ポルシェ・パナメーラ(FR/8AT)
“素”の魅力 2017.09.14 試乗記 3リッターV6ターボエンジンを搭載する「ポルシェ・パナメーラ」のベーシックモデルに試乗。とかくパワーとスピードで語られがちな高性能サルーンの世界ではあるが、“素”のパナメーラを見くびってはいけない! そこには他のグレードでは味わえない、独自のバランスがあったからだ。威厳ある乗り心地
2016年に第2世代へとバトンをつないだパナメーラ。シュトゥットガルトの紋章を冠するにふさわしい運動性能と、これがもたらすプレステージ性を両輪に据え、そのバリエーションを意欲的に拡大し続ける“ポルシェの4シーターサルーン”である。そして今回は、その最もベーシックなグレードである3リッターV6ターボ(330ps)に試乗した。
この手のウルトラ・ハイパフォーマンスカーは、常にその先進性と“化け物具合”にまず注目されることが宿命であり、こうしたベーシックモデルはマニアな存在となりがちだが、果たしてその実態はどうなのか? ちなみに筆者はパナメーラの国際試乗会で「4S」と「ターボ」を試した経験があるから、そのあたりも踏まえてこれを見てみようと思う。
パナメーラの乗り味で支配的なのは、その圧倒的に高いボディー剛性を土台に繰り広げられる、エアサスペンションの究極的な乗り心地と追従性だ。それはこのクルマを動かして、路面の継ぎ目をひとつクリアしただけでハッキリとわかる。その足まわりは、金属バネにはないエアサス特有の縮み感によって、妥協のない快適性を披露しながらも、ダンパーが一発でその振幅をダンピングして、あくまでスポーツサルーンとしての、いやポルシェのスポーツサルーンとしての乗り心地というものを、ブレずに提供する。
その時に発せられるバネ下の様子をあえて文字に直してみれば、「ドッ」「ドッ」という低い音。前輪と後輪が突起を乗り越える感覚が狭まればそれは、「ドドッ」となる。もはやコンフォートというよりも、威厳。それが結果的に、エグゼクティブ感をくすぐる心地よさへと昇華されていく。筆者のような庶民にとっては「偉くなったような気持ち」になれる乗り心地であり、パナメーラを手にできるような層にとっては、ちょっとSッ気がかき立てられるような乗り心地ではないだろうか。
このシャシーにこそ価値がある
そしてこれをフィット感の高いレザーシートに座りながら、律義過ぎるほどに取り付け剛性が高いステアリングで操ると、全長5m余りのサイズを持つボディーが従順に向きを変える。そこには奇をてらった俊敏性など一切なく、ハンドルを切れば切っただけ動こうとするリニアリティーがある。ロールはとても少なく、フロントからサイドへと移り変わるGの変遷が、極めて上質だ。
このハンドリングの素直さは、ノーズに収めるパワーユニットがV8ツインターボでも変わらなかったのを思い出す。つまりそれだけパナメーラは、シャシー側で動きを制御しきっているのだろう。ここには3チャンバーを持つ大容量のエアサスも当然効果を発揮しているはずだが、2950mmというホイールベースによる安定性をベースに、前後のロールセンターを結ぶロール軸も巧みな角度とされているのだと思う。
またアンダーステアを相殺するトルクベクタリング・コントロールなどの電子制御を乗り手に悟らせないようにしつけている様子も、サルーンというにふさわしい。正直、このシャシーに乗れるだけでパナメーラにはひとつの価値があると思う。
「メルセデス・ベンツSクラス」のような社交性を有しつつ、その身のこなしにはドライバーズカーとしての高いフィット感を常に感じていたい。そんな若い心を持つドライバーにとって、パナメーラは最高のパートナーになり得る。
もう少しパンチが欲しい
だからこそ悩ましいのは、そのフロントに搭載される3リッターV6ターボユニットの存在意義だ。というのもこの鉄壁のシャシー性能は、330psというパワーをまるっと飲み込んでしまうのである。誤解されないように言うが、筆者はクルマに対してパワーを求めるタイプではない。それでもこのパナメーラの加速には、少々戸惑った。エンジンとPDKの制御が先鋭化する「SPORT」モードでアクセルをフラットアウトしても、ブーストの掛かりは控えめで、その加速感はやや眠たいのである。
もちろんこれを踏み続ければ8速のギアリングが上手に速度を乗せて、日本の道路環境を無理なく走ることはたやすい。しかしもし自分がパナメーラのオーナーであったなら、ふいに訪れた加速を要求する場面で、きっちりとした“出足”と“パンチ”が得られないのはとても残念だ。
