第57回:激安エリート特急の大勝利(たぶん)
2017.09.05 カーマニア人間国宝への道激安店の人情紙の如し
降り注ぐさまざまなマイナス要素を、支払総額の安さで振り払い、私は激安中古「320d」の購入を決めた。本当にさまざまな思いが頭をよぎったが、結局決断に要した時間は30分程度であった。安さの威力恐るべし。
しかし気は抜けなかった。なにしろ人生で初めて、信頼できない気がするお店から中古車を買うのだ。
車検取得を含め納車まで約2週間。その間お店からの連絡は皆無であった。私は不安にかられて(?)、2万円という法外な手数料をはねのけ、希望ナンバーも追加で依頼した。番号は「820」。ハニワである。癒やし感満点のハニワが好きなので……。激安車の購入が平和裏に完結しますように、という願いを込めて。
ある日、見知らぬ番号から着信があった。私は無視していたが、2日後、それが例のお店からのものであることに気付いた。
コールバックしてみると、納車準備が整っているという。
敵はなんと、納車のお知らせすら再コールせず、2日間放置であった。さすが激安店……。人情紙の如し。キレ者だと思った責任者氏だが、紙切れだったか。そのビジネス戦略は多少詰めが甘いらしい。
ファーストインプレッションは上々
いよいよ納車日。
雨の中お店に行くと、我が愛車が雨にぬれていた。いや、雨なのだから雨にぬれているのはいいのだが、タイヤワックスが塗ってないのが気になる。8万円のボディーコーティングは高すぎるので3万円のピカピカプランを頼んだのだが、ピカピカプランにはタイヤワックスは含まれていないのか……。
いや、タイヤワックスなんか家に戻ればいっぱいあるので問題はないのだが、クルマって、タイヤが黒々としてるのとしてないのじゃ、見栄えが結構違うでしょ? 納車時には大事なポイントっしょ? 返す返すも責任者氏のビジネス戦略は詰めが甘い……。
というような小さな不満はあったものの、なにしろ5年前から憧れ続けた320dを、激安で手に入れたのだ。ヤッター!
もちろん気は抜けない。保証は皆無に等しい。納車日にATがブチ壊れても泣くしかない。どうか壊れませんように……。
帰路、ファーストインプレッションは上々だった。
さすが憧れの320d、エンジンはトルク豊かで足まわりはしなやか。まさにエリートの乗り物だ。
が、微妙に足が固い。ポンポン跳ねる挙動が強い。タイヤ空気圧だろうか?
帰宅して計ると、エアゲージは2.8を示していた。指定は2.0。タイヤワックスは塗らないが、空気はタダなので、たっぷりサービスしてくれたようだ。
それでも不満点はタイヤワックスとタイヤ空気圧だけ。ピカピカプランでボディーはピカピカ! ガラスも雨をはじきまくる。運転席の汚れもキレイになっていた。自分でタイヤワックスを噴きつければ、もうほとんど新車じゃん!
故障しなければ大勝利!
BMWは初めてじゃないが、以前のスーパーエリート号は7年落ち6万2000km だった。今回のは3年落ちの現行モデルだ。この格別なエリート感!
「俺もここまで来たか……」
思わずそうひとりごちてしまった。
某誌のアンケート調査によると、日本人の憧れのクルマブランド・ナンバーワンは、ブッチギリでBMWだというが、こうしてほとんど新車のBMWを新車の6割引きで手に入れると、その理由がよくわかる。
BMWはクールでスマートで重厚でスポーティー。加えて使い勝手もいい。デキる男の特性をすべて備えているのだ! そりゃモテるわな。さすがBMW。
初めてのロングドライブは、夢のラクチン特急だった。
高速巡航におけるこの重厚なステアリングフィール。電動パワステカルカルでフラフラしっぱなしだったスーパー節約号こと「ランチア・デルタ1.6マルチジェット」とは雲泥の差!
めっちゃラクっす!
加えて夢のACCが、緻密な制御で期待通りの働きをしてくれる。さすがイスラエルが誇るモービルアイ社製の単眼カメラ搭載! まるで特急列車に乗ってるみたい!
その時、我がマシンにふさわしい愛称が頭に浮かんだ。“エリート特急”である。
たとえ定冠詞に“激安”がついたとしても、コイツは間違いなくエリート特急だ! 激安でも性能は変わらず! ならば激安の大勝利! 故障しなければですが。
(文=清水草一/写真=清水草一、池之平昌信/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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