第430回:羊蹄山を望む夏のニセコに幻のレストランが出現!
「DINING OUT NISEKO with LEXUS」でアメージング体験
2017.08.08
エディターから一言
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食を通じて地方の持つ魅力を再発見する野外イベント「DINING OUT(ダイニングアウト)」の第11弾が2017年7月23~24日に北海道ニセコ町で開催された。スキーだけではない、夏のニセコの楽しみ方とは? 斬新な料理の数々とともにその魅力を探ってみた。
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夏のニセコでダイニングアウト
ダイニングアウト第11弾は、北海道はニセコが舞台だ。ニセコといえばスキー。冬にはオーストラリアをはじめ、海外からも多くの観光客が訪れる、国際的な知名度を誇る町だ。
では、北海道のどのあたりに位置するのか。
新千歳空港からニセコ町までは、国道276号線を経由して、北西方面へ約106km。クルマでは2時間~2時間半、東京-山中湖間とほぼ同じだ。東に羊蹄山(1898m)、北にニセコアンヌプリ(1309m)を望む丘陵盆地にあり、町の中央には、2004年に清流日本一に輝いた尻別川が流れ、これに昆布川やニセコアンベツ川などの中小河川が流れ込む。年間平均気温は7.2度、冬には積雪が2mに達することもある。ちなみに、スキー場のある「ニセコアンヌプリ」は、アイヌ語で「切り立った崖(の下を流れる川)がある山」という意味だ。
そんなニセコにも当然夏の顔がある。夏は緑一色だ。羊蹄山も頂上までほぼ緑で埋め尽くされている。1898mという標高は、ちょうど森林限界になるかならないかの高さなのだろう。レジャーの主役は大自然を活かしたアウトドアスポーツだ。登山やトレッキング、ラフティングやカヌー、アスレチックに乗馬など、さまざまなアクティビティーが用意されている。
食料自給率200%を誇る北海道。その豊富な食材を生かした、食もまたニセコの大きな魅力だ。農家戸数は約150戸。主な農作物はじゃがいも、米、メロン、アスパラ、トマト、百合根(ゆりね)、かぼちゃ、豆など。7月下旬の大地には、白い花を咲かせたジャガイモ畑や、収穫を間近に控えたトウモロコシの畑が延々と続いていた。
地元の食材を使い2日間だけ開催された幻のレストラン。今回の料理も楽しみだ。
ニセコの“色”を表現した料理
会場は、右斜め前方に羊蹄山を望む絶景スポット。17時50分、ダイニングアウトのスタートをまるで見計らっていたかのように、頂上にかかっていた雲が切れ、なだらかな緑の稜線(りょうせん)が現れた。独立峰の貫禄、ここにあり、である。
今回、料理の腕を振るうのは、イタリア・ミラノで「Ristorante TOKUYOSHI」のオーナーシェフを務める徳吉洋二シェフ。日本人で最初に本場イタリアでミシュランを獲得した、今、最も注目されているシェフのひとりだ。
テーマは、「羊蹄山が奏でる万物の自然四重奏」。季節ごとに変わるニセコの“色”の美しさを表現したいと、赤や緑、黄に青といった色鮮やかなプレートがテーブルを彩る。
そんな徳吉シェフの料理は、まさに未知との遭遇だった。見た目も食感も奇想天外、「こんなの食べたことない!」の連続だ。
前菜では、かわいらしくて、ユーモアに富んだ作品に心が和んだ。くぎの上にプチトマトや白いイチゴが刺さった「備中鍬(ぐわ)と野菜」、ふわふわとした羊毛が木の棒に巻き付けられた「羊毛」など、食べるだけでなく、目で見て、触って楽しむおかしみがある。
メインも驚きに満ちていた。魚のスタンプの上に墨色のイワシが置かれた「“白と黒” 魚拓」はまさにアートそのものだったし、鮮やかな紫一色のひと皿が登場したときには、少々当惑もした。次に現れた足付きのハトには、突然、命をいただくことの現実を突き付けられ、おびえた。
一皿提供されるたびに、さまざまな感情がわき上がり、4時間も続いたディナーだというのに、まったりとした暇は一瞬もないほど、頭と心はフル回転していた。
ミシュランも認めた味
中でも、3皿目のパスタは忘れがたい。
香りと味は、不思議と杏仁(あんにん)豆腐を思わせた。といっても、甘くはないし、パスタにはしっかりとした噛みごたえがある。シャキシャキとした野菜の歯ごたえと、ねっとりとしたソースが絡み合い、イタリアンでありながら中華っぽくもある、とても複雑な味だ。一緒に添えられたのは、これまた複雑な味のジュース。この味をなんと表現したらよいものか。
「“白の中の白” 百合根とアーモンドのキターラ」と名付けられたこの料理、説明によれば、アーモンドミルクと百合根に、キターラというパスタをあえ、削ったパルミジャーノチーズを振りかけたものだった。その上に、生のアーモンドと塩漬けされた、野生のケイパーの花があしらわれ、提供される直前には、アーモンドフレーバーがスプレーで振りかけられていた。添えられていたのは、青トマトと緑オリーブのコールドプレスジュースだ。
そこで、パスタとジュースを交互に口に運んでみる。まったく違う2品ながら、どちらにもケイパーの風味が感じられたので、この共通の味が2品の仲人として、全体をまとめているように感じられた。
これが、ミシュランも認めた味なのか!
