ランドローバー・レンジローバー ヴェラール ファーストエディション(4WD/8AT)
スポーツクーペより優雅に 2017.09.02 試乗記 「レンジローバー」ファミリーに新たに4番目のモデルが追加された。その名は「ヴェラール」。優雅なスタイリングが自慢のニューフェイスの“フィジカル”を、ノルウェーのオンロードとオフロードで試した。スタイリングに一目ぼれ
筆者は基本的に、背の高いクルマを好まない。“低過ぎるクルマ”、スーパーカーやスポーツカーなどが好きだ、という個人的な嗜好(しこう)以上に、ミニバンやSUVのデザイン的な表現力の乏しさと、そういうクルマたちがあふれる駐車場の光景に、辟易(へきえき)としているからだ。
ミニバンなら「クライスラー・ボイジャー」や「ルノー・エスパス」で基本シルエットの構築は終わっているし、SUVならいまだにメルセデス・ベンツの「ゲレンデ」か初代「レンジローバー」にトドメを刺す。以降のモデルは、基本的に角を丸めたり落としたり、マスクやディテールに凝って目をそらしてみせたりと、創造力豊かなデザイン進化をみせているとは思えなかった。友人がミニバンなりSUVを買って、筆者を後ろの席に乗せてくれるといった利便性以外に、特別な価値、つまり自分で買う動機となるような何か、を見いだせずにいたのだ。
そんな筆者が、スーパーカーの新作披露会を目当てに毎年通う今年のジュネーブショーにおいて、想定外に歩みを止めて、飽きずに眺めた1台のSUVがあった。
それが、このレンジローバー ヴェラールだ。英国人の発音を聞いていると、ヴェラ~(~は舌を巻いている)としか聞こえないが、それはともかく、ブースのど真ん中にルーフを見せつけるよう傾けて展示されていたヴェラールの姿に、ヒトメボレした。
2ボックス形状のSUVが、これほど美しく見えたことなど、いまだかつてないこと。シンプルな面の構成、余計なキャラクターラインが入らず、かすかに丸みを帯びたまま後方へと潔く伸びてゆくその肢体は、昨今の“ウオッチ・ミー・アップ”なスポーツクーペよりも断然になまめかしく、優雅でさえある。それでいて、ちゃっかりレンジローバーのヘリテージを盛り込んだ。なにしろ、その名は初代レンジのプロトタイプに由来する。
これなら、積極的に乗ってみたい。SUVを買う必要に迫られていたならば、第一の候補になりうる。そう思ったものだった。
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“目に静か”なダッシュボード
そんなジュネーブから、およそ5カ月が過ぎたころ、筆者はノルウェーのとあるホテルに置かれたヴェラールのファーストエディションを眺めていた。時間がたっても、ヴェラールへの思いの丈は、いささかも変わらない。自然光のもとで見るヴェラールは、きらびやかなショー会場の中よりも、いっそう洗練されたように映る。緑の山と伝統的な北欧の建物を背景に、実にすんなりと、落ち着きはらって、自己主張する。このクルマなら、モダンな都市景観から京都のような古都まで、どこに置いたって、昨今の国産車デザインのように街の雰囲気を壊すことなどきっとあるまい。そう確信した。
外観だけじゃない。ナカもいい。なにしろ、エンジンを掛ける前は、断捨離(だんしゃり)の済んだリビングルームのように“目に静か”だ。昨今のダッシュボードまわりは、とにかくやたらと細かな文字や数字や図形が散乱していて、本当にきぜわしい。その気配を、せめてエンジンを止めている間くらいはなくしておこうという、レンジローバーの新世代インテリアにまずは共感する。
新たなマテリアルにも挑戦していた。世界屈指のテキスタイルメーカーであるデンマークのクヴァドラ社による、リサイクル素材とウールを織り込んだしゃれたシート用布地だ。試乗車にはなかったが、ランチポイントに飾ってあった個体に、その内装が装備されていた。高品質なレザーもいいが、時代のはやりは断然、コチラだろう。
ボディーはDセグメントのはずだが……
試乗車は、日本で1500万円以上(!)もするファーストエディション。フルオプションの贅沢仕様で、デビュー後1年間のみ設定されるというトップグレードだ。「P380」と呼ばれる、おなじみ、380psの3リッターV6スーパーチャージドユニットを積む。
スライディングルーフを備えブラックアウトされたコントラストルーフと、22インチのダイヤモンドターンフィニッシュホイールが見た目の主な特徴で、シンプルな造形にそういった演出がいっそう映えてみえた。ちなみに、ファーストエディションでは、SVO(スペシャル・ビークル・オペレーション)による特別なサテンフィニッシュペイントを選ぶこともできる。
