第16回:タイヤ狂想曲
2017.06.27 バイパーほったの ヘビの毒にやられまして 拡大 |
購入時から「ダッジ・バイパー」に装着されていた「ミシュラン・パイロットスポーツ」がいよいよご臨終……。新しいタイヤ探しに臨むwebCGほったの前に立ちはだかる壁とは? 武蔵野の小市民は無事にタイヤを交換することができるのか?
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あえて開き直ります
読者諸兄姉の皆さま、ご無沙汰しております。
前回の掲載から、いつの間にやらひと月もたってしまいました。そんな長期間、本連載をほったらかして記者が何をしていたかというと、スペインに行ったりドイツに行ったり、またドイツに行ったり、バイパーを掃除機でガーガーやったりしていたのでした。あらためまして長期の放置、平にご容赦ください。ついでに、上述の記事についても興味があったらご笑覧くださいませ。
露骨な宣伝はこの辺にして、そろそろ本編を始めましょう。本稿の写真からすでにお気づきの方もおるやも知れませんが、ワタクシ、この5月末にタイヤを履き替えました。モノはトーヨーの「プロクセスR888R」。なんとSタイヤ、しかも昨年8月にデビューした最新モデル、しかもしかも、メーカーさんご提供の品である。
なんということでしょう。こんなブログまがいの連載エッセイで、よもやメーカーさまからタイヤを賜れるとは。冗談半分で始めた企画なのに、エラことになっちまった。
また、こういうモノをメーカーから受け取ると「○○の回し者め!」とおっしゃる方がままおられますが、ことワタクシに限りましては、そうした批判にグゥの音も出ません。しめて2ケタ万円の品を供されておきながら当該製品をディスるなんて肝っ玉、記者にはございません。そんな訳で、今後ワタクシがR888Rを語り出したら話8割くらいで聞いてくださいね。でも、いいタイヤです(笑)。
さてさて。なんとなくとはいえ「極力自身のフトコロで」をモットーに本連載を続けてきた記者が、なぜにわざわざ朽木が如き志を折るに至ったのか。理由は非常に簡単である。金ですよ。
世の中は畢竟、金だ
すべての始まりは、本年3月に参加したAUTO-X(オートクロス)ということになるのだろう。箱根かいわいをちょっくら走る程度ではなんともなかったミシュランさんが、少しガンバったらロクにグリップしなかったのだ。1発目のブレーキングで前輪がまったく路面を食わず、すべるように(実際すべっているのだが)パイロンに突っ込んでいったあのときの光景を、記者は墓まで忘れまい。
その際、もうひとつ「これはヤバい」と感じられたのが、のっぺらぼうな操舵フィールだった。本連載の第7回にて、記者は「操舵フィールは(中略)粘土っぽい無愛想なもの。スピード違反上等でギンギンに攻めれば変わるのかもしれないが……」と記したが、これがギンギンに攻めてもなんら変わらないことが判明した。
さらにさらに、同じ回で紹介した、轍(わだち)などで姿勢が乱れる点についても、方々より「確かにアシは取られやすいけど、そんな風に挙動を乱すのは変」との指摘がちらほら。これらもろもろの経験とアドバイスが、記者を「こりゃあ一刻も早くタイヤを替えた方がいいな」という結論に至らしめたのである。
さて。これまでにも何度か触れたことはあるが、あらためてわがバイパーが装着していたタイヤについておさらいさせていただく。銘柄は前後ともに「ミシュラン・パイロットスポーツ」。サイズは前が295/30ZR19、後ろが345/30ZR19。サイドウオールマーキングから計算したところ、製造時期は前が2011年4月、後ろが2013年4月と出た。タイヤの寿命はおおむね4~5年といわれているので、前輪は完全にアウト、後ろもグレーゾーンというのがその現状だったようだ。
ブリヂストンにも、ダンロップにもありません
こうして始まったダッジ・バイパー タイヤ交換計画だが、その前途は多難だった。最初に立ちはだかったのは、「そもそも履けるタイヤが無い」という大問題である。要するに日本で正規販売される製品の中に、サイズのラインナップがなかったのだ。
厳密に言えば、前後で銘柄を変えるという荒業を使えば、1パターンくらいは装着できる組み合わせがあったようであるが(byオートバックス代官山店)、それはホントに最後の手段。秘術に手を伸ばす前に、記者は自動車用語で言うところの“並行輸入”“逆輸入”のタイヤに目を向けた。