なぜパスタが杏仁豆腐の味なのか、については、食べ終えてからようやく、その正体がアーモンドだと合点がいった。もちろん杏仁とアーモンドは別物だが、家庭で手軽に杏仁豆腐を作る際には、アーモンドエッセンスの手を借りる。すると、ミルク寒天が、簡単にそれっぽくなる。同じアーモンドといっても、炒(い)ったものと、エッセンス化したものとでは、まったく別物で、後者は強い薬品のような香りを発する。
アーモンド風味=杏仁豆腐の味、と表現したのはなんとも素人くさくてシェフには申し訳ない。が、まさかこんな不思議な味のパスタが出てくるなんて! という驚きは、きっと一生忘れることができないだろう、それほど筆者にとっては大きなインパクトがあった。
まさにアメージング体験
徳吉シェフの料理について書き始めるまでには、少々時間を要した。あの夜、出会った料理の一皿一皿を、一体どう表現すべきか、難問を突きつけられたような気がしていたからだ。
そして数日後、ようやくわかったことがある。
徳吉シェフの料理は、もはやおいしいのか、おいしくないのかといった二者択一レベルでは到底語ることのできない、現代アートの域にあるということだ。頭で食べる料理、ともいえるかもしれない。
音楽家は、譜面を読んで過去に生きた作者と対峙(たいじ)し、その性格を知ることができるらしい。
筆者はグルメでもなければ、食のプロでもない。が、料理という分野においても、食べる側から、作り手が何を考え、どう組み立てたのかについて、ひとつひとつ考えながら向き合うことができる、ということを、今回のダイニングアウトで初めて気づかされた。
そして、膝を打った。自分の中の、食に対する新たな扉が開かれたということ、これこそが、レクサスがいうところのアメージングな体験だったのか、と。
ダイニングアウトでは、各回の担当シェフがこのイベントのために考案したレシピを、今後も活用してもらえるよう、地元のレストランなどに公開している。徳吉シェフのレシピも例によって、ニセコの食を守る人たちによって、受け継がれていくのだ。
と書いてきて、ひとつ思いだしたことがある。
もう10年以上も前になるが、撮影で北海道を訪れていたときのことだ。
十勝平野の豊頃(とよころ)で、なだらかな丘陵が続くその先に、とても絵になりそうな風景を見つけた。近くで牛の世話をしていた地元の方に声をかけ、クルマを置き、撮影させてもらっていた。すると、その方がこういった。「俺たちにはこの風景の何がいいのか、よくわからないけどな~」と。地元の方の率直な言葉だ。が、その時の写真がライフスタイル誌の表紙を飾ったのだ。
今、日本の隠れた名所が外国人観光客によって、新たに発掘されているという話をよく耳にする。実は、今回のイベント会場も、英国人フォトグラファーが所有する私有地。24年前に北海道を訪れた際に、このニセコの風景に魅せられたのだという。
普段目にするなにげない風景を、特別と感じるのは難しい。とはいえ、違った見方をすることで新たな発見もあるはずだ。鮮やかなニセコグリーンの夏を満喫するのに、1泊2日では、とても足りない。
(文=スーザン史子/写真=スーザン史子、ワンストーリー)

スーザン史子
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