ランドローバー・レンジローバー ヴェラールSE(P380)(4WD/8AT)
付き合うほどにほれぼれ 2017.09.20 試乗記 「スポーツ」や「イヴォーク」に次ぐ新たなレンジローバーファミリーとして生まれた、ラグジュアリーSUV「レンジローバー ヴェラール」。優美なスタイリングに秘められた走りの質を、3リッターV6ガソリンモデルで吟味した。予想外のコーナリング
これはかつて“ジャギュア”と呼ばれた大型サルーンを駆っているようではないか。軽井沢の白糸ハイランドウェイという森の中のワインディングロードをドライブしながら筆者はそう思った。
乗り心地がしなやかで、静かで快適。同じプラットフォームの「ジャガーFペース」よりも全体的に洗練されている。装備の違いもあるだろうとはいえ、同じV6エンジン搭載車なのに車重がFペースより80kg重い。少なくとも遮音材がたっぷり使われていることは実感できる。3リッターV6スーパーチャージャーの咆哮(ほうこう)が抑えられているから。もちろん、エキゾーストシステムも異なるにちがいない。喉をおさえるようにして、最高出力380psと最大トルク450Nmを生み出す。息づかいに猛獣の片りんを残しながら。
レンジローバー ヴェラールは、SUVとは思えぬハンドリングの持ち主である。穏やかな初期ロールは許すけれど、それ自体実に自然で、そこからさらに深々とロールしてもよいような足まわりなのに、不思議と穏やかなロールのまま旋回を終えてしまう。キツネにつままれたような心持ちがする。
電子制御エアサスペンションの完璧なコントロール具合に加えて、「トルクベクタリングバイブレーキ」の恩恵ではないか、という推測が成り立つ。内輪側にブレーキをかけることで旋回運動を助けるシステムである。急な下り坂で一定の速度を自動的に維持する「ヒルディセントコントロール」をいち早く採用したランドローバーにとって、ブレーキのコントロールはお手の物だろう。
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オフロードの経験が生きている
駆動方式はもちろんフルタイム4WDで、前後トルク配分は50:50を基本とする(ちなみにFペースは通常90%が後輪に伝達される)。だけれど、走行状況を絶えずモニタリングして、電子油圧式のマルチプレート湿式クラッチにより、前後だけでなく、後輪左右のトルク配分をも最適に調整する。ということは、駆動側でも旋回力をつくり出せる。ジャガーのシステムも同様であろうけれど、プログラムは確実に異なる。
オフロードで培った、駆動力を自在に操る技術がオンロードで生きている、ということだろう。砂浜や岩場、泥濘(でいねい)で走り回っていた田舎の少年が、アスファルトのトラック競技をやってみたら意外な活躍を見せた、というようなイメージかもしれない。前後重量配分は、ほぼ50:50である。
試乗を終えてベースの旧軽井沢ホテルに戻ってくると、ヴェラールがたくさんいた。試乗会なのだから当然だ。レンジローバーブランドの第4のモデルとして、2017年、ということは今年3月のジュネーブでデビューしたヴェラールは、「レンジローバー スポーツ」と「レンジローバー イヴォーク」との狭からぬ間を埋めるべく登場したミディアムクラスのSUVである。4×4専業ブランドであるランドローバー/レンジローバーの歴史上、最も“乗用車”に近いとされる。
その、コンセプトカーのようにフューチャリスティックな姿を筆者は、今年7月に東京・有楽町で開かれた発表会で初めて見た。そのときは、「いすゞ・ピアッツァ」のようなツルリンとしたデザインに、これが街を走るのか、と感嘆したけれど、旧軽井沢ホテルの前に並んだ複数のヴェラールをあらためて眺めると、ああ、これは紛れもなくレンジローバーであると思い直すにいたった。
「低さ」は居心地を損なわない
あたりまえの感想にすぎないわけだけれど、彼らレンジローバーをつくる人々はレンジローバーを繰り返しつくっているのである。庵野秀明が繰り返し『エヴァンゲリオン』の物語をつくっているように、あるいはポルシェが、はたまたMINIが、アストンマーティンが行っているように、彼らは彼らのつくるべきプロダクトをただひたすらつくっている。
でも、近づいてよく見ると、全然違う。ヴェラールでいえば、ヴェラールにはあらかじめ「R-DYNAMIC」という別の顔のモデルが用意されている。何が違うって、フロントバンパー下部の造形が異なる。スーパースポーツのような、ライバルでいえば、「ポルシェ・マカン」のようなエアダクトが両サイドに設けられている。ここから空気を取り入れ、フロントのタイヤハウスで生まれる乱流を防いで空気抵抗を減らす役割を担うという。
今回『webCG』で試乗したのは、主にそこのところの造形が控えめなモデルだけれど、カタログにも、ダッシュボードの高解像度10.2インチタッチスクリーンに映し出される外観の画像にもR-DYNAMICが使われているから、むしろこちらがヴェラールの標準型ともいえる。どちらにもそれぞれにいいところがあって、お好みでどちらを選んでもよいように思える。