全幅は2mとかなりワイドで、シンプルなライン構成ゆえ、はた目にも大きく見えるが、実際には全長5m以下だから、Dセグメントサルーンと同程度のはず。とはいえ、いざ乗り込んでみれば、やっぱり大きさを感じてしまう。兄貴分と同じ水平基調で、レザー面を広々と強調するダッシュボードデザインによるところが大きいのかもしれない。
走りだしてみれば、しばらくの間、車幅感覚をつかむのに苦労した。もう少し道端寄りに走っても大丈夫だよ、とは、助手席からのアドバイス。目の前に広がる光景が、どこをどう見ても“レンジローバー”なので、実際よりも大きなクルマを駆っている印象がつきまとい、どうしてもセンターライン寄りに走ってしまう。実際にはそれほど大きくないらしいぞ、と気づくまで、およそ半時間かかった。
そういえば、前を走るヴェラールを見ていると、オシリはそんなに大きくない。後方に向いてルーフやバンパーを絞ったデザイン、ということもあるけれど、車線をめいっぱい使ってしまうほど幅のあるクルマでないことは、一目瞭然だ。
レンジローバーの名に恥じぬ走破性
期待いっぱいで乗り込んでみて、車幅感覚以上に気になってしまったのは、(レンジファミリーとしては)意外にも乗り心地だった。22インチタイヤということもあってか、極上のライドフィールとはいえない。特によく使う速度域、50km/hあたりで、硬いホイールの存在を必要以上に感じてしまう。ゴツゴツするとまではいえないし、バタバタしているわけでもないのだけれど、丸く硬いものの上で走っているような感触が確かに伝わってきた。
とはいえ、市街地を出て、順調に速度を上げていくと、それまでの“硬さ”もじわじわと緩み始め、カントリーロードを80km/hあたりで走りだすころには、とうとう、いかにもレンジローバーらしい深みのある乗り心地に変わっていた。
ところで、ファーストエディションには標準でテレインレスポンス2が備わる。これは、路面環境に応じてベストな走行性能を実現するもので、試乗会では各種オフロードも試せたが、驚いたのは非常に滑りやすいグラベル路面での制御の素晴らしさだった。
コンテストさながらの悪路を走破することなど、レンジローバーもしくはランドローバーと名乗るクルマなら、当然のごとく、ハイレベルにこなせて不思議じゃない。実際、用意されたさまざまなステージでは、兄貴分に負けない走破性を見せつけた。
けれども筆者が最も感動したのは、アスファルトに砂をまいたような路面を、グラス/グラベル/スノー・モードで走ったときのこと。滑っている感じがまるでなく、一般舗装路と同じ感覚でドライブできる! アクセルコントロールと前後左右の駆動力制御が非常にきめ細やかに行われていた。
オンロードでは、テレインレスポンス2のみに備わるオートモードで走るのがベストだ。優秀なトルクベクタリングのおかげで、ワインディングロードも気持ちよくこなす。ちなみに、各種運転支援の制御は、まだまだ稚拙だった。特にレーンキープアシストと追従時のブレーキ制御には改良の余地がある。
V6スーパーチャージドユニットのパワーは、確かに十分ではあるけれど、できればもう少しトルクが欲しい。ここイッパツの加速がモノ足りなかった。やはり、このクルマにも、6気筒ディーゼルがお似合い、ということだろうか……。
(文=西川 淳/写真=ジャガー・ランドローバー/編集=竹下元太郎)
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テスト車のデータ
ランドローバー・レンジローバー ヴェラール ファーストエディション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4803×2032×1665mm
ホイールベース:2874mm
車重:1884kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ スーパーチャージャー付き
トランスミッション:8段AT
最高出力:380ps(280kW)/6500rpm
最大トルク:450Nm(45.9kgm)/3500-5000rpm
タイヤ:(前)265/40R22 106Y XL/(後)265/40R22 106Y XL(コンチネンタル・クロスコンタクト LXスポーツ)
燃費:9.4リッター/100km(約10.6km/リッター 欧州複合サイクル)
価格:1526万円/テスト車=--円
オプション装備:--
※諸元は欧州仕様のもの。車両価格は日本市場でのもの。
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

西川 淳
自動車ライター。永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。