第18回:トラブル・オン・マンデー
2017.08.17 バイパーほったの ヘビの毒にやられまして![]() |
エンジンの不調にエアコンの故障と、webCGほったの「ダッジ・バイパー」をトラブルの波状攻撃が襲う! 読者諸兄姉の皆さま、これが400万円未満で売られていた、“中古並行・改造歴あり・16年落ち(販売時点)”の輸入スポーツカーのリアルである。
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その熱さ、「ミニ」の比ではない
購入から間もなく10カ月を迎えんとするワタクシのダッジ・バイパーだが、ここにきて過去最大の危機にひんしている。正直言って、記者はけっこう限界である。
いや、お金じゃないですよ? 確かに、一時はタイヤすらまともに換えられない窮地に立たされたが、今はまっとうな勤め人の証しである棒やらナスやらのおかげもあって、どうにか持ち直している。じゃあなにが問題なのかというと、こういうクルマについてまわる、いもづる式のトラブルに頭を抱えているのだ。
コトの始まりはありきたりで、要するにエアコンの不調が発覚したのだ。バイパー購入時には「ついに冷房が効くクルマが……」と感涙にむせいだワタクシだけに、この衝撃はヒザまで効いた。しかし同時に、記者はこともあろうにこの事態を侮った。理由はカンタンで、前のマイカーである「ローバー・ミニ」も空調が壊れていたからだ。「自分には免疫がある。エアコンなしでも“2017年・夏”を乗り越えられるサ」なんて甘く考えていたのだ。しかし現実は甘くなかった。
6月下旬の真夏日のこと、川崎方面へと鶴川街道をトコトコ走っていたところ、まずはナビアプリを起動していたスマホが熱暴走。道に迷って右往左往していたら、今度は記者の脳みそが熱暴走。キモチが悪くなり、慌てて最寄りのコンビニに駆け込んだ次第である。ポカリスエットの2リッターボトルをがぶ飲みしながら、記者は己のうかつさを呪った。冷静に考えたら、「エアコンの壊れたバイパー」の危険度なんて、子供でも想像がつくというものだろう。なにせ、圧巻の熱量を誇る8リッターV10がバルクヘッドにめり込み、巨大なトランスミッションがキャビン中央に居座り、サイドシルには激熱のエキゾーストパイプが通っているのだ。車内はさながらキッチンの魚焼きグリルである。
これはたまらん。こんなんで夏を満喫していたら、例え話じゃなくてホントに死ぬ。そう実感した記者は、慌てて相模原の主治医のもとに電話を入れた。そして同時に、かねての悩みの種だったエンジンチェックランプの点灯についても直してらうことにしたのだ。
エアコン修理で60万円……
お恥ずかしながら白状させていただくと、記者のバイパーは購入時からエンジンチェックランプが点灯していた。そして皆さんご存じの通り、2017年2月よりエアバッグやブレーキ、エンジンなどの警告灯がついているクルマは、車検に通らなくなったのだ。もちろん、わがバイパーも例外ではない。
そうでなくとも、そもそも警告灯がついているというのはあまり気持ちのいいコトではないし、ホントに深刻な不調を抱えている場合だってある。問題の解消を考えた記者は、お世話になっているクルマ屋さんに一度診察してもらっていたのだ。そして、原因とおぼしきO2センサーの交換を依頼していたのである。
次にエアコンであるが、こちらについてはハナっからホンキの修理なんて考えちゃいない。冷媒ガスの充てんだけで済ますつもりでいた。理由はもちろん、金である。わがバイパーの場合、ガスの充てんにかかる費用は1万5000円くらい。これが修理となれば、軽い手当てでもウン万円は下らず、まるごとごっそり交換となればよもやの60万円コース(!)だとか。今回お世話になったメカさんも、「毎年ガスを入れるんだったら直した方がいいけれど、2年に1度くらいなら、ガスの充てんで済ませた方がいい」とのことだった。
実際、記者のまわりの貧乏フレンズにも、律義に「エアコンを修理しました」なんて男はいない。最近になって初めて、豪傑・田村 弥カメラマンから「ボクはハチロクのエアコン、総直ししましたけどね」という話を聞いたくらいである。
「O2センサーの交換と、冷媒ガスの充てん。まあ半日で終わるかな」
記者はそんな風にタカをくくっていた。そして毎度のコトながら、そうは問屋が卸さなかったのである。
改造の有無で整備の難易度は激変する
O2センサーを交換しようと排気管の取り回しをのぞき込んでいたメカさんが言った。
「このクルマ、ヘダース替えてますね。社外品が付いてる」
記者は「おや?」と思った。ヘダースというのは、アメ車用語でいわゆるタコ足のこと。メールの記録を掘り返してみると、バイパーを購入した自動車販売店の説明では、「外装以外の改造点はサスペンションとマフラーのみ」とのことだったが、これはいかに?