すると、あるではないか。単一銘柄で295/30ZR19と345/30ZR19というサイズをラインナップしているタイヤが! ……まあ、あるっていっても「ピレリPゼロ」「ミシュラン・パイロットスーパースポーツ」「トーヨー・プロクセスR888」および「プロクセスR888R」そして「ニットー・インヴォ」ぐらいなんだけど。
このうち、ピレリとミシュランについては説明は不要でしょう。欧州製スーパーカー/プレミアムカー御用達の高級タイヤである。これに対してトーヨーの2モデルは、クローズドコースでのスポーツ走行を想定したSタイヤ。インヴォはニットーのプレミアムタイヤで、ブリヂストンでいうと「ポテンザS001」と「レグノGR-XI」を足して2で割ったような感じだろうか。いやはや、他のクルマでは考えられないラインナップである。笑うしかねえ。
余談だけど、日本での知名度の低さからニットーを低く見る人がたまにいるけど、冗談じゃございません。日系メーカーとして唯一ドラッグレース用のラジアルタイヤを手がけるなど、かの地では親しまれているブランドなのだ。性能面での信頼も厚く、例えば最高出力840hp、0-400m加速9.65秒の怪獣「ダッジ・チャレンジャーSRTデーモン」の純正タイヤも、実はニットーだったりする。
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人生で一度は履きたいSタイヤ
話が脱線しがちで面目ない。装着可能なタイヤが判明した以上、次の作業は絞り込みである。残念ながら&当然ながら、ピレリとミシュランは真っ先に除外。理由はもちろんお値段だ。またバイパー乗りの先達(せんだつ)からいただいた、「初期性能はいいけど賞味期限が短いのよ」というアドバイスも、この判断には影響した。
次にニットー・インヴォであるが、これについては「乗り心地はいいけど、スポーツ走行を楽しむタイヤではない」という意見により優勝争いから脱落。気付いてみれば、最後に残っていたのはトーヨーの2つのSタイヤだった。……などと書くと、読者の皆さまに「ウソつけ!」と突っ込まれることだろう。「Sタイヤなんて消去法で選ぶタイヤじゃないだろう」と。
その通りである。実は最初から決めていたのである。
だってアナタ、Sタイヤですよ? 公式ウェブサイトで「モータースポーツ専用」って書かれちゃうようなタイヤですよ? 漢(おとこ)なら、死ぬまでに一度は行っとくべきでしょう(鼻息)。
そしてもうひとつ。同ジャンル、同サイズの日系メーカーのタイヤと比べたら、ミシュランやピレリはどうしてもお値段が……。少なくとも、記者や記者のへなちょこバイパーにはもったいない高級品なのだ。しかし先述の通り、日系メーカーの普通のタイヤに、バイパーに履けるような大径・低偏平のラインナップは皆無。ライフを考えたら“その場しのぎ”でしかないが、あえてのSタイヤ・チョイスは、少しでも安く大径・低偏平タイヤを手に入れるための、苦肉の策でもあったのだ。
かように切羽詰まった理由もあって、記者は次なるタイヤをトーヨー・プロクセスR888と決めた。新鋭のR888Rとしなかったのは、在庫処分で少しでも安いタイヤにありつける可能性にすがったから。どこまでもビンボーくさい男である。
早速、いつもお世話になっている相模原のバイパー屋さんにご相談。サーキット走行もたしなむ店長の本多芳彦氏より「いいタイヤですよR888。そもそもバイパーに履かせられるSタイヤって、そんなに選択肢ないんですけどね(笑)」というお墨付き(?)をいただき、いよいよ記者の腹は決まった。
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つゆと消えた節約プロジェクト
しかしである。ことここに至ってもなお、物事はカンタンには進まなかった。
ほった:R888って、今だとお幾らぐらいですかね?(新製品が出たばっかりだし、安い在庫品が出回ってるだろう。ぐへへへへ)
本多氏:前が3万5000円、後ろが……7万円になっちゃいますかね。シッピング込みだと。
記者は絶句し、ついで己のうかつさを呪った。当たり前すぎて忘れていた。海外のものを買うと船代がかかるのだ。頭の中で急ぎソロバンをはじく。「後ろが7万円」といえば、日本国内で買うニットー・インヴォ(同サイズ)のおよそ2万5000円高。下手したら(下手しないでも)ミシュランやピレリより高けえ!!