SUVながらルーフが低いため、乗り降りには最初だけ気を使う。敷居は高いのに、かもいは低いからだ。前席も後席も着座してしまえば、屋根の低さは気にならない。天井が竹を割ったみたいに湾曲してスペースを稼いでいることもある。
で、この「ヴェールをかけた」という意味の――1969年、初代レンジローバーの開発時に、公道をテストで走り回るプロトタイプにダミーで貼り付けられていた「VELAR」というユーモラスな名称を引き継いだ――新しいミディアムクラスのSUVの群れを眺めて筆者が思ったのは、これはいったい誰が買うのだろう……という素朴な疑問なのだった。
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数字をにらんでは悩む
全長4820×全幅1930×全高1685mmというサイズは、本家レンジローバーより185mm短くて55mm狭く、120mm低い。2875mmというFペースと同じ長さのホイールベースは、45mm短い。なるほど確かに小さいのである。
しかれども、この差がいったいいかほどのものであるのか。絶対的にはけっこうでっかいからである。例えば、「ポルシェ・マカン」より、ヴェラールは140mm長くて、5mmだけ幅広くて、60mm高い。いっそ本家レンジローバーを選んだほうが賢明かもしれない……。保守的なおっさんならではの、保守的な考え方である。
しかるに、ちょっと待ってください。レンジローバーは一番安い3リッターV6スーパーチャージドで1337万円もする。今回試乗したヴェラールSEの3リッターV6スーパーチャージドは1081万円。250万円もの差がある。「フォルクスワーゲン・ゴルフTSIトレンドライン」の車両価格分違う。V8だと本家は1657万円で、ゴルフ2台分以上の差がある。本家レンジローバーは横綱級に高いのである。
ヴェラールの一番安いモデルは2リッター直4ターボディーゼルの699万円で、ディーゼルは2017年10月から納車になる。715万円からの直4のガソリンは年内ギリギリだそうだ。これら直4モデルなら、もう少し現実的かもしれない。
お金のことはともかく、レンジローバーというのは自動車好きの憧れの対象である。彼らつくり手はその憧れの対象を練り直しつつ、同工異曲を繰り返しているのである。それゆえ、新しいヴェラールにも、ウッドパネルこそないものの、レンジローバーならではの、英国発ならではの気品というものがやっぱり感じられて、結局のところ、このお尻をクリンともちあげたクーペSUVスタイルのレンジローバーに筆者もまた、「いいなぁ」と賛嘆するひとりにならざるをえないのだった。ごく単純に申し上げて、レンジローバーではデカすぎる、と思っていたひとたちにとって、ヴェラールはまさにピッタンコ。これが欲しいと思わないクルマ好きがいるだろうか。
(文=今尾直樹/写真=郡大二郎/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
ランドローバー・レンジローバー ヴェラールSE(P380)
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4820×1930×1685mm
ホイールベース:2875mm
車重:2060kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ スーパーチャージャー付き
トランスミッション:8段AT
最高出力:380ps(280kW)/6500rpm
最大トルク:450Nm(45.9kgm)/3500rpm
タイヤ:(前)255/50R20 109W /(後)255/50R20 109W(ピレリ・スコーピオン ヴェルデ オールシーズン)
燃費:10.0km/リッター(JC08モード)
価格:1081万円/テスト車=1191万1380円
オプション装備:プレミアムメタリックペイント<シリコンシルバー>(19万円)/InControlリモート(4万円)/アクティブリアロッキングディファレンシャル(19万円)/ヘッドアップディスプレイ(19万円)/コンフィギュラブルダイナミクス(7万円)/インテリアラグジュアリーパックプラス<クロームベゼル付きレザーステアリングホイール+フルエクステンデッドレザーインテリア+サテンクロームパドルシフト>(38万2500円) ※以下、販売店オプション ラグジュアリーカーペットマットセット(3万8880円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:1132km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(8)/高速道路(0)/山岳路(2)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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