アウディQ2ファーストエディション(FF/7AT)
クラスを超えた価値がある 2017.07.07 試乗記 アウディのラインナップの中で、最もコンパクトなSUVとなる「Q2」。都会の道からワインディングロードまで走らせてみると、ボディーのサイズにとどまらない、このニューモデルならではの存在意義が見えてきた。SUVでよかった
目の前にシャベルがゴロゴロ転がってきた! 左のレーンを先行して走っていたトラックからゴトンッと落っこちたのだ。そのとき、5月某日の朝、筆者は「アウディQ2ファーストエディション」のステアリングを握って箱根方面を目指していた。場所は首都高速3号線、用賀インターのちょっと手前である。
左のレーンに避けるべきか、それとも急ブレーキを踏んで止まるべきか。2車線の追い越し車線を走る筆者のQ2の背後には観光バスがいた。判断が一瞬遅れた。そんなこと言ったって、急ハンドル切ったらアブナイし、急ブレーキかけたらバスに追突されるかもしれないのだからしようがないじゃないか。
じつのところ、筆者には勝算があった。賢明なる読者諸兄はすでにお気づきのように、アウディQ2は、同じMQBプラットフォームとはいえ、最低地上高が「A3」より35mm高い、180mmもある新しいスポーツ・ユーティリティー・ヴィークルである。路面とボディーとのあいだに18cmも空間があれば、襲ってくるシャベルをまたげるに違いない。じんわり減速して、ゴトンと乗り越えた。思わず目をつむった。目を開けると、ローリング・シャベルは次の標的たる観光バスに襲いかかっていた。シャベルを踏んづけ、何事もなかったように走り続けるバスをルームミラーで確認した筆者は内心、あー、よかった、とつぶやいた。
2016年のジュネーブショーで発表され、ドイツ本国では同年秋から発売の始まったアウディQ2はフツウの乗用車が想定外とする路上の障害物を想定内とするもののように、この危機を文字通り乗り越えた。21世紀に入ってからこのかた、需要がますます高まるSUVは、最低地上高がたっぷりとられている分、予測不可能な未来により柔軟に対応できる。ここに、こんにちにおけるSUVの、ブームというよりはデファクトスタンダード化の一因が隠されているのではあるまいか。
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「Q3」や「A3」よりもキビキビ走る
Q2はこれまで最小だった「Q3」よりもコンパクトなアウディの新しいSUVである。前述したようにフォルクスワーゲングループのMQB、すなわちエンジン横置きプラットフォームを使うわけだけれど、全長×全幅×全高は4200×1795×1530mm(スタンダードモデルの値)と、Q3よりも200mm短くて35mm狭く、45mm低い。2595mmのホイールベースはQ3比10mm短いだけ、ということは事実上同じだけれど、車重は130kgも軽い。
このQ3よりもコンパクトで軽いボディーに、Q2は「Q3 1.4 TFSI」と同じチューンの1.4リッター直噴ターボエンジンを搭載する。最高出力は150ps/5000-6000rpm、最大トルクは250Nm/1500-3500rpm。しかも、組み合わされるSトロニックトランスミッションは、Q3が6段なのに対して7段がおごられている。Q2はQ3の単なる弟分ではなくて、Q3よりもキビキビ走るスポーティーバージョンなのだ。
あいにく筆者は新型Q3に乗ったことがない。そこで、比較的最近テストした「A3 1.4 TFSI」を引き合いに出すと、A3の1.4リッター直噴ターボは同じ気筒休止エンジンでもチューンが異なり、最高出力は122ps、最大トルクは200Nmにおさえられている。低速トルクが控えめ、ターボラグが大きくて、踏むほどにドカンとパワーを生み出す省燃費志向の、実験的ともいえるユニットである。
つまり、SUVであるにもかかわらず、Q2はA3よりもキビキビ走るスポーティーバージョンとして設定されていることが容易に想像できる。実際、Q2はSUVなのにA3の1.4より違和感なくよく走る。そのことを筆者はターンパイク、芦ノ湖スカイラインで確認した。
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フツーに使えるのが長所
足まわりは前がマクファーソンストラット、後ろはマルチリンクではなくて、ゴルフの一番下のモデルと同じトーションビームを使っている。であるのに、A3よりもソフトで、いい路面では滑らかな乗り心地を提供してくれる。最低地上高が高い分、サスペンションストロークがとりやすいSUVの長所を長所として生かしているのだ。
凸凹路面でタイヤのあたりが硬いのは、ファーストエディションの場合、スタンダードの17インチではなくて、ひとまわり大きな18インチを履いているからだ。ファーストエディションにはしかも「S lineパッケージ」が組み込まれていて、S lineの文字があちらこちらに入っているだけではなくて、「スポーツサスペンション」になっている。最低地上高はフツウのQ2より10mm低い(!)。知っていたら、ローリング・シャベルをまたがなかった……。
インテリアはおおむねA3と同じだ。車高がものすごく高いわけではないから、運転感覚はA3とそう変わらない。ルーフは低めながら、さほど気にならないのは逆凹面になっていて、頭が天井にめり込まないようになっているからだ。
ここのところのアウディが新型を出すたびに積極的に採用している「バーチャルコックピット」(標準モデルでは5万円のオプション)がファーストエディションには搭載されていて、メーターナセルに映し出された地図と現実の道路をスクリーンの向こうに眺めながら運転していると、自分はいったい何者なのだろう……という気分になる。現実感が希薄で、AIがドライブしているような心持ちになるのだ。