われわれには、ドイツのようにこの“素パナメーラ”の性能を存分に引き出せる場所がない。だからアクセルを踏み続けて3リッターでも伸びやかな加速を得ることができず、刹那的な加速を、モラルとのバランスでどう使いこなすかが、この手のプレミアムカーには大切になってくるのではないかと思う。
ちなみに、440ps/550Nmを生み出す2.9リッターV6ツインターボエンジン搭載のパナメーラ4Sには、これがあった。たとえパナメーラ ターボは買えなくとも、「オレはこれで十分幸せ!」と胸を張れる、シャシー性能とエンジンパワーの素晴らしい融合があった。
だからドイツ以外の国で売るのなら、4Sをベーシックモデルとした方が、パナメーラの魅力が際立つのではないか? そう一瞬考えたが、1628万円からをスターティングプライスとするのはやはり乱暴かもしれない。逆に言うと、ベーシックなパナメーラは1162万円と「911カレラ」より安い。いわばこれは、富裕層にとってのお買い得モデルである。
あざとい戦略!?
パナメーラが狙う購買層を聞いたとき、ポルシェは「生活環境の事情で、911を持てない富裕層」というような回答をした。それはまだ子供たちも小さく、スポーツカーだけでは何かと不便だけれど、どうしてもポルシェに乗りたいヤングエグゼクティブというイメージだろうか。
そう思うとベーシックなパナメーラには、ひとつの確固たる役目があるように思えた。SUVが全盛の世の中にあってもポルシェは、911で培った走りを多くの人々に提供しようとしているのであろう。だからこそ、ベーシックなパナメーラと4Sとの間に、ここまで性能と価格の面で差をつけるポルシェのやり方はちょっとばかり憎たらしい。
もしボクが“素パナメーラ”を手に入れたら、ロムチューンして4Sばりに速くしてやろう! なんて、子供っぽくひとりごとをつぶやいた試乗であった。
(文=山田弘樹/写真=荒川正幸/編集=竹下元太郎)
テスト車のデータ
ポルシェ・パナメーラ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5049×1937×1423mm
ホイールベース:2950mm
車重:1815kg(DIN)
駆動方式:FR
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:330ps(243kW)/5400-6400rpm
最大トルク:450Nm(45.9kgm)/1340-4900rpm
タイヤ:(前)265/45ZR19 105Y XL/(後)295/40ZR19 108Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツ4)
燃費:7.6-7.5リッター/100km(約13.2-13.3km/リッター、欧州複合モード)
価格:1162万円/テスト車=1366万5000円
オプション装備:
PASM付きアダプティブ・エアサスペンション(0円)/サラウンドビュー付きパークアシスト(13万4000円)/リアワイパー(6万3000円)/メモリー機能付き電動シート<前席>(27万2000円)/ナイト・アシスト(42万4000円)/LEDマトリックス・ヘッドライト<PDLS Plusを含む>(36万6000円)/レーン・チェンジ・アシスト(15万円)/アダプティブ・クルーズ・コントロール(43万3000円)/ラゲッジ・コンパートメント・カバー(2万9000円)/アンスラサイトバーチ・インテリア・パッケージ(14万1000円)/フロアマット(3万3000円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:1149km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:269.9km
使用燃料:39.2リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.9km/リッター(満タン法)/7.1km/リッター(車載燃費計計測値)

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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