「ポチっとく?」という本多氏に待ったをかけ、記者はふらふらとお店を後にした。1円でも安くタイヤを手に入れんとする記者の策は、ここにもろくも崩れ去ったのだ。
帰路の道中、記者の脳内は渦をまいていた。
なにせ4本で21万円である(取り付け工賃別)。そうでなくとも、この5月は自動車税で11万1000円、バンパーの修理費で2万円の身銭を切っている。ひと月でアバウト35万円の出費は、恵比寿のリーマンの身の丈をはるかに超越していよう。老後を託す定額貯金に手をつけなきゃならなくなるのは必定である。
あるいは、タイヤ交換を来月以降に持ち越せば金銭的にはゆとりができる。が、すでに老ミシュラン氏の体力は限界を超えており(特に前輪)、現に今乗っていても、タイヤではなく、もう鉄輪を履いているような感じなのである。
記者は夜をまたいで煩悶(はんもん)した。
そして翌日、すっかりやつれて出社した記者は、今冬の雪上試乗会で東洋ゴム工業を取材した、隣席の藤沢青年に問うたのだった。
「藤沢さん、東洋ゴムのマーケティング担当さんの連絡先とか、持ってません?」
……かような経緯により、現在記者のバイパーは、トーヨーの最新Sタイヤを装着しているのである。
第一印象は「快適ですね」
「R888じゃなくて、新製品のR888Rを送ります。お代はけっこうですので、少しでも紙面で紹介してあげてください」
そんな旨のメールとともに届いたプロクセスR888Rは、いただいてしまったことに対する気後れを差し引いても、いやはやいいタイヤであった。
見た目は、ちょっと不思議ちゃんである。トレッドパターンはイン・アウトで非対称なのに、回転方向指定がないのだ。当然のことながら、クルマに装着すると右と左でタイヤの向きが逆になる。本多氏ともども小30分ほど首をかしげていたのだが、メーカーに問い合わせて「大丈夫です!」との言質を得、納得することにした。
確かに、交換してから1カ月ほどたつが、今のところはまったく無問題。過日の五月雨の下でも、何の違和感もなく走ってくれた。しかし、うーむ……。本当に左右逆向きでも問題ないとなると、「そもそもトレッドパターンってなんなのよ?」という哲学的疑問が頭をもたげてくる。この件については、あまり深く考えないようにしよう。
かようにミステリアスなR888Rだが、普段乗っている分にはフツーにいいタイヤである。高速道路で窓を開けていると「みょーん……」というパターンノイズが聞こえるものの、それ以外は至って静か。路面に対する当たりも優しく、意外や乗り心地も快適である。本多氏いわく「トーヨーのSタイヤは比較的サイドウオールがやわらかめ」とのことだったので、その辺りが影響しているのかもしれない。
一方で、転がるごとにミチっと吸い付く感じには、本番で発揮されるだろうグリップ力への期待と、悪化しているに違いない燃費への恐怖がかき立てられる。また、ある程度覚悟しているとはいえ、Sタイヤの宿命であるライフの短さも気になるところ。この辺についても、本連載にておいおいリポートさせていただこうと思う。
まずは次回、本年2度目のオートクロスの会場から、みんなが気になるグリップ性能をリポートさせていただきます。
(webCG ほった)
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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