご存じのとおり、今回は新型「シビック」が最大の話題という設定だった。しかしどうだ。ステージで「ASIMOショー」が始まると、みんなそちらに集中してしまう。一般公開日ではなく、報道関係者公開日である。コンパニオンまで仕事を忘れて階段を上るASIMOに見入ってしまっている。三脚付きビデオカメラで撮影しているメディアも複数いる(写真13)。
日本でASIMOといえばテレビで紹介されたうえ、週末には地方のホンダ販売店でデモが行われ、もはや有名人になりすぎた感がある。しかし、ジャーナリストでさえなかなか本物を見る機会がない欧州では、まだまだ相当な訴求力・集客力がある。ASIMOあっぱれだ。
ショー会場の外にも
話は前後するが、報道公開日に会場を訪れて真っ先に目に飛び込んだのは、ジャーナリストの会場内移動用に走るドライバー付きシャトルカー(写真14)である。このサービスは以前からあったが、今年は各メーカーともハイブリッド、電気、燃料電池といったイチオシの環境対応車を提供していた。「メルセデス・ベンツE-CELL」「レクサスRX400h」とさまざまなモデルがウロウロしている。
ボクのお気に入りは「オペル・アンペラ」だったが、そう思っているとなかなか来ない。昔、パリで「シトロエンCX」のタクシーになかなか当たらなかった悔しさを図らずも思い出した。
スマートは一般公開日にEV仕様「エレクトリックドライブ」の試乗車を準備した(写真15)。その告知広告は、市内におけるライバルである路面電車の停留所にことごとく貼られていた。
それ以外のメーカーもパビリオン内に試乗受付デスクを設置していた。実際に周辺で「テストドライブ」とステッカーの貼られた車をたびたび見かけた。
ショーはパビリオンを飛び出し、「場外乱闘」にもつれ込んでいたと言ってよいかもしれない。しかし場外乱闘におけるアイデア賞はというと、実はフランクフルト・アム・マイン空港にあった。
ボクは空港に到着した日、預け荷物受け取りのターンテーブル前でスーツケースを待っていると、サソリマークの箱が回ってくるではないか(写真16)。アバルト仕様への改造キットが入った箱っぽい。アバルトの改造認定工場には、こうした木箱でキットが運ばれるのだ。
「おいおい、明日から報道関係者公開日だというのに、今ごろキットを運ぶなよ」と思ってよく見ると、本物の木箱ではない。それが巧妙な宣伝であるとわかったのは、ターンテーブルの側面に貼られた赤い「ABARTH」のステッカーに気づいたときだった。
「もし自分なら、たとえダミーでも箱を持ち去ろうとしたかも」そう思った読者のあなたは、昔通学途中の電車で森永ハイソフトの「河合その子」ステッカー広告をはがそうと思ったが意外にはがれず、断念した人に違いない。
次回はホンダもアバルトに対抗して、ASIMOのダミーをフランクフルト市電車内にさりげなく座らせておく、というのはいかがだろうか。
(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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