第517回:これは意外? それとも当然?
ヒット曲の自動車ブランド引用ランキング
2017.09.01
マッキナ あらモーダ!
コニャックよりもロールス・ロイス
ヒット曲の歌詞に登場するブランドで、最も頻度が高いのは?――そんな興味深い調査結果を、アメリカのブルームバーグが2017年8月18日に発表した。
2014年5月から2017年5月までに「ビルボード・ホット100」の20位以内にランクインした楽曲の歌詞を分析。登場するブランドや製品を数えたものだ。同じ曲に複数回出た場合は、1回しかカウントしていない。
調査した280曲には212のブランド名が含まれていた。ジャンル別には、自動車、モード、テレビ、映画、テクノロジー、アルコール、といったものが見受けられた。
中でも、上位12ブランドのうち8ブランドを占めたのは自動車で、1位はロールス・ロイスだった。
以下は結果のランキングと、歌詞に登場した回数である。
・1位:ロールス・ロイス(11回)
・2位:フェラーリ(9回)
・3位:ヘネシー<酒類>(7回)
・3位:ポルシェ(7回)
・5位:シボレー(6回)
・5位:ランボルギーニ(6回)
・7位:ベントレー(5回)
・7位:キャデラック(5回)
・7位:ジョーダン<スニーカー>(5回)
・7位:メルセデス・ベンツ(5回)
・7位:ロレックス<時計>(5回)
・7位:ソラナックス<薬品>(5回)
ロールス・ロイスは、同じ自動車ブランドであるフェラーリやポルシェ、さらにコニャックのヘネシーや時計のロレックスを引き離してトップに輝いた。
ちなみにロールス・ロイスが歌詞に登場したのは、フューチャー(ラッパー)、ザ・ウィークエンド(R&B)、コダック・ブラック(R&B)などの作品だった。
この結果にロールス・ロイスも好意的だ。同ブランドの広報担当ジェリー・スパーン氏は、「(ロールス・ロイスが)ラグジュアリーの代名詞として使われるのは、ロールス・ロイスブランドへの貢献となる」とコメントしている。またスパーン氏は、音楽とロールス・ロイスに関連して、「顧客の約20%が有名人やミュージシャンであるという事実も、ロールス・ロイスの販売のうえで強力な武器となっている」という情報も明らかにしている。
意外に少ないキャデラック
調査対象がビルボード・ホット100ということで、「やはり上位はキャデラックあたりだろう」とボクは勝手に想像していたものの、それはロールス・ロイスの半分以下にとどまった。
たしかに今日、米国でキャデラックといえば、「XT5」「エスカレード」といったクロスオーバーやSUVのイメージが強まっている。人々に「フリートウッド」「エルドラード」といったエルヴィス・プレスリーが似合うフルサイズを想起させる時代は、もはや過去のものとなったのだろう。
筆者が思うに今回の結果は、ロールス・ロイスがラグジュアリーの永遠の代名詞であり、成功者の象徴として五大陸共通のアイコンであることを物語っている。
クルマ好きの視点からいえば、ロールス・ロイスはメルセデス・ベンツやポルシェのように、同じブランド内でより広い層を狙ったモデルやバリエーションを持つことなく、ひたすらハイエンド路線を貫いてきたことも奏功している。
知名度の割に街角で見かける頻度が極端に低いことも、ロールス・ロイスのプレミアム性をブーストしているに違いない。
「クルマの歌」に100年の歴史あり
自動車のCMソングではなく、自動車ブランドが歌詞に挿入された超初期の例として、1905年の米国のポピュラーソング『イン・マイ・メリー・オールズモビル』がある。
当時のオールズモビルといえば、アッセンブリーラインを用いた世界初の量産車として1901年に誕生した「カーブドダッシュ」である。
イン・マイ・メリー・オールズモビルがリリースされたのは、その4年後ということになる。クルマを手に入れた若者ジョニーと、ガールフレンドのルシールを描いたものだ。繰り返し部分の「ルシール、僕と一緒においで。すてきなオールズモビルで」をはじめ、たびたびオールズモビルという言葉が盛り込まれている。
この歌は第2次大戦後、メーカーであるゼネラルモーターズが「星のようなパフォーマンス。ロケット・エンジン!」という歌詞に変え、CMソングとして長年使った。
星野哲郎作詞で1964年に小林 旭がリリースした『自動車ショー歌』という特異な例外はあるものの、日本ではスポンサーへの配慮、またブランド名を所有する会社とのトラブルを避けるため、クルマに限らず商標を歌詞に盛り込むことは敬遠されてきた。荒井由実による1975年の『COBALT HOUR』も、「ベレットGT」というフルネームではなく「白いベレG」に留めている。
だが皆無ではない。阿木燿子作詞で1978年に山口百恵が歌った『プレイバックPart2』の歌い出しは、ご存じ「緑の中を走り抜けてく真紅(まっか)なポルシェ」である。今も日本のポルシェオーナーの中には、他人には恥ずかしくて言えなくとも、ステアリングを握りながらこの曲を口ずさむおじさんが存在するに違いない。
もはや「剣さん」しかない!
山口百恵の真紅なポルシェ対して、谷村新司の作詞および歌で1978年にリリースされた『昴‐すばる‐』は、ウイスキーのCMに用いられていたものの、当時多くの人がクルマのCMソングだと誤解していたのを記憶している。
「レオーネ スイングバック」や「ファミリー レックス オートクラッチ」の販売にどこまで貢献したかデータは存在しないが、富士重工業(当時)にとっては、ちょっとした棚からボタ餅だったろう。
一方、筆者が記憶している範囲で、最後に自動車がポジティブな対象物として登場したジャパニーズ・ポップスは、1992年の『私がオバさんになっても』(作詞・歌:森高千里)である。
「オープンカーの屋根はずして かっこ良く走ってよ」というフレーズがある。「はずして」というところからして、ソフトトップでなくハードトップ? 外す役の男は、それなりに力持ちだったのだろうか、それとも女に手伝わせたのか。そんなくだらない突っ込みはともかく、この後における日本の大ヒット曲で、クルマがかっこよく取り上げられた覚えがない。
そのフラストレーションを見事に消し去ってくれるのが、「ベレット1600GT」を堂々とそのままタイトルにし、『シャリマール』で初期型「ジェミニ」から「スタンザ」「ホーミー」まで昭和な車種名を連発する、横山 剣率いる「クレイジーケンバンド」、というわけだが。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/編集=関 顕也)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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