SUVとしては高速時の風切り音は控えめで、100km/h巡航はいたって平穏だ。ファーストエディションは「アウディドライブセレクト」も標準装備となっていて、ボタン操作ひとつでパワステのアシスト量、エンジン、ギアチェンジのプログラムを変えることができる。ダイナミックにしても足まわりがガチガチにならないのは、電子制御サスペンションがないからだ。SUVながらハンドリングはごくフツーで、山道でも重心の高さが気にならない。フツーにこなすのでフツーに感じてしまうけれど、実はたいしたことなのかもしれない。
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チャレンジ精神が伝わる
八角形になったシングルフレームグリルと、Aピラーの付け根からCピラーの付け根へといたるショルダーラインをスパッと切り落とすようにして生まれたボディーのサイドの六角形の面とラインに象徴されるように、Q2のエクステリアデザインは、これまでアウディが構築してきた機能主義デザインから飛び出して、新しいかたちをつくりだそうというチャレンジングスピリットを示すものだ。
クーペを意識したルーフラインの割には後席の居住空間も十分で、おとな3人が乗れる。ただし、剛性の確保のため、両サイドの敷居が高くて、背もたれは立ち気味で、なんとなく掘りごたつに入っているようではある。
Q2のデザインがデザインとして成功しているかどうか、あるいはより大きなビジネス的成功へと結びつくのかどうか、保守的な筆者にはにわかに判じがたいけれど、保守的なおっさんでもこれだけはいえる。Q2は見た目は新奇だけれど、中身は取り回しがよくて運転しやすく、危機回避能力にもたけた、実用的なコンパクトSUVであって、A3、Q3ともちょっと違った価値観を提示する。トランク容量がQ3、A3スポーツバックより狭いことを除けば、Q2はQ3の下にくるものではないし、A3の下にくるものでもない。
自動車のヒエラルキーを構成するのは、もはやボディーサイズでもエンジンの気筒数でも排気量でも馬力でもない。日本仕様のQ2は1リッターの3気筒ターボを搭載する「1.0 TFSI」から始まるわけだけれど、これの価格が299万円で、「A3スポーツバック1.4 TFSI」の最も安価なモデルの293万円よりも高い。ここ注目です。
テスト車のベースモデルとなる「Q2 1.4 TFSIシリンダーオンデマンド スポーツ」にいたっては車両本体価格405万円で、「ナビゲーションパッケージ」その他のオプションを含むファーストエディションは490万円にもなる。ちなみに、A3の「1.4 TFSIシリンダーオンデマンド スポーツ」は329万円。Q3の「1.4 TFSIシリンダーオンデマンド スポーツ」は386万円で、つまりQ2はQ3、A3より高価な値付けになっているのだ。
Q2は完成してしまったアウディの商品ピラミッドとはまた別に、新しいピラミッドづくりに乗り出したアウディの「脱構築」戦略の第1弾なのである。これを単なるSUVクーペの新商品と見てはインゴルシュタットの真意を読み間違えることになるだろう。
(文=今尾直樹/写真=峰 昌宏/編集=関 顕也/取材協力=河口湖ステラシアター)
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テスト車のデータ
アウディQ2ファーストエディション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4205×1795×1520mm
ホイールベース:2595mm
車重:1340kg
駆動方式:FF
エンジン:1.4リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:150ps(110kW)/5000-6000rpm
最大トルク:250Nm(25.5kgm)/1500-3500rpm
タイヤ:(前)215/50R18 92W /(後)215/50R18 92W(ミシュラン・プライマシー3)
燃費:17.9km/リッター(JC08モード)
価格:490万円/テスト車=490万円
オプション装備:なし ※テスト車「Q2ファーストエディション」の主な装備:オプションカラー(タンゴレッドメタリック)/オートマチックテールゲート/アウディバーチャルコックピット/セーフティパッケージ(アクティブレーンアシスト+トラフィックジャムアシスト+サイドアシスト+リアクロストラフィックアシスト+ハイビームアシスト+プレセンスベーシック)/ナビゲーションパッケージ(MMIナビゲーションシステム+スマートフォンインターフェイス+8スピーカー)/デコラティブパネルフォーマット(アンビエントライティング)+アンビエントライティングステアリング+ホイール3スポークレザー マルチファンクションシフトパドルフラットボトム+S lineパッケージ(S lineステアリングホイールエンブレム+ヘッドライニングブラック+ドアシルトリムS line+ステンレススチールフットペダル+クロス・レザーシートS lineロゴ+S lineエクステリアロゴ+スポーツバンパー+スポーツサスペンション+アルミホイール 5スポークYデザイン 7J×18 215/50R18タイヤ)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:2274km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:323.8km
使用燃料:25.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:13.0km/リッター(満タン法)/13.6km/リッター(車載燃費計計測値)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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