もっとも、この時問題となったのはヘダースが社外品だったことではない。それにより、O2センサーがおかしな方向に取り付けられていたことである。
たいていの場合、ここ(触媒の手前)のO2センサーは排気管に対して横向き、もしくは下向きに取り付けられている。車体をジャッキアップして、下から点検・交換しやすくするためだ。しかし、わがバイパーのセンサーはなぜか上向きに、エンジンルームのあれやこれやに隠されるように生えていたのだ。これでは、よほど腕が細長い人でなければ手が届かないし、届いたところでレンチをキコキコ動かすスペースがない。センサー交換の作業の前に、作業スペースを確保するための作業が必要となったのだ。うーん、ややこしい。
まずは、ジャッキアップしたバイパーのホイールハウスからアルミ製の遮風板を外し、O2センサーの周辺に空間を確保する。次いでバイパーを下におろし、横からセンサーにアクセスする方法を探る。ラチェットハンドルの先にさまざまな種類のソケットを取り付けては、それでセンサーの六角部分をつかみ、脱着できるかを試すのだ。トライ&エラーを繰り返しながら適切な工具の組み合わせを探るさまは、傍(はた)から見ていると難解なパズルを解いているようでもあり、ようやくもろもろの隙間から古いセンサーが現れたときには、思わず拍手が出た。
しかし、作業はまだまだ始まったばかり。逆の手順で新しいO2センサーを取り付けなければならないし、反対側のヘダースにはもうひとつのセンサーが待ち構えている。メカさんいわく「手順さえつかめれば、あとは同じことを繰り返すだけだから簡単」とのことだったが、素人目には到底そうは思えなかった。つくづく、メカニックはせっかちには向かないお仕事である。
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次々に露見する不備・不調
こうして新しいO2センサーが装着されたわがバイパーであるが、それで晴れてハッピーエンドとはいかなかった。センサーの交換後、テスターでエンジンの様子を見ていたメカさんが言った。
「このクルマ、エンジンの片バンクが排気もれしてますね。エンジンを回すとカンカン言うでしょう?」
なぬ?
……確かに、耳を澄ますとエンジンのサウンドとともに、かすかにカンカンと音が聞こえてくる。
「この音、実は“カ”は排気がもれる音で、“ン”は外の空気を吸っている音なんです。排気もれでは、排ガスが外にもれるのも問題だけど、排気管が外の空気(=酸素)を吸い込んじゃうのも問題なんですよ。それでO2センサーが『排ガスに酸素が残ってる。燃料が薄いのか』と判断して、やたら燃料を濃くしてしまうんです。このクルマ、エンジンがかぶり気味じゃないですか?」
言われるとそうかも。
「このバイパーはヘダースのまわりに遮熱板が付いているから、外から見ただけではどこから排気もれしているのかわかりませんね。ヘダースなのかガスケットなのか。次の機会に調べてみましょう」
次の機会……。
「今回の入庫でキレイに完治!」なんて甘く考えていた記者は、すっかり意気消沈してしまった。
しかし、悲劇はまだこれだけではなかった。
O2センサーの交換を終え、エアコンのガス充てんにとりかかっていたメカさんが、おもむろにヒューズボックスを開けた。おかしい。そこはガスの充てんとは関係のない場所ではないのか!?
バイパーのキーを回したり、ヒューズを差したり外したりしながら、電流計でなにかを調べるメカさん。ついには「悲しいお知らせがあるかもしれません」という不吉な言葉を残し、サービスマニュアルを読みに奥に引っ込んでしまった。
原因はまさかの電気系トラブル
程なくしてガレージに戻ってきたメカさんは、もう一度電気の流れを確かめてから、わがバイパーの症状をつぶさに語り始めた。
「コンプレッサーが回っていません。厳密に言うと、エンジンが回っている時だけ、コンプレッサーを動かすためのクラッチをつなぐことができません」
説明しよう(泣)。
皆さんもご存じの通り、カーエアコンのコンプレッサーはエンジンの力を借りて動いており、エアコンのオン・オフにしたがって動力を伝達・遮断するためのクラッチが備わっている。で、記者のバイパーの場合、エンジンが回っていない状態ではこのクラッチをつなぐことができるのだが、エンジンが回っている状態ではつなぐことができないのだ。メカさんの説明によると、「エンジンを回した時だけ、なぜかアース側からも回路に電流が流れ、クラッチを動かすための電流を相殺してしまう」とのこと。わが相方のエアコン不調は、エアコンユニットの問題ではなく(それもあるかもしれないけど)、電気系のトラブルだったのだ。
電気系のトラブル。
多少なりとも自動車に詳しい方なら、この言葉がいかに厄介な症状をさすかお分かりいただけるだろう。直すためには、その回路の端から端まで、順繰り配線を調べていくしかない。すぐに問題の箇所に当たればいいが、そうでないなら手間も時間もエラいことになる。
いずれにせよ、今回の“1日入院”ではエアコンを直すには至らず。記者は先ほどの排気もれの件も含め、次回の来院(今度は長期入院になりそう)の予約を済ませてトボトボとお店を後にしたのだった。
こんなトラブル、涼しいもんよ(と自分に言い聞かせる)
しかし、しかし、それでもまだなお悲劇は終わらなかった。
お店を出て、編集部に戻ろうと国道16号を横浜町田ICへ向かっていたところ、まさかのエンジンチェックランプ“復活”。さらには後日、かつてないほどに燃調が濃くなり、お出掛けを中断して自宅に引き返すという事態に陥ったのだ。マフラーからアフターファイアをまき散らし、ぶすんぶすん言いながらぎくしゃく走るバイパーの車内で、記者はメッタメタにのされていた。
修理するごとに次なる問題が発覚し、新しい病状が現れる。
かつて記者は、中古並行・改造歴あり・今年で17年落ちの相方を「トリプル役満みたいなクルマ」と表したことがある。決して侮っていたわけではないのだが、それでもやはり、認識が甘かったと言わざるを得ないだろう。
読者諸兄姉の皆さま、これが400万円未満で売られる“スーパーカー”だか“エキゾチックカー”だかの現実である。編集部の同僚である折戸青年の言葉を借りると、これは闇が深すぎる……。
……しかしである。
記者はプレイがハードなほどに心が燃える真性のMであり、また「ココロに常に反骨を」を旨とする不撓不屈の独身男児である。そもそも、前のミニだってまさに土に還らんとする個体を10年にわたり、最後は“ニコイチ”ならぬ“サンコイチ”にしてまで維持し続けたではないか。この程度のトラブルなんぞ、『俳優 亀岡拓次』に出演していた麻生久美子と同じぐらいかわいいモンである。
次回はぜひ、読者諸兄姉に完治したバイパーの姿をお見せしたいと思う。……まあ、お金が足りればの話ですけど。
(webCG ほった)